『濃厚エロな厨二病STG』2+踏まれ台

何十、何百という何かが飛び交っている。
片方は、青白い円錐状の光。
もう片方は、赤い球体状の光。
光は互いにぶつかり合い、その力を相殺する。
青白い光を操るのは、銀色の髪を持つ少女。
赤い光を操るのは、どこにでも居そうな、普通の青年。
ただ一つ、『普通』では無い部分をあげるとすれば、その瞳に宿る狂気。
既に他の感情は無いかのように、その瞳は狂気のみを宿している。
「…飽きた」
ただ一言呟いて、少女は撃ちだす光の数を倍増させた。
狂気を宿す青年は、その光に対応しきれずに徐々に押されている。
「―――。」
全てが狂気に飲まれているのか、その口からは言葉になっていない
呻きのような狂気の言葉だけが吐き出されている。
「これで…ラスト!」
周囲に展開された青白い光を一つに収束させていく。
一つに収束されていく光は、青白い球体となって、少女の両の手のひらで輝いている。
「bluelance…――radiate!」
少女の発するキーにより球体はその形状を変え、一つの長大な蒼槍となり、射出された。
「―――!」
狂気が何かを叫んでいる。
狂気の叫びにより、赤い光達は槍へと突進していくが、
強い力と、速度により、赤い光は槍へ触れる事すら許されず、
一つ、また一つ消えていく。

勝敗は一瞬。
槍の一撃により、狂気を、青年ごと吹き飛ばした。
「……ごめんね」
内に潜むモノと呼ばれるモノに侵食されれば、元の人格が戻る事は無い。
侵食されるということは、その人間の人格、およびその人間の死を意味する。
――誰だって、好きで人だったモノを殺したくなんて…ない。
心に浮かぶのは、青年への謝罪と、助けられない自分の未熟さと、退魔の限界への怒り。
――願わくば、あなたに平穏な安らぎを…。
少女は毎夜祈る。
この手で摘んできた、かつて人であったモノ達への、魂の安らぎを。

「聖(ひじり)お嬢様、お疲れ様です」
幼い頃から、ずっと一緒に過ごしてきたメイドの一人が、声をかけてくる。
「……疲れてなんていないわ」
そうだ、あれくらいで疲れたなんて言えるわけがない。
退魔の家系として、最上級に位置する蒼条の後継者として。
そして、内に潜むモノに侵食された、罪無き人達のために。
この日々は、いつになれば終わりの時が来るのだろうか。
疲労した心を引きずりながら、今日も一日が終わる。


「ん…んーーーっ!」
本棚の上にある本に手が届かない。
もう少し背が伸びたら、色々と便利なのに。
150cmっていう身長と、この童顔のせいで…何度中学生に間違われた事か…!
私はもう高校生だっていうのに…。
「お嬢様、台を持ってまいりました」
メイドの一人が気をきかせてくれた。
――うんうん、さすがは我がメイドね。
なんて思ったのも束の間、メイドは台なんて持ってるようには見えない。
「…台は?」
またか?またなのか?
「台ならあります。それは…私ですっっ!!」
胸を張って言うな、胸を張って。
「さぁお嬢様っ!踏んで!私を踏んで本をっ!」
…はぁ。
「あーはいはい…それじゃ、失礼するわね」
このメイドときたら、「踏んでください!」とか「罵ってください!」とか…
事あるごとに変態的なお願いをしてくる。
いい加減、踏む踏まないで時間をかけるのもバカらしくなってきた。
「あぁっ!お嬢様っ…お嬢様の綺麗な足が私をっ!」
すっかり悦ってるらしい。
コレさえ無ければ性格に問題は無いし、仕事は異常なまでに完璧にこなす…
手放すには惜しい人材ではあるが…困ったものだ。
「お嬢様っ!もっと!もっと強く!」
「いい加減にしろっ!」
言うが早いか、頭にカカト落としを決めてやった。
「あいたーっ…お、お嬢様…す、素がでてますよぉ…」
おっと、いけないいけない…蒼条の人間たるもの、常に冷静で華麗でなければいけない。反省反省…。
「さ、さぁお嬢様…続きを…」
このメイドは…ッ!
「この…ヴァカメイドおおおおおお!」
全くこのメイドは…私が落ち込んでると、すぐに気付いて
こうやって私を元気付けるのだから、クビになんて出来ないじゃんか。


メイドを踏んづけて取った本を持って、自室に戻ってきた。
この世界に退魔の力を持つものは、限られている。
自ずと、退魔の家系に生まれ、その力を解放された者は
両親とは別に暮らし、任命された土地を守る任に当たらなければならない。
まだまだ退魔としては駆け出しの私。
父のくれた退魔に関する蔵書がなければ、どうなってたか判らない。
私は、寝る前の1時間を退魔に関する勉強にあてている。
30分勉強して、ちょっと休憩して、もう30分。
これが読んで理解して記憶するには、一番効率が良い。
休憩中に、友人から電話がかかって来た。
『ねぇ、明日くる転校生ってどんな人かな?』
『んー、どうだろうね。女の子って聞いたけど』
『面白い子だと良いねー、ちょっと楽しみ。お友達になれると良いなー』
『そうだねぇ、お昼にでも誘ってみよっか』
明日くる転校生の話題。
正直言えば、それほど興味は無いんだけど、とりあえず合わせる事にした。

人は、いつ侵食されるか判らないから、深入りはしない。
かつてのように、仲の良かった友人を手にかけるような
あの時のような思いは、もうイヤだから。
消えない後悔を振り払うように頭を振り。
今日は、もう寝る事にした。


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最終更新:2008年08月02日 03:45
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