安価『行灯、星、蛍、祭り』

山奥にある、小さくてひっそりとした存在の古森村。
普段から来客も来ないうえ、住民なんて300人足らずというもの。
しかし、いつからなのかは知らないが夏の終わりには必ず盛大な祭りが開かれる。
 ・・・それが故、中学卒業した男子は強制的に春から準備をさせられるのだが。

「ねぇちゃーん!祭り行こうよーっ!」
「馬鹿ッ・・・俺は兄だ!」
浴衣を着て馬鹿みたいにはしゃいでいるのが俺の妹のあずさ。で、"今の"俺の名前は菜々実。
何故、俺が"お姉ちゃん"と呼ばれてるかというと、簡単に言うと女の子にが変わってしまったのだ。
あり得ない話なのだが、事実なのだから仕方ない。
そのおかげで祭りの準備はしなくて済んだのはありがたい話なのだが・・・。

俺とあずさが家を出ると、隣の家に住んでいる智則がいた。
「よう。」
「よ。」
さりげなく俺と智則は挨拶を交わす。
「さ、おちびちゃんをつれて祭りに行くか。」
「おちびちゃんじゃないもん!」
「まぁまぁ・・・智則もそんなからかうなって。」
智則があずさにちょっかいだして、その間に俺が入っていく。これはこの3人が集まると必ずというくらい始まる・・・。
「しかしお前が女になって浴衣まで着るとか俺は思いもしなかったぜ」
「当の本人の方が未だに現実を信じられないで居るよ・・・。」
「あっ、ママだー」
俺と智則が話をしてると、あずさは興奮して子供会の家を指差す。。
俺のお母さんは子供会の会長を務めてるため、何かあると子供会に収集される。
「んじゃあずさは遊んでこい。俺らは別のとこ行ってるから。」
「はーい」
そう言うと、あずさは走って子供会に入っていった。





「・・・で、俺らどうする?」
「どうするったって・・・やることないもんなぁ。」
祭りの夜の光といえば、行灯の屋台の行灯程度の光しかないが、そんな薄暗い感じの行灯の光がこの村の祭りになぜか合う。
あと光る物・・・って言ったら、夜空を瞬く数え切れない程の星々くらいか。

俺らは屋台で買ったたこ焼きをほおばりつつ、祭りから離れた川縁まで来てしまった。
 ・・・・智則について行ったらここまで来てしまったと言うべきか。
「疲れただろ。腰おろせよ。」
と、さりげなく智則が気遣ってくれた。
「あ、あぁ。でーここはどこなんだ?」
「俺のシークレットスポット。誰にも言うなよ?」
「はいはい。」
すると、智則はどこかへ歩いていってしまう。
「どっ・・・どこいくんだよ?」
「ちょっと待ってろ。すぐ戻る。」
俺は言われるがままに川縁で待たされた。

「・・・せっかくの祭りなのになんか暇だなぁ・・・」
屋台の方の行灯の光を眺めて、俺は智則を待った。
「・・・・?」
突然回りが青白く光り始めた。しかもぽつぽつとしたのがたくさん。すると、その光に照らされた智則が姿を現した。
「びっくりしたか?蛍の光は。」
「お前がいきなり戻ってきたことの方がびっくりしたよ。」
「そうか?まぁ上見てみろ。」
さっきまで見てた星空だが、今は隣に智則が居て、俺らを囲むように蛍が光っている。
「屋台の行灯なんかより、こっちのが幻想的できれいだろ?」
「だな・・・。」




「なぁ、奈雄。」
「ん?」
奈雄 というのは俺の男だった時の名前だ。
「もし・・・俺が奈雄に『好きだ。』っつったらどうする?」
「・・・はぁ?仮にも俺は数ヶ月前まで男だったんだぜ?」
「そんなの百も承知だ。」
智則は俺だけを見つめている。

「・・・・ほんとに俺なんかを・・・?」
「『なんか』だとか自分を卑下したような言い方すんなよ。」
「・・・わかった。ならお前が本当に俺の事が好きなら・・」
「好きなら?」
「こっ・・・ここでおおお俺とキスしろ!!」
少なからず、俺は動揺していた。
「・・・いいのか?」
「お前にその気があんならな。」
次の瞬間、智則の唇によって俺の口は閉ざされた。

 ・・・それはかなり深い物で、互いに口を離すと甘い唾液が糸を引いて、ぷつんとちぎれた。
「なぁ、智則」
「ん」
「俺のファースト取ったんだ。責任とれよ。」
俺は顔を真っ赤にして智則に告げる。
「ああ。わかったよ。」
そうして、俺が智則に愛されてた事を知り、俺も同じように智則を愛していたと体で実感した。

 ・・・しかし、これが原因で"後の祭り"になったのは言うまでもない。

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最終更新:2008年06月11日 23:01
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