34 :安価:さよならの時間 コゲ丸 ◆CI4mK6Hv9k :2008/03/19(水) 14:33:13.25 ID:bY+Rn8VwO
古い記憶。 夢。 幻。
酷く既視感を覚えるその場所に、俺は立っていた。
膨らみかけの桜の蕾。 移ろい往く季節の中で、俺達は立っていた。
「・・・いっちまうのか?」
「まぁ、な。 此処にも居にくくなっちまったし・・・な」
「なぁ、やっぱりずっといる訳にはいかないのかよ?」
「それはできないな。 俺はもう・・・女として生きてく」
「そっか・・・もう、決めたんだな」
「あぁ―――」
いつもそこで目が覚める。 もう、慣れたんだ。
そしてその日は一日、言い様の無い淋しさがいつも胸の奥に残ってる。
三月の終わり。 俺は今春、関東の大学へと進学が決まっている。
残り少ない高校と大学の狭間で、全ての準備を済ませ、ただ怠惰な生活を送っていた。
「またな」
耳の奥に残るその最後の言葉も、もう覚えているのは俺だけだろう。
今はもう他の家族が移り住んでいる隣家からは、楽しげな笑い声が聞こえた。
35 :安価:さようならの時間 コゲ丸 ◆CI4mK6Hv9k :2008/03/19(水) 14:34:08.68 ID:bY+Rn8VwO
「暇なら夕飯の買出しに行って来てくれない?」
自宅でのんべんだらりと過ごす俺に、母さんは言った。
出不精という訳でも、断る理由もない。
俺は預かったお札を財布に入れ、家を出た。
もう桜の蕾も開きかけて、中には開いているものもちらほら目に付くようになった。
懐かしい小学校時代の帰り道。 道端で丸まっていた猫はもう…いない。
「よぉ、なぁに辛気くせぇツラしてやがる」
どこかから聞こえてきた声に顔を上げても、周りには誰もいなかった。
きいた事のある声。 でも思い出せない、声。
苛立ちと淋しさばかりが募った俺は、その場を逃げ出すように歩き出した。
―――と、学校沿いの石垣の角から一匹の猫が飛び出した。
真っ白だから、シロ。 昔俺たち二人でつけた名前。
昔の姿そのままのシロが、そこにいた。
そして、薄い桜色のワンピースを纏った、ヤツも―――
「何呆けてんだ? さよならがあったら、次はまた出逢うだけだろ? なぁ親友―――」
終わり
最終更新:2008年07月21日 22:02