安価『桃』

俺の母方の実家では農家をやってて、色んな果物や野菜なんかを作ってる。
リンゴ・桃・梨・・・キュウリに茄子にトマト。
それぞれ実りの季節を迎える度に畑が色づいていくのが好きだったんだ。

ちょうど桃が色づき始める季節だったかな。
俺は実家に帰ってきていて、大好きな固めの桃を物色していたんだ。
実が音を立てて割れるほど固くて、でも噛めば噛むほど桃の香りが口いっぱいにひろがってく、あの感じがたまらなく好きだった。

幾つかの桃を手に取って、俺は近場の石垣の上で寝転がった。
都会の空とは全然違う遥か高い空は、吸い込まれてしまうような感覚を覚えるほどに綺麗で。
―――それは心の奥底にしまったものまで思い出させられてしまうほどに。

「おーい。 そんなところで何してんの?」

彼の声でふと我に返った俺は、ゆっくりと顔だけ彼に向けて返事をする。
石垣の下の彼は、同い年のお隣さん。 こっちに俺がこっちに来る度顔を見せる暇人。

「・・・・大好きなもので大嫌いなものを忘れられるか・・・・実験中・・・・」
「ふーん・・・・んじゃ俺も」
「・・・・! コラ・・・・狭いだろ・・・・」
「まぁまぁ・・・・ふぁあぁああああ・・・・」

結局のところ真横に寝そべった彼は瞬く間に寝息を立て始めて、俺は小さく口を歪ませる。
全てを知っていながら意識しないでいてくれることが嬉しかった。

「……うぅ…ん…」

頬に桃を当てると身じろぐ彼をかわいいと思ってしまっている自分がいる。
でも、今はもう、そんな自分も嫌いじゃない。 そう思えた。

彼が目を覚ましたら、何を話そうか―――



おわり




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最終更新:2008年07月21日 21:55
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