インターネットや携帯電話の普及が終わって少し経った頃。人の体は変わろうとしていた。
あの頃、少子高齢化が進んでいて、このままではいずれ人間は滅びると言われていた時代。
子孫を増やそうとした人の体は、無意識に変化を進めていた。
ちょうど高校生の頃…性交遊の体験のない男子が女子へと性転換していった。
私もその中の一人だった…
・・・あれ?何で俺こんなとこで寝てるんだ?
目をこすりながら起きると、そこは友達の家だった。
時計の針は11時をさしていて、かなり高いところまで日が昇っている。
俺は泊りがけでゲームをやりに来たんだ、ということを思い出す。
部屋の中には俺しか居らず、友達は風呂にでも行ったんだろう。と今度は布団をかぶって寝る体制に入る。
俺は紺野マモル。彼女居ない暦=年齢のありふれた高校1年生。
今回冬休みを利用して、幼馴染の家へ遊びに来た訳だ。
・・・といっても家は近いし、本当にゲームの為だけなんだが。
幼馴染は白坂ミツキ。まぁこいつには雨宮サキという彼女がいるのだが、
二人と仲がいい俺は、邪魔にならない程度に遊びに来ている。
---バタン
ミ「…まだ起きとらんのか…」
マ「Zzz...」
ミ「ふっふっふっふっ…」キラーン
マ「Zzz...」
ミ「俺のこの手g(ryァァァーーッ!!!(擽り)」
マ「!?うあひゃっ、や、やめっ!?」
ミ「!!!?」
マ「ハァ、ハァ…何すんだよぉ?」
ミ「ごっごめん!人違いだ!!!」
マ「え?」
よくわからないままミツは部屋を出て行ってしまった。
人のこと擽るだけ擽っておいてなんなんだ?と俺が腹を立てていると、ミツは姉を連れて戻ってきた。
キィー…とドアから首だけ突っ込んで怪訝な表情を浮かべながらこちらを見ている。
姉「…?」
マ「?おはよう、リョウコさん」
ミ「やっぱ姉貴の知り合い?」
リ「いや…私知らないよ?」
マ「ひどいなぁ、マモルですよ」
リ「何言ってんのよ?マモル君は男の子でしょ」
マ「だからぁ…」
ミ「!?姉貴」ヒソ
リ「なに?」ヒソヒソ
ミ「あの頭の掻き方…あれマモルの癖なんだ」ヒソヒソヒソ
リ「…?じゃぁ…」
マ「?」
一体何なんだ?そう思って俺は首をかしげていた。
リョウコさんはすごい勢いで出て行ったかと思うと、すぐさま戻ってきて部屋に入ってきた。
手には化粧に使うような小さなスタンドミラーを持っている。
はい、コレ。そう言って俺はミラーを渡された。
マ「…!!!???」
ミラーには眠たそうな女の子が映っていた。
自分の動きにあわせて同じように動くその子が誰なのか、解るまであまり時間は掛からなかった。
マ「リョ…リョウコさん?」
リ「…♪」
彼女は自分のクローゼットを漁っている。見慣れたはずの服を何着も手に取り、鼻歌を交えて楽しそうにしている。
あぁ…何でこんなことに… そんなことを思っているとクルッと振り向いたリョウコさんが歩み寄ってくる。
リ「マモルちゃん、コレなんかどう?」
マ「あ、あのー…やっぱりいいです」
リ「だーめっ!緩くて穿けないでしょう?」
マ「でも…」
リ「もー、折角女の子になっちゃったんだから楽しまなきゃ」
マ「…ハァ…」
リ「さ、さ、それ脱いで♪」
マ「…」
半ば強引に着替えさせられた連れて来られた俺は、今リョウコさん部屋に居る。
ミツはというと、自分の部屋を片付けているようだった。
俺は久しぶりに入るリョウコさんの部屋をキョロキョロと見回していた。
女の人の部屋って…良い匂いだなぁ… そんなことを思いながら言われた通り服を脱ぐ。
リ「そんなにジロジロ見ないでよ、汚い部屋なんだから」
マ「え?全然そんなことないですよ」
リ「もー、お世辞言っちゃって」
マ「いえいえ、そんな…」
そんな会話をしながらも、俺は服を脱ぎ続けた。
自分の体とはいえ、なんだか変な感じだ。
元々そんなに体毛が濃いほうではないのだが、更に薄くなっているような気がする。
腕も、脛も男のころの面影はない。俺はTシャツまで脱ぐと、限界まで締めたスウェットを脱ごうかと手をかける。
締めた紐を解くと、恥ずかしい事に穿いていたパンツまで一緒に落ちてしまった。
マ「あっ!?」
慌ててTシャツを伸ばしてその場にへたり込む。
今の体格だと、そのままにしていても裾が腰骨の位置くらいまであるのが幸いした。
しかし、リョウコさんはその間も凝視していたようで、俺は顔が蒸発しそうなくらい真っ赤になっていた。
リ「マモル君…」
マ「ひゃっ、ひゃい?」
リ「そのまま脱いじゃっても良いわよ」
マ「えぇっ!?いぁ、それは…」
リ「恥ずかしがる事ないじゃない。さぁさぁ」
マ「うぅ~っ…」
昔から少々強引なところがあるリョウコさんに、俺は今でも頭が上がらなかった。
自分でもまだよく見たことのない体を、ジロジロと見られている。
モジモジと顔を赤くしながら各所を隠す俺を見て、さすがに酷と思ったのかリョウコさんが袋を投げてよこした。
中にはスポーツタイプのブラと、ショーツが入っている。
リ「それ、あたしの高校の時のお古だけど…あっち向いてるから着けてみて」
マ「あっ、ありがとう…」
シュル…と衣擦れの音だけが部屋に響く。慣れない下着の感触に、少し戸惑う自分が居る。
女の子って、こんな下着着けてるんだ… それが最初の感想だった。
少し前まで下着といえばトランクスくらいしか穿いたことのなかった俺には、ピッタリし過ぎて変な感じだった。
取りあえず着る事のできた俺は、リョウコさんに声をかけた。
マ「リョウコさん…着ました」
リ「ん?どれどれ」
そう言うリョウコさんは振り返り、上から下までを見ると満足そうに言った。
リ「あら、ピッタリじゃない!」
マ「そうですか?…なんだか変な感じです」
リ「んー、まぁそれは仕方ない。そのうち慣れるって」
そう言うと、デニムのパンツとパーカーを俺に手渡し、着るように言った。
妙にデニムパンツがピッチリしていて、元々ゆったりとした物しか穿かなかった俺には、とても動きにくいものだ。
それでも何とか着ると、彼女はニヤニヤと俺のほうを見ていた。
マ「な、なんですか?」
リ「え?いやいや、可愛くなっちゃったなぁと思って」
マ「へ?」
リ「ほら、よく見てみなさい?貴方はもう女の子なの」
呆けている俺に真剣な眼差しで彼女は続ける。
リ「いきなりこんなことになって大変でしょうけど…何かあったら来なさい?力になってあげるから」
そう言ってリョウコさんは携帯の番号とアドレスを書いたメモをくれた。
もう、男には戻れない。新しい道を歩かなきゃならないんだ。そう考えたら涙が止まらなくなってしまった。
さまざまな感情は入り混じりながら、頬を伝って落ちていく。リョウコさんは静かに、抱きしめてくれた。
・・・ガチャ
マ「…よっ」
ミ「…」
サ「…マモル…君?」
マ「うん、サキちゃん、久しぶり…でもないか」
リョウコさんに言われてミツの部屋に戻ると、そこにはサキちゃんがいた。ミツが呼んだのだろう。
大きな目をパチクリさせて僕の顔を見ている。ミツは呆然としながら狐に抓まれた様な顔をしている。
まぁ、昨日まで一緒に遊んでた奴がこんな姿になったら誰でもこうなるかもしれないが。
部屋に入って気まずい空気が流れる中、サキちゃんが隣に来て僕の両頬を抓む。
サ「…本当にマモル君?」
マ「うん、残念ながら…」
シュンとなり、苦笑いしかできない僕をサキちゃんが弄くり回している。
髪を手にとって見たり、胸を揉んでみたりしている。突如固まった彼女は、僕に幾つかの質問をしてきた。
サ「去年は私に何のプレゼントをくれた?」
マ「えと…VIP堂のモンブラン」
サ「私のお兄ちゃんの趣味は?」
マ「お料理と…犬の散歩?」
~中略~
サ「じゃぁ最後に…人が?」
マ「○○のようだ?」
サ「…マモル君ね。可愛くなっちゃって…」
正直、彼女は少し嬉しそうだった。僕はホッと胸を撫で下ろすと、サキちゃんに言った。
マ「えっと…明日ちょっと付き合ってほしいんだ」
サ「あら、どうして?」
マ「////ゴニョゴニョ…」
ミ「…?」
サ「…!…ミツキ、明日は私、マモル君とちょっと出掛けて来るから」
マ「ごめんね、ミツ」
ミ「…?あ、あぁ」
ミツは頭の上にクエスチョンマークが浮いていたが、目的を言わないでくれたサキちゃんに感謝だ。
幼馴染とはいえ、下着を買いに行くなんてミツには恥ずかしくて頼めない。
外を見ると、もう日が落ち始めていた。
そろそろ帰って親に事情を説明しないと、今日眠れなくなってしまう。
そこで僕が家に帰ろうと二人に挨拶をして部屋を出ると、階段で待っているリョウコさんがいた。
何かと思って笑いかけると、リョウコさんは紙袋を差し出して言った。
リ「これ、明日の分の下着。後は買いに行くんでしょ?」
マ「リョウコさん…」
リ「ほらほら、そんな顔しないの!あとで返してくれれば良いから。」
マ「…はい…」
そう言って笑い掛けると、ヨシ!と頷いて僕を笑顔で見送ってくれた。
ミツの家を出た僕は、少し遠回りして帰る事にした。ブカブカのスニーカーがなんともぶ格好で、情けない。
昨日までよりも少し低い目線で見る町並みは何故か切なくて、風が目に沁みた。
フラフラと当てもなく歩いていると、懐かしい公園に出た。
まだ小学生のころ良く遊んだ公園。少し遊具が新しくなった以外は前と変わらぬ姿を保っている。
僕はブランコに腰掛けて、色々な事を思い返していた。
鮮やかなオレンジ色の空に、少し雲がかかっている。
自販機で買ったカフェオレの缶が、僕の手を暖めていてくれる。
この公園ではやんちゃな事をした記憶しかなかった。
近所の犬に悪戯をして追いかけられたり、ミツと二人で噴水に落っこちたり…
なんでだか、楽しくて馬鹿馬鹿しい思い出しか出てこないのが少し悔しかった。
空が更に紅くなっている。ボーっと沈んでいく夕日を見ていると、サキちゃんに声を掛けられた。
サ「マモル君?そんな所で何やってるの?」
マ「え、あ、サキちゃん…」
サ「寒いでしょう?女の子が体冷やしちゃダメ。さ、帰ろ」
マ「もうちょっとだけ…」
サ「…フゥ、じゃ、私も付き合う」
マ「サキちゃん、無理しなくても…」
サ「いいの、お話ししよ」
マ「…うん」
そのまま僕たちはお喋りに耽った。
不思議なのは、あまり喋るのが得意ではなかった僕の口からも多くの言葉が出てきたこと。
やはり男の時とは違うことが少しショックだった。
30分くらい経って空が闇がかってきた頃、僕の携帯が鳴った。母さんからの連絡だった。
どこにいるの?といったメールに『弥生公園だよ』という返事をすると、迎えに行くと返ってきた。
どうやらリョウコさんが事情を話してくれたらしく、心配になったようだ。
サ「お母さんから?」
マ「うん、迎えに来てくれるって。サキちゃんも送っていくよ」
サ「ありがとう。助かる」
マ「いや、こっちこそ色々ごめnムグッ」
サ「そういう時はありがとう、なの」
僕たちはそう言って微笑み合い、着いた母さんの車に乗り込んだ。
サキちゃんを送って家に着いて早々、僕は家族総出で迎えられてしまった。
兄も父も、何やら呆けているような感じだったのが気になった。
そのせいか、母さんに各々の部屋に追い返されてしまっていた。
どうやらリョウコさんは結構詳しく説明してくれていたようで、母さんは最初から僕を受け止めてくれた。
母「全くあの二人は…マモルがこんなに可愛くなっちゃったからって…」
マ「ほぇ?僕?」
母「あら、『俺』じゃなくなったのね」
マ「あ、うん。さすがにおかしいってリョウコさんが。まだ『私』には慣れないからアレだけど…」
母「うん、それならまだいいわ。少しずつ慣れていけばいいの」
マ「…うん」
母「戸籍とか保険の手続きはやっておくから良いけど…下着とお洋服はどうする?」
マ「あ、今日はリョウコさんに借りたから大丈夫。それで明日なんだけど…」
母「ある程度買いに行く?お母さんも行こうか?」
マ「あっ、サキちゃんに付き合って貰おうかと思って。」
母「あらそうなの?なぁんだ、ちょっと残念」
マ「ごめんね?で、お金が欲しいんだけど…」
母「ハイ、もう準備してあるわよ。いってらっしゃい」
マ「うん!…ありがとう」
そう言って笑うと、母さんは寒かったでしょう?お風呂に入ってきなさい、と微笑み返してくれた。
僕は、お風呂に向かう前にリョウコさんにメールを打った。電話番号と感謝の言葉を込めて。
返事はすぐに返ってきた。本文には
『登録完了よ!明日から大変だろうけど頑張ってね☆』と入っていた。
僕は何だか嬉しくなって、返信すると鼻歌を奏でながら自分の部屋へ向かった。
…カポーン
そんな擬音が聞こえてきそうな湯気立つ中、一糸纏わぬ僕が鏡の前に居た。
手には安全剃刀。リョウコさんからの入れ知恵で、無駄毛を処理しようとしていた。
腕や脚、腋は問題なくできたと思う。あまり濃くないのにも助けられた。問題は局部周辺だった。
僕は脱衣場に用意したタオルと携帯でリョウコさんに助けを求めた。
『リョウコさん!どうすればいいの?』
『ワキと、腕と、脚をまず剃るの』
『そっちはもう何とか大丈夫!その…下は?』
『下は見た感じそんなに濃くなかったから大丈夫じゃない?』
『え!?みたの!!??』
『そりゃもう、ばっちりと☆』
星じゃないよリョウコさん。そんなことを思いながら僕は体を洗い、流した。
湯船に入ると、肩まで浸かった。
健康上良くはないらしいのだが、やめられない。
一息つくと、自分の体が気になってきた。
一般男子の思考回路を持つとそこに行き着くと思う。
胸もそこそこあるみたいだし、下の方も気になった。
誘惑…というよりも好奇心だろうか。僕は手を伸ばしていた。
無言の空間。静寂の中僕は自らの体を、男の時にはなかったものを弄っていた。
胸は思った以上に柔らかく、先端は敏感だった。自分の息が荒くなっているのが分かる。
片方の手は胸を優しく擽り、もう片方の手で円を描くように局部を触る。
「…ぁっ!!」
声にならない声がでる。男性器の先端に触れた時の様な腰の引ける感覚。
もっと、もっと、とその感覚を体が求めていた。次第にその感覚は大きくなっていく。
手は動きを増し、体の奥から大きな何かが湧き上がってくるような感覚を覚えた。
なんだろう…怖い…そう思った瞬間僕は手を止めた。
(多分、あの先が…)
「マモル!ご飯できたわよ。」
ビクッと一瞬体が浮き上がった。僕ははーい、と返事をしてお風呂から上がった。
お風呂から上がると、いつもより豪勢な食卓が目に付いた。
鳥のから揚げ、イタリアンサラダ、あさりのみそ汁…
僕の好きなものばかりが並んでいる。
いただきます!と隣に居る母さんに感謝しながら箸を取る。
マ「おなかいっぱぃ…」
母「あら、もういいの?…あんまりいっぱい食べても胃がビックリしちゃうわね」
マ「うん…なんだかあんまり食べられそうにない…」
母「そこまで小さくなっちゃったのかしら?」
マ「うぅ~…」
僕は自分の胃にビックリしていた。明らかに食欲が落ちている。
前から女子の弁当箱の小ささには疑問を抱いていたが、自分が体感すると納得である。
自分の分の食器を運び、部屋へと戻った。
携帯のディスプレイには20:30と表示されている。
僕が今日の一日を振り返りつつ、明日の事などで携帯をいじくっていた。
(サキちゃんに連絡して、あとは…リョウコさんにも一応…)
そんなことを考えながらメールを打つ。僕のことを気にかけてくれているのか、返事は早かった。
何通かやり取りをし、携帯を閉じる。どうやら明日は早起きせずに済みそうだった。
すると、頃合を見計らったかのように母さんが入ってきた。
母「マモル、渡しておきたい物があるんだけど…」
マ「うん。なぁに?」
母「はい、コレ」
マ「?」
そう言うと母さんは小さな巾着を僕にくれた。カサカサという音がし、フワフワと軽い。
なんだろう?と疑問に思っていると、母さんが説明してくれた。
母「ナプキンよ。こうやって広げて…ショーツに付けて使うんだけど…そんなの知らないわよね?」
マ「いや、うん、知らない」
母「そりゃそうよね。ま、うん。貴方くらいになると多分初潮なんてすぐ来ちゃうわ」
マ「…うん…」
母「その時あたしが居れれば良いけど…いつも一緒に居られないから、持っておきなさい」
マ「…」
母「いい?もし、お腹が痛かったりしたら言うのよ?その時居るのがあたしじゃなくて
リョウコちゃんでも、サキちゃんでも。力になってくれるはずだから…」
マ「…うん…」
そう言って、母さんは部屋を出て行った。
僕はただ、真剣な母さんの話を真面目に聞いているしかなかった。
自然とサキちゃんとリョウコさんの言葉が反芻される。
《貴方はもう女の子なの…》
《女の子が体冷やしちゃダメ…》
心はまだ男のままでも、もう元には戻れない。
その事実を今、改めて突きつけられたような気分だった。
それから暗い部屋で一人、虚空を見つめてぼんやりと考えを巡らせていた。
マ「さて…と。いくか」
僕はロールアップデニムに短い厚手のワンピ、中にはフワフワのキャミソール、という服装だった。
しかし、出掛けになって気付いたのは自分に合う履物がないということだった。
至急リョウコさんに連絡を取ると、今から来るように、と言われた。
仕方なく小走りで向かうと、手を振っているリョウコさんの姿が見えた。
リ「おはよ~!あらま、我ながらいいチョイスね」
マ「おはようございます。昼間からすみません」
リ「いいのよ。あたしが忘れたんだから。お母さんのじゃ緩くて履けないでしょ?」
マ「その通りでした…(苦笑」
リ「はい、これ。まだヒール高いのは危ないから、低めのやつね」
マ「ありがとうございます…今度、何かお礼しなきゃ」
リ「いいのよ。あっ、でもそうね…自分で選んだ下着、今度見せて!」
マ「ほぇ?いいですけど…」
リ「それだけで十分!ほら、いってらっしゃい!!!」
マ「あ、はい!じゃ、ありがとうございました!ノシ」
リョウコさんは笑顔で見送ってくれた。受け取ったのはピンクの可愛いミュール。
ちょっとしたサンダルみたいな感じで、とても歩きやすいと思った。
歩いていると、何か少し違和感を覚えた。僕は、慣れれば平気かな、と再び歩き出した。
時計を見るとまだ全然余裕があったので、待ち合わせ場所の公園までゆっくり行こうとしていた。
すると、サキちゃんからメールが届いた。
『家に来てくれる?早くてもかまわない…というか早い方がいいんだけど…』
僕は『わかった!もうすぐ着くね』と送ると、サキちゃんの家へ向かった。
マ「やっ、やめてっっっ!」
サ「ふふふ…」
サキちゃんの部屋の中で、僕は逃げ回っていた。
彼女の手には銀色に輝くビューラーとマスカラが握られている。
既に僕の【お化粧】というミッションは終わりを迎えようとしていた。
僕が床を這って逃げ回るもんだから、サキちゃんは立ち上がって歩み寄ってきた。
サ「さぁ、観念するのよ。大丈夫、目を閉じててくれればいいの」
マ「あぁっ!やだやだっ!前のミツみたいになっちゃうよぉ…」
角に追い詰められた僕は、ガシッと捕まえられてしまった。
脳裏にはミツの化粧姿が思い浮かぶ。思い出すだけでもおぞましいものだ。
マ「……」
サ「はい、終わり。あ、そのままね。グロスもやっちゃうから…さ、いいよ」
僕は渡された鏡を覗き込んだ。其処には、意に反した少女がいる。 あれ…?と数瞬の間、呆けてしまった。
マ「サキちゃん…」
サ「ね?大丈夫だったでしょう。マモル君お肌綺麗だし、薄めにしてみました。
ミツには…面白がってかなり厚化粧させちゃったからね。特殊メイクみたいな」
マ「ほぇぇぇ~…凄いなぁ」
サ「気に入ってもらえたかな?さ、行こっか」
そう言って満足げな顔の僕たちは家を出た。
サキちゃんの家を出て1時間。僕の目の前にはパステルカラーが溢れている。
なんて事ない女性向け下着売り場なのだが、やっぱりなんと言うか…近寄れないオーラだ。
サキちゃんはというと、僕の後ろをついて回っている。
まぁ確かに自分でもわかってる。買わなきゃいけないものなんだって。
でも、やっぱり僕はその売り場の雰囲気に圧倒されて入っていけないでいる。
売り場の前を往復する事7回。見かねたサキちゃんが声を掛ける。
サ「マモル君…歩いていても籠はいっぱいにならないよ」
マ「だってぇ…やっぱり抵抗あるよぉ…」
ハァ…とサキちゃんが呆れと母性の混じったようなため息を漏らす。
仕方ないなぁ…と言いたげに僕を連れてパステルの世界に入っていく。
一直線に向かった所は、店員さんのところだった。
サ「すみません。サイズ測って貰いたいんですけど…」
店「はい、こちらへどうぞ」
サ「あの、私じゃなくてこの子なんですが…初めてですんで」
店「え?あ、はい、わかりました」
僕は流されるまま、少し広めの試着室に入った。
とりあえず、至る所にメジャーを当てられ、採寸が終わる頃にはヘトヘトになっていた。
自分では数字がいまいちよく解らず、店員のお姉さんにメモして貰い、それをサキちゃんに渡した。
サキちゃんにある程度見立てて貰い、幾つかを籠に放りこんだ。
しかし、リョウコさんとの約束のため、上下1着ずつ自分で選んでみた。
最初あんなに恥ずかしがっていたのが嘘の様に、女の子を楽しんでいる僕がいて、ちょっと複雑になった。
僕たちは下着と服を買い終わると、ミツの家に来ていた。
リョウコさんとの約束もそうだが、ミツとサキちゃんが今日は会う約束があったらしい。
連絡は済ませてあったので、チャイムを鳴らすとすぐにミツが出てくる。
昨日あんな別れ方をしてしまったせいか、少しドキドキする。恋愛感情とかではないとだけ解る。
まぁ昨日の今日でこんな格好をしていたら、変に思われても仕方はないのだが。
ガチャ
ミ「よう!早かったな。ま、あがってくれ。飲み物買ってくるから、休んでて」
そう言って行ってしまった。ミツの部屋に着くと、僕とサキちゃんは荷物を降ろした。
持ちきれない分を持って貰っていたのだ。いくら衣服といえど大きな紙袋となるとそれなりの重さがあった。
マ「持たせちゃってごm…持ってくれてありがとうね」
そう言うと、サキちゃんはにっこりと笑ってどういたしまして、と言ってくれた。
つられて僕も笑顔になってしまうくらい、素敵な笑顔だった。
ふとお腹に鈍痛が響く。
マ「…?…ちょっとトイレ行って来るね」
サ「あ、うん…!…マモル君!?」
マ「え…?…」
立ち上がって呼び止められた僕は、振り向こうとした。
しかし目の前は一瞬で真っ暗になって、体も鈍い反応しか示さない。
次の瞬間僕はへたり込んでしまっていた。体が重く、言う事を利かない。
サキちゃんが大丈夫!?しっかりして!と言っているのがわかった。
でも、今の僕に返事をする事はできなかった。
僕は暖かい感触で目を覚ました。
子供の頃のお母さんの掌の様な優しい感触。それにすがり付いて起きた。
どうやら僕は5分と寝て(気を失って)いなかったらしい。サキちゃんの腕の中だった。
マ「あれ?サキちゃん…リョウコさんも…」
サ「良かった…」
リ「軽い貧血みたいね。さ、お風呂いこっか?」
マ「え?……あ///」
僕はサキちゃんの肩を借りながらお風呂へ向かった。まだ少し鈍痛は続いている。
どうやらサキちゃんは、僕が立ち上がった時にシミを見つけたようだ。
そしてリョウコさんに僕を預けると、軽く絞ったタオルを持ってミツの部屋へ向かった。
僕は恥ずかしさと股間の違和感で真っ赤になりながら俯いてしまった。
リ「ん?どうしたの?恥ずかしがる事ないじゃない。むしろおめでたい事でしょ?」
マ「で、でも…」
リ「あー…まぁ最初はね…誰でも失敗はあるわよ」
マ「…///」
リ「でもウチでよかったわね?」
マ「あ…それは…はい。サキちゃんにもっと迷惑掛けちゃうところでした」
リ「うーん、道端で倒れられたらさすがにちょっと困るかもね」
マ「お騒がせしました///あ、それと…」
リ「なぁに?」
マ「その…下着…今日は見せられなくなっちゃって…」
リ「いいのよ、仕方ないわ。さ、簡単にシャワー浴びてきなさい。清潔にしなきゃ」
マ「あ…ありがとうございます」
僕がシャワーを浴びて出ると、今日買った下着と赤く染まったタオルを持ったサキちゃんがいた。
それを見た僕は、赤面がぶり返してしまった。
サキちゃんにナプキンのつけ方を説明して貰い、つけてみた。
なんとも言えない、感じた事のない違和感がある。…すごく歩き難い。
ギクシャクと蟹股のような歩き方になってしまう。
サキちゃんはそれを見てクスッと笑い、最初は誰でもそうなるの、と言ってくれた。
階段を上がっていると、ミツが帰ってきた。よかった…まだ帰ってなかったんだ。
そう考えていると、サキちゃんが僕に囁いた。
サ「…お姉さん、ミツヤにアイスも買ってくるように言ったのよ。
彼もう家の近くまで帰ってきてたのに…ね」
マ「え?…あ、そうか。リョウコさん…」
サ「ふふっ、あの人凄いよね」
本当にそう思った。吹き抜けの向こう側でリョウコさんは僕にVサインを出している。
リョウコさんありがとう…そう思いながら笑いかけると、彼女もまた、笑顔を返してくれた。
僕とサキちゃんが部屋に入ると、ミツも後を追って入ってきた。
ミ「…ったく、疲れた…」
マ「ご苦労様。わざわざありがとね」
サ「まぁ、これでも飲んで落ち着きなさい」
ミ「いや待て、買ってきたのは俺なんだが…」
サ「あらいらないの?じゃあマモル君、二人で飲んじゃおっか?」
ミ「あぁっ、いります!飲ませてください」
マ「あははw」
そんないつもと変わらない空気がそこにはあった。
家に帰ると、お赤飯が食卓に並んでいる。
エプロン姿のお母さんが、居間に入った僕を見てニコニコと笑っている。
苦笑いをしながら、僕はそのまま荷物を置いてテーブルについた。
夕飯を終えた僕は、食器洗いを手伝いがてら、気になっていた事を聞いた。
マ「ねぇ母さん。…なんでこんなに情報が早いの?」
母「ん?だって私、リョウコちゃんとメル友だもの。」
マ「えっ!?」
母「あら、知らなかった?」
マ「スゴイ初耳なんだけど…」
母「私が携帯を持ち始めた頃かしら。ほら、白黒からカラーになる頃。
コンビニでリョウコちゃんに
会ったの。それで、その時に色々な話になって、私がメールが苦手だって言ったの。そしたらね、
『メールは慣れです。数打てば慣れるのも早いです』って言って、『私とメールしましょう』って。
そこでアドレスを交換して、それが今も続いてるの」
マ「へぇ、なるほどねぇ…」
母「うふふ、リョウコちゃん、面倒見いいわよね」
マ「うん、色々と…最近は特に…お世話になってる。さてと、私シャワー浴びて部屋に行くね?」
母「はいご苦労様。ゆっくりしなさい。あ、明日の分、私の引き出しに入ってるから」
マ「あ、うん。ありがとう」
僕はそう言ってシャワーを浴び、部屋に戻ると、タンスやクローゼットの大部分を片付けた。
今となっては大きい男の頃の服を見ているとまた少し泣けてきたが、ぐっと堪えた。
よく考えると、身長が15cmくらい縮んでしまっている事に気付いた。
サキちゃんと同じ高さの目線という事を考えると、155くらいだろうか。
今日の荷物の事といい、身長の事といい、悲しくはないが残念だった。
―――女体化してから1週間が経った。
僕は次第に女の子の服にも慣れ、おおよその手続きが終わった頃。今日はクリスマス・イヴだ。
あれから毎日のようにミツの家へ通い、お化粧などをリョウコさんに教わっていた。
彼女は就職先も決定し、彼氏もいないようで、いつでもいらっしゃい、と言われ、ちょっと甘えてしまった。
そこで恩返しをするべく、外食の誘いをしてみた。そんなのいいよ、私も楽しいんだから。
そう最初は言っていたが、僕の押しが予想以上だったのか、OKしてくれた。
僕は、高校1年が終わったら転校することになった。父さんの仕事の都合で、北海道だそうだ。
まだ時間があるから、と親と先生には口外しないで貰っている。
新年明けてから、新居を探しに行く事もあって、リョウコさんとゆっくり会えるのも今日が最後。
伝えなければならない事が、僕にはあった。
僕は今、ちょっとお洒落なレストランに行くため、ワンピースに着替えている。
まだ脚をさらけ出すのには少し抵抗があったが、今日の為に買ったものなので惜しまずに着てしまった。
胸元にビーズのアクセントのある、黒い大人しめのワンピース。…リョウコさんは喜んでくれるだろうか?
着替え終わった僕はコートを持ち、軽くお化粧をして家を出る。もう外は暗くなり始めていた。
足元のヒールはまだちょっと歩き難いけど…慣れないと。バッグには、プレゼントも買ってある。
ワンピースの緊張とお食事のドキドキとで、僕は足早にリョウコさんの家へ向かった。
家の前でサキちゃんとミツに会った。や!と声を掛けると二人が笑い掛けてくれる。
マ「二人とも、これからお出かけ?」
サ「そうなの。ワンピース、似合ってるわ」
マ「へへー///ありがと//////」
ミ「うーん…あのマモルが女にしか見えない!(サキの脇腹エルボー!)…モルスァ!!!」
マ「ふぇ?ミツ?どしたー?」
サ「マモル君、お姉さんと食事だって?ふふ…頑張って来てね」
マ「うん。…ありがと、サキちゃん!」
サ「じゃ、私たち行くね」
マ「じゃーね!ノシ………僕、ちゃんと笑えてるかなぁ…」
二人と別れた僕は、チャイムを押した。
―――ピンポーン…ガチャ
リ「あ、マモル君?鍵持って来るからちょっと待っててね」
マ「はい」
今日はリョウコさんの車での外出だ。すぐに戻ってきた彼女の車に乗り込む。
ワインレッドのコートがとてもカッコイイ。
発車すると、よく分からないが洋楽が流れてくる。足元からの暖房が心地よい。
リ「今日はお誘いありがとうね」
マ「いえ、僕の我侭ですからそんな、とんでもないです」
リ「だって折角のクリスマスなのに…いいの?あたしみたいなおばさんとで」
マ「リョウコさんはおばさんなんかじゃないですよ…」
リ「そう?そう言ってもらえると嬉しいかな」
あんまり綺麗な笑顔で微笑むものだから僕が照れてきちゃったのは内緒。
それから程なく今日の目的地へと着き、駐車場に車を止める。
ここ『kwsk-vip』は、最近注目されてるレストラン。狭めの店内だが、内装はとてもお洒落。
店内に入って予約した名前を告げると、少し奥の2人用のテーブルに案内される。
リ「ここ、結構高そうね。大丈夫?」
マ「大丈夫です。こう見えて、結構リーズナブルなんですよ」
リ「あら、そうなの?へぇ~…ん?どしたの?」
マ「えへへ、リョウコさん、綺麗だなぁって思って」
リ「あ、ありがと…///でもマモル君も今日素敵ね。」
マ「え?あ、ありがとうございます…//////」
その言葉が、とても嬉しかった。リョウコさんのために着てきたんですよ。と言うと、
なぜか照れたように赤面する彼女がいた。
コースの料理も終盤を迎え、僕たちはデザートに舌鼓を打っていた。
女の子になってから、甘いものや酸っぱいものが好きになっていた。
リ「…ん~…これも美味しい♪」
マ「ですね。喜んで貰えて良かったです」
リ「うん、ありがとうね。クリスマスを寂しく過ごさず済んだ!」
マ「そう言って貰えて、嬉しいです。あ、そろそろ出ましょうか」
リ「そうね、私は先に車に…本当にいいの?」
マ「いいんです!さ、行きましょう」
そう言って押し切った僕は、会計を済ませ、店を出た。
車に乗り込むと、どこかに行こうか?と聞かれた。僕が夜景が綺麗なところ、と言うと、笑ってOKしてくれた。
それから30分くらい走っただろうか。少し山道を走ると、高台に出た。眼下には綺麗に彩られた町の姿がある。
どう?綺麗でしょ。ここあたしのお気に入りなんだ。そう言ってリョウコさんは景色に見入っている。
僕はバッグから細長い箱を取り出すと、彼女に手渡した。
マ「メリークリスマス…リョウコさん」
リ「え?あ、ありがとう…あ、これ、あたしから…」
マ「あ、ありがとうございます…」
彼女は少し大きめの包みを僕にくれた。まさか貰えるとは思っていなかった僕は、とても嬉しかった。
二人でプレゼントを開けると、彼女の手元には腕時計。僕の手元には香水のビンがあった。
香水は、『レッドジーンズ』。深く、甘い香りがする。彼女は時計を見て柔かく微笑む。
リ「可愛い時計…」
マ「あはは///少し子供っぽかったですか?」
リ「うぅん、ありがとう…すごく嬉しい…」
マ「…よかった…」
夜景をバックに見る彼女は、とても輝いていた。
色々考えると零れ落ちてしまいそうな涙を、僕は必死で我慢していた。
笑顔の仮面は、砂時計のように零れながら落ちていっているのに…
マ「今日は寒いですね…そろそろ帰りましょうか」
リ「そうだね…いこうか」
マ「…はい」
家に近づくと、リョウコさんは家まで送っていこうか?と聞いてきた。
僕がちょっとお邪魔して行っていいですか?と言うと、快くOKの返事を貰えた。
リョウコさんの家に着いて車を降りると、一匹の猫がいた。
後から行きます、とリョウコさんに伝えて傍に駆け寄ると、足元に摺り寄ってきた。
抱き上げて目を見ると、猫は何もかも見透かされそうな瞳でこちらを見る。
マ「…フゥ…僕ね、今から大切な人に伝えなきゃならない気持ちがあるんだ。
君の大切な人はだぁれ?僕の大事な人はさっきのお姉さんだよ…
あぁ…このまま時間が止まればいいのになぁ…」
そう言っても、猫は首をかしげてしまうばかりだった。
その時、遠くから何かを呼ぶ声が聞こえてきた。猫はその声に反応した。
?「…バーロー?バーロー?…」
マ「君、バーロー君って言うんだ。さ、君の大切な人のところへお行き…」
そう言うと、バーローは『ナァー』と一鳴きして声の元へ戻っていった。
僕は、きゅっと唇をかみ締めて家に入っていった。
家に入ると、二階から部屋だよ、おいで、と言われた。
僕が部屋に入っていくと、リョウコさんはソファに腰掛けている。
彼女は、ま、ゆっくりしてよ、と笑顔で言う。僕はコートを脱いだ。
マ「リョウコさん、ひとつお願い…聞いてくれますか?」
リ「ん?いいよ。あたしに出来る事ならなんでもしてあげる」
マ「良かった…その前に、約束の自分で選んだ下着、見てください」
リ「あぁ…うん、見せて」
僕は、脱ぎだす。そこにあるのは静寂と視線。
肌を衣が伝う音だけが響く。
マ「どう…ですか?」
リ「うん………綺麗だよ」
マ「嬉しい…それで、お願いなんですけど…」
リ「ん?なぁに?」
心臓が今にも飛び出そうなほど、体の中で暴れる。
ふと目が合うと、もう、この気持ちは止まらない。
僕はリョウコさんの胸に飛び込んで、言った。
「僕、ずっとリョウコさんが好きでした…中学校の頃…好きって気持ちに気付いて…
それから一緒に話すたびに気持ちは大きくなっていきました。
それで、今年のクリスマスこそは…って思ってたのに…
僕、男の子じゃなくなっちゃって…だから!…今日だけでいいんです…」
「今日…今…僕を……………抱いてください…」
マモル「今日…今…僕を……………抱いてください…」 | |
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→ | リョウコ「…ゴメン、やっぱりそれは…」 |
リョウコ「………わかった…そこに…横になって?」 |
マモル「今日…今…僕を……………抱いてください…」 | |
---|---|
リョウコ「…ゴメン、やっぱりそれは…」 | |
ピッ→ | リョウコ「………わかった…そこに…横になって?」 |
「………わかった…そこに…横になって?」
部屋の明かりが消え、そこは月明かりにのみ照らされた空間になる。
暗闇の二人はそっと口付けを交わし、女が唇を離すと唾液がツツ・・・と二人の口を伝う。
少女の強張った身体を解そうと、女は二度、三度と口付けをしていく。
舌を交わす濃厚な口付け…慣れてきたのか少女も舌を絡ませてくる。
二人の吐息と唾液の響音。静寂の中何度も重ねられる唇と唇。
次第に二人の息は荒くなり、少女が女の耳元で囁く。
「ハァ・・・ハァ・・・・・・・・・リョウコさん・・・もう・・・」
女は少女の下着を脱がせると、彼女の性感帯を愛撫していく。
時に舌で擽り、時には掌で優しく撫でる様に・・・
少女は徐々に抑えきれない声を吐き出すようになっていく。
「マモル君・・・脚、開いて?」
それに頷き、開かれた脚を押さえた女は、彼女の秘部にそっと舌を這わせる。
大陰唇から小陰唇へ、そして陰核へとゆっくりと動かされる唇と舌。
チュパ・・・クチュ・・・と淫靡な音が産み落とされる。
「ここ、こんなになってる・・・・・」
「あっ・・・いやぁ・・・言わないで・・・・・・・あぁっ・・」
女の手や口は加速し、少女の喘ぎ声も比例して大きくなる。
少女という器に注がれていく快感は、遂に溢れ出していた。
少女は身体を小さく震わせながら、夢を見ていた。目には涙を浮かべている。
―――少女は闇の向こうに光の扉を見ていた。
扉の手前には、男だった頃の自分が立っている。
少女が男の自分に別れを告げると、彼は少女を光の方へと押し出す。
闇の扉は少年によって閉じられ、少女は光の道を歩き出した―――。
私は幸せにリョウコさんの腕の中にいた。
マ「リョウコさん、ありがとう・・・」
リ「ん、いいのよ・・・」
マ「私ね、今度・・・1年生が終わったら引っ越さなきゃならなくなったの」
リ「えっ?!」
マ「それで、もうすぐゆっくり会えなくなっちゃうから・・・」
リ「なっ・・・」
マ「無理な事言ってごめんね?気持ち押し付けちゃってごめんね?
一日つき合わせちゃってごめんね?今日はどうもありがとう・・・私今、すっごく幸せ・・・」
リ「マモル君・・・」
マ「あっ、それから、この事はまだミツとサキちゃんには言わないでね?
最初にリョウコさんには言っておきたかったの」
リ「マモルk…」
マ「それと・・・私がいなくなっちゃう日まで・・・今まで通りにお話ししてね・・・?」
リ「・・・当ったり前じゃない・・・」
マ「よかったぁ・・・安心したぁ・・・」
私は、とても優しい腕の中で眠りについた。この温もりを忘れない限り、生きていける。
私は私でいられる。そう思った。
――――――fin―――
(おまけ)
マモル「今日…今…僕を……………抱いてください…」 | |
---|---|
ピッ→ | リョウコ「…ゴメン、やっぱりそれは…」 |
リョウコ「………わかった…そこに…横になって?」 |
リ「…ゴメン、やっぱりそれは…」
マ「そう…ですか…」
僕は服を着て、家を飛び出した。
リョウコは後を追って飛び出した。しかしマモルの行方はわからず、時は過ぎていく。
リョウコがマモルを発見したのは2時間後だった。
公園のベンチに座るマモルにやっと見つけた!と駆け寄る。
しかし、そこでリョウコが見たのは、乱暴をされ、涙に濡れながら 心も体も無惨にボロボロにされたマモルの姿だった…
冬の公園に、リョウコの悲鳴が木霊した・・・
――BAD END――