無題 2007 > 01 > 14(日) コゲ丸

僕たちは喧騒の中を歩いていた。行き交う人々は、皆忙しそうに歩いている。
今日は僕がこの地を発つ日だ。家族は先に向こうへ着いていた。
高校も春休みに入り、ちょっとずつ暖かくなってきている。

住み慣れたこの場所を離れたくはなかった。仲の良い友達とも離れたくなかった。
それでも僕は、行かなければならなかった。そして今、駅の中を歩いている。

マ「・・・ぷぅー、後は乗るだけだ。っていってもあと二時間近くあるんだけどね」
サ「あらいいじゃない。その辺りのお店でゆっくりしましょ?」
リ「そうね、丁度お昼だし軽く何か食べようか。ミツキ、あそこに荷物運んで?」
ミ「はっ!わかりましたお姉さま!」

なんだかやっぱり変なミツだった。またどうせ人生ゲームか何かで負けたのだろう。
駅に着く前から言動がおかしい。
僕たちは駅ビルの中のファーストフード店に立ち寄った。壁には『新発売☆テラVIP』と書かれている。

店に入ると、サキちゃんが店内を見て言った。

サ「え?カナ・・・ちゃん!?」
叶「咲ちゃん!?」

僕とミツは知らない人だった。整った顔をした綺麗な子だ。サキちゃんとその子はどんな関係なんだろう?
色々考え事をしながらも注文を済ませて、列を抜けた。サキちゃんが僕とミツを手招きしている。

サ「こちらは杉野叶さん。人づてに知り合った友達なの。」
叶「二人ともよろしくね!」
サ「それで、こっちの優男がそれとなく彼氏の白坂ミツキとお姉さんのリョウコさん。
  ・・・そしてこっちの美少女が私の彼女の紺野マモル君」
ミ「ちょ、おいおい!」
マ「サキちゃん…(//////」
リ「よろしくね」
叶「なるほど…三月君に諒子さんに葵ちゃんね・・・サキちゃんも相変わらずやるわね!」
ミ「えぇ~!?そこつっこまないんだ・・・」

サラリと言い流すと、サキちゃんまたはカナエちゃんと喋り出した。
僕たちは商品を受け取って店の奥の方の席についた。
8人掛けの広いテーブルだ。どうやらカナエちゃんの連れも来るらしい。
僕たちは会話を楽しんだ。カナエちゃんは、元気で明るそうな子だ。
女の子ながらもサバサバしていて、とても話しやすかった。
暫くすると、若い男女がやってきた。何故か制服を着ている。見たことのない制服だ。

叶「あ、薫ちゃん、こっちこっち!」

カナエちゃんがこっちに二人を呼んだ。女の子の方は、心なしか眠そうにしている。
トレイを受け取った二人がこちらに来た、その時だった。前を歩く女の子の飲み物とハンバーガーが宙を舞った。


・・・薫は転んだ。

しかし、舞ったはずのトレイと飲み物、そしてハンバーガーが床には転がっていなかった。
トレイは後ろの男の子が、飲み物とハンバーガーはサキちゃんとカナエちゃんがそれぞれ掴んでいる。
なんという反射神経。何事もなかったかのように立ち上がったその子と男の子は、席に着いた。

叶「こっちのドッ変態な男は三浦崇。で、転んだ子が相原薫ちゃん。私の彼女」
崇「ちょ、まだそのネタひっぱるのか!?っつーか知ってる人いんのかよ…んで相原が彼女ってn」
薫「…彼女の相原です、よろしく(ペコリ」
崇「認めるのかよ!?」
叶「でね、こちらの方々が…というわけ。で、なんで制服なのよ?」
崇「監督が薫に女子の制服着せたいって騒いで・・・とばっちり?」
薫「三浦だって監督に加勢してたじゃないか。・・・変態・・・」
叶「へぇー・・・さっすがドッ変態ね。薫ちゃん大丈夫だった?」
薫「うん、母さんも喜んでたし・・・叶ちゃんと一緒だから大丈夫」
崇「あのー、お二人さん?」
叶「薫ちゃん・・・」
崇「はぁ・・・まぁよろしく!」

一通り挨拶を済ませると、また流れは戻った。
カオルちゃんもタカシ君も、この場にすんなりと溶け込んでいた。







~サキと叶とミツと崇のテーブル~


サ「でも今日はどうしたの?いきなりだったからビックリしたよ」
叶「うん、それが監督に言われてきたの。行けばわかるからって」
サ「そうなの・・・でも、会えて嬉しい」
叶「そう言ってもらえると私も嬉しいなぁ」

ミ「・・・なぁ、タカシ君。監督って何?サキと君たちの関係がいまいちよくわからないんだけど・・・」
崇「崇でいいよ、三月。それなんだけどな。大人の事情とやらで話せないんだ」
叶「そうよぉ、詮索はいけないわよ?一応咲ちゃんの彼氏なんだから小さなことくらい目を瞑らないと」
サ「そうよミツキ。一応私の彼氏でしょ?ドッシリと構えなさい」
ミ「ちょw一応一応言いすぎ!」
崇「うん、あれだな。三月は他人な気がしない」
叶「それは同族相憐れむってものよ。つまりはいじられ役?」
崇「いじられ役って・・・そんな事ないよな三月!?」
ミ「・・・(遠い目)・・・」
崇「うぉい!そこちゃんと否定しないと!」
サ「いい子ねミツキ。後でご褒美をあげるわ」
叶「さすが咲ちゃんね。雨と鞭の使いどころが半端じゃないわ」
崇「くっ・・・俺の周りはこんなんばっかりか・・・」







~薫とマモルとリョウコのテーブル~


リ「大丈夫だった?頭打ってない?」
薫「あ、ハイ大丈夫です。・・・ありがとうございます」
マ「・・・カオル君も女体化しちゃったんでしょ?・・・僕もなんだ・・・」
薫「あ、そうなんだ・・・大変じゃなかった?」
マ「うん、最初ミツの家で女体化しちゃって・・・リョウコさんに色々助けて貰ったの」
薫「そうなんだ・・・僕は隠して学校に通ってるから大変だよ。学生服暑いし」
リ「そうなの・・・大変だったわね・・・マモル君は休み中だったものね」
薫「へぇー、葵君休み明け大変じゃなかった?」
マ「うん、最初は皆に驚かれたよ。告白とかもされちゃったり・・・」
薫「で?どうしたの?僕らの学校そういうのが酷くて・・・」
マ「全部お断りしたの。まだそういうの考えられなくてね」
薫「そうだよね・・・僕もそういうのが怖くてだめだなぁ」
リ「カオル君もマモル君も、自信持って思ってること言っちゃえばいいじゃない。
  男の子は女の子に嫌われたくないものなんだから、ちゃんと言えば大丈夫よ。
  あとは、サキちゃんとカナエちゃんを大事にすればすぐに女の子の友達も出来るわよ」
薫「諒子さんは女体化したお友達はいたんですか?」
リ「中学の頃一人、ね。高校までは一緒だったけど・・・今は遠くで働いてるはずよ」
マ「僕もうまく友達作れるかなぁ・・・」
リ「まず一人と仲良くなって、クラスに馴染めれば大丈夫よ。マモル君可愛いもの」
薫「まずは一人と・・・か・・・葵君僕とメールしよ?色々相談とかもしたいし・・・」
マ「うん、よろしくね!」







ふと時計を見ると、時間まであと30分という所だった。
僕はみんなにもうすぐだから、そろそろ・・・そう伝えると皆が見送ってくれるらしかった。
僕はミツから荷物を受け取ると、改札を通る。皆は柵一つ向こうで手を振っている。

サ「元気でね。たまには連絡、頂戴ね」  叶「じゃぁね!またいつか!」
ミ「頑張れよ!たまには遊びに来い!」  崇「風邪引くなよ!」
リ「気をつけてね。いってらっしゃい」  薫「また・・・逢おうね」

みんながそれぞれに言葉を投げかけてくれる。僕はこみ上げるものを飲み込んで言った。

マ「じゃ、僕、行くね!」

そして僕はホームへの階段を上った。人の少ない静かなホームに着くと、僕は手で顔を覆った。
皆の顔が思い出される。まだ冷たい三月の風に吹かれながら、立ち尽くす。

マ「だから・・・見送らなくていいって言ったのに・・・」

プルルルルルルルルルル・・・『間もなく、3番線に、下り列車が参ります・・・』
アナウンスが鳴り響くホームに、みんなはいない。
僕は重い荷物を抱えて、電車に乗り込んだ。




           ―――fin―――

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最終更新:2008年07月21日 22:13
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