安価『良い子』

今まで何度言われただろう。事あるごとに僕はその呼ばれ方をしていた。
最初の頃は勿論嬉しかったから、そう呼ばれたくて、無理にそうあろうとした。
でも、なんだろう。そう呼ばれたからって、逆にそう呼ばれないからなんだというのだろう。
反抗期、と世間で呼ばれている期間は僕にも来て、僕はもうそう呼ばれなくなっていた。

知りたかったんだ。お父さんやお母さんが好きなのは僕なのか、それともその僕なのか。
今となってはそれがあまりにも幼稚な事だって解ってる。
でもあの頃の僕は確かに子供で、わがままで、不器用だった。

「お母さん、他に凝ってるトコない?」
「ん、それじゃ首の方お願い」

小さくなった母が大きく見えて、近頃はまた小さく見える。
僕もやっと少し大人になって、この目の前の小さな背中を支えてあげられるくらいの事は出来るようになったのだ。

「はいっ、おしまい!」
「……ありがと」
「ん、へーきへーき! で、他に何か無い?」
「あたしは何も。それよりアンタこそ、大丈夫?」

子供の頃には、気付けなかった。何よりも自分を大切に思ってくれる人。
いつか……そう遠くない未来、僕もこんな風になれるのだろうか?
僕はもう『良い子』ではなくなってしまった。
けれど、このお腹の子はそう育って欲しいと願って止まない。
反抗しても、やんちゃに育ってもいい。
ただいつか、誰かの優しさに気付けるような……そんな子に。




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最終更新:2008年07月21日 21:53
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