『玲子の場合』2

~~前回のあらすじ~~

あたしの名前は桜井玲子。昨日で16歳になるとともに女体化した。
その日は一日学校休んでの女性としての準備をしたり、母に振り回されたりした。
そして、次の日。

~~あらすじおわり~~


 女体化しての初登校。昨日の欠席の理由は担任からクラスに発表があったろうからそんなに騒ぎにならないだろう。
 そう思い、教室に着いた後挨拶。
 おはようございます」

 ……ザワザワ……誰?………どこのクラスの子?

 むぅ、やっぱりわからないか。
 男の時はどちらかと言うと顔も父親似で身長172だったんだけど、女になった途端思いっきり母親似になってしまった。
 身長152とか巨乳と逆ベクトルなところも母親似だ。そっちは父親に似て欲しかったと思う。せめてもうちょっと身長を…
 そんなわけで大幅に見た目が変化したので皆にはわからない様子。仕方ない、
 桜井玲治改め桜井玲子です。今日からもよろしくお願いします」

 ………マジで!?……全然違うじゃん……いやにチビになったな……

 俺だって男の時との共通点がわからないからな、仕方ないだろうね…
 あー今の『俺』っていったのなし。『俺』って言ったのが母にばれたら等身大着せ替え人形化の刑に処せられる。
 さて、とりあえず席に着いて鞄を置く。本当ならここらあたりで人が集まってきて質問責めにされるところだろうけど、
 幸い少し前にクラスで女体化した娘が質問責めにあってたので、質問者達も満足したのだろう特に集まってくる事もないだろう。
 そう思ったけど、容姿の変化が凄すぎたのか1限目が始まるまで質問責めにされたのだった。

 そして、1限目終了後。
 親友であり女体化した娘の河合悠とその恋人の高田和也がやってきた。朝は人多すぎて話せなかったしね。
 河合はちびっこい…150センチ台でショートのかわいい子。女体化する前とあんまりかわってない気もするが。
 高田は以前のあたしより微妙に低いくらいだったから、170前後か。刈り上げのスポーツマンという感じ。
 二人とは高校になってから知り合い結構仲良くしてる。河合と高田は幼馴染みだ。
 それにしてもこの二人、河合が女体化したと思ったらもう付き合ってるとかどういう事なんだ!?早すぎだろう、常識的に考えて…

「おはよう」
 三人で改めて挨拶をすませた後、河合が嬉しそうに口を開く。
「桜井君も女になったんだね。なかま~」
「不本意ながらそういう事になったようです」
 一瞬、ヴァンパイアに噛み付かれて自分もヴァンパイアになっちゃった人のような気分になった。ほんとにそういう気分なのかはまったくもって謎ですが。
「それにしても、すげぇ背低くなったよなぁ」
 高田の奴が言ってくれます。
「これでも一昨日まではおまえより高かったんだよっ」
 あたしは立ち高田の頭に手を当て背を比べてみる…うへぇ、今じゃ思いっきり負けてます。
「高田の身長いくつだっけ?」
「170」
「なるほど…いまじゃ18センチも負けてるのか、もはや絶望的だわ」
 軽く打ちひしがれてると、河合があたしの頭の上に手を当てて、
「桜井君、ボクと同じくらいじゃないかな」
 あまり認めたく事実だが否定もしきれないので、
「そうかも、比べてみよう」
 二人頭、背中、かかとをぴったりくっつけて高田に見てもらう。
「どう?」
「かわらないんじゃね?」
 あたしの問いに高田のそんな返答。今までチビだと河合をからかってたのが嘘みたいだ。
「あーそうだ。あたしの方が髪が長いから勝ちって事で!」
 仕方ないので髪の長さを主張。
「もう何の勝負かわかんないよ」
 せっかくの起死回生の話のすり替えに、もっともな反論をする河合。やっぱり無理か。
 よし!ここで逆ギレだ!
「河合の身長をからかう事に賭けたあたしの青春はどうするのさ」
「じゃあ、かわりに俺が悠の身長をからかってやるよ」
 OK、おまえに託した。
「ちょっと和也…」
 ふっふっふっふっ…河合、君はかわからわれる為に存在するのだ。
 と、思ったら高田の無常な一言。
「桜井もだけどな、お前も背同じなんだし」
「な、なんだってー!!」
 持ち上げられるだけ持ち上げてから落とす……高田がこんな高等技術使えるとは思わなかったよ…
「くぅ……しょうがない、あたしの賭けた青春はくれてやるさ!でも代わりにこれをもらうっ」
 そう言って河合にぎゅっと抱きついてくすぐる。
「河合はあたしがもらった~!うりうり」
「あははは……桜井君…くすぐったいっ…」
 河合はくすぐり攻撃に弱いようです。そして、くすぐりの手は止めずに高田を見てみる。
 高田は硬直してる、その顔は真っ赤だ。
「このままあたしが河合貰っちゃおうかなぁ?かわいいし」
 高田の方を見ながら挑発してみる。さっきのささやかな復讐、でもまーそろそろ許してあげよう。
「はいっおしまいっ!これ以上は高田君が見てるし!」
「びっくりしたぁ…」
 安堵の息をつく河合。そして、硬直から解き放たれたのか高田が、
「桜井…おまえなぁ……」
 かろうじてそう漏らす。
「あたしの青春の代償は高くつくのだよっ!」
 あたしはやられたらやりかえす。元凶が自分である事は脳内から削除済みだ。
 河合というおもちゃを失ったかと思いきや、河合はあいかわらずおもちゃでいて、
 さらに高田もおもちゃにできたので、あたしは上機嫌だ。
 家に帰れば母におもちゃにされるんだけどね……

「女体化についてはまぁ諦めるとしてもしても…
 なんというか雰囲気変わり過ぎたんじゃないかと。他人から見たら男が女になっちゃった!と言うより、高田が河合になっちゃったって感じに近いかも?」
「あーそうかも、桜井君も男の時はかっこよかったもんね」
 ふと、そんな感想を漏らしたあたしに相槌を打つ河合。
 さすが河合様はわかっていらっしゃる。
「今じゃこんなに縮んだけどな」
 くっ…高田め、かわいくないやつ。
「いじわる言うね。友達のよしみで男だったときの服とかあげようと思ったのになぁ…秋の新作とかもあったんだけど~」
「え?マジで!?」
 服の趣味とか割と高田とあってたし、体格も近かったから丁度いいだろうと思ったんだけど。
「まじまじ。控えおろう!頭が高い!」
「ははぁ、桜井様!」
 高田を平伏させておいた。高田はあたしにひざまずいておればいいのです。
「河合は男の時の服もなんとか入りそうでいいよね」
「うん。でもお兄ちゃんが女になったんだから女の子の服着なさいって言うんだけどね」
「ほんと着れる服が新しいのだけになっちゃってさぁ…少なくて少なくて」
 母がそのうち色々揃えてくれそうな気もしますが…コスプレぽいのを

「ところでさぁ…」
 その日の昼休み。教室で昼食をとりながら声をひそめて二人に聞く。
「ふたりはもうエッチしたの?」
 途端に赤くなる二人。初々しいね。彼氏すらいない人の感想でもないかもしれないけど。
「んーと、からかってるわけじゃなくて真面目な話。
 高田が女体化するのは阻止しておかないと面倒な事になるでしょ?」
『あ…!』
 ハモる二人。素で忘れてたのか、うっかりさん達め…
「ほらほら高田くぅん。はやく河合をモノにしないと自分がやばいんだよぉ?」
 しょうがないのでハッパをかけてみる。
「あ、あぁ…おれもやるときゃやるさ」
「その調子その調子」
 これで少しは安心か…たぶん、微妙。もう一押しいるかな…
「河合、放課後あいてる?」
「今は部活してないからあいてるよ~」
 河合は男子陸上部に入ってたんだけど、女体化してかからは退部して部活何にしようか考え中って言ってたな。
「ちょっとうちに来ない?高田抜きで」
「俺抜きなのかよ」
 不満を漏らす高田、それもそうか。でも、
「高田は部活でしょ?それにちょっと女の子としての話があるの」
 こう言われては高田も言うことはなかったみたい。




「さあ、どうぞ」
 放課後、あたしは河合を自宅に招きいれた。
「おじゃましま~す」
「あら、おかえり~」
 知らない人が見たら姉にしか見えない母がお出迎え。
「ねぇ、母さん。貸してた服返してもらってもいいかな?」
「クリーニングも済んでるよ。今から着るの?」
「いや、あたしが着るんじゃなくて。河合に」
 母が河合をしばらく凝視して、
「うん、似合いそう。かわいいと思う~、寝室に置いてるから持ってってね」
「あいあいさ」

 自室で母から返してもらった服を河合に渡す。
「とりあえず、ためしに着てみよっか」
「こ、これを…?」
 困惑した河合が答える。やっぱりそうだよね…あたしも最初はそうだったさ。
 服と言うのはゴスロリのドレス。あたしが女体化した時に、背格好がそっくりの母が一緒にこういう服が着たいと言って強引に着せられたものだ。普通、戸惑うに決まってる。
「うん…恥ずかしいよね。でも河合なら絶対似合うと思うし、ロリロリな河合を好きな高田は、きっとこういうのも好きなはず。
 というか、誘惑しなくて高田が女体化してもいいの?」
「ボク…そんなにロリロリなのかな?」
「うん!」
 断言しとく。
「でも…それだと桜井君もロリロリじゃない?」
 うん、墓穴を掘った。
 しかし、墓穴を掘らずんば墓地を得ず。
「まあそれはそれとして……試着してみて」
 そう言って試着させる。

「うん。似合ってる似合ってる。サイズも問題ないみたいだね」
 親の部屋から強奪してきた姿見の前に河合を立たせる。
「恥ずかしいよ…」
「だいじょぶだいじょぶ。かわいいって~」
「これ…桜井君も着てたの?」
「うん。ちなみに母さんがそれ着て父さんを撃墜してたから、効く人にはかなり効くみたい」
 そう体験談を河合に語った。

 コンコン…
 ドアのノックに続いて母さんの声。
「玲ちゃん、お茶持ってきたよ~」
「母さん、ありがと」
 ドアを開けて入る母。他人にゴスロリ見られるのが恥ずかしくて真っ赤になってる河合。
 母はそんな河合を見て、
「あら…思った通りかわい~。ほらほら、そんなに恥ずかしそうに俯いてないで!
 大丈夫、自信持ちなさい。あたしが保証する!」
 そう言って部屋のテーブルに紅茶とチーズケーキを置く。
「母さん…ひょっとして、河合の服見るためにお茶淹れてくれた?」
「うん、もちろん♪だって、せっかくだし見てみたいじゃない?」
 母さん…あなたは自分の思いに忠実なんですね…
「んじゃ」
 そう言って、母は出て行った。と思ったらすぐ戻ってきて、
「実は今日、買ってきちゃった」
 と言って、あたしに服一式手渡した。またゴスロリですか母さん。
「玲ちゃんも着てみたら?ひとりだけだと浮いちゃうじゃない」
「いや母さん…今河合が着てるのは試着してるってだけだから…」
「だってひとりだけ恥ずかしそうにしてるなんて、かわいそうだと思うし」
「ただ母さんが見たいだけじゃ…?」
「うん、そうとも言うね」
 ……まぁいいか、母から受け取った服に着替える。母はニコニコしながら見ている。
 河合もまじまじと見ている。もう注目するな!
「着替えたよ…」
 ほんと、やれやれです…
「せっかくなので写真撮ろ!写真」
 そんなあたしの気も知らず母が携帯を取り出して言いだす。
「さーさーふたり並んで~。んで手繋いでニッコリね」
 母の強引さに逆らえずに言われた通りにする。さすがに写真まで撮るのは恥ずかしいんだけど、いつのまにか押し切られた感じ。
 カシャッ。
 携帯からシャッター音が鳴り、母が満足げに、
「うんうん、可愛く撮れた。メールで送ってあげるね」
 間もなくあたしの携帯に写メがきたので河合の携帯にも写メをまわす。
 ふたりのゴスロリ少女が手を繋いで少し恥ずかしげに微笑んでいる写真。
 自分で言うのもなんだけど、結構ふたりかわいく写ってていい感じ。
「きれいに撮れてるね、河合も自信持っていいと思うよ」
「そうそう、うちの子にしたいくらい」
「そうかな…ありがとう」
「ほら、もっと元気だせ~」
 と、後ろから組み付いて必殺のくすぐり攻撃だ。
「あははははは…元気出す…元気出すからぁ」
 もう河合の弱点は見切ってる。
「よしっ…それでいいのです」
 無理矢理だったけど、まあよしとしておこう。

「それじゃ、ゆっくりしてってね」
 と言って母は部屋で出て行った。
 母が差し入れてくれたケーキを食べながら河合が母の感想を一言。
「面白いお母さんだね」
「面白いで片付く人なのかは謎だけどね。今こんな格好なのもあの人のせいだし。
 そんなわけでその服貸してあげるから、それで高田を誘惑したらいいよ」
 紅茶を啜ってあたしはそう勧めた。
「うん、ほんとにありがとね」
 そう言った河合の笑顔は、あたしが男だったら欲情したかもしれないなぁとちょっと感じた。
「あたしはふたりにうまくいって欲しいだけさ」

「それじゃ、また明日」
「学校でね~」
 あまり遅くならないうちに河合を家から送り出し、母に服を貸す事になった顛末について話した。
「あの可愛さで迫れば彼氏も余裕で落ちるんじゃない。ところで、玲ちゃんの彼氏はま~だ~?
 人の事もいいけど、自分の事もがんばらないとね!」
 う…ヤブヘビだったかもしれない…
 そして、さらに追い討ち。
「あと、さっきの写真待ち受けにしちゃった」
「それは恥ずかしいからやめて…」
「え~?子供の写真を待ち受けにする事なんて、親だと普通でしょ」
「普通はそんな格好しませんから…」
「いいの!普通かどうかはあたしが決める!これは普通。なのでOK」
 まぁ…母に愛されてると前向きに捉える事に…します。

 次の日。
 早速、河合に昨日の事を聞いてみる。
「どうだった?」
「うん、ばっちり!」
 そして、朝練を終えて教室に来た高田に、
「ゴスロリ悠ちゃんはどうでしたか」
 ニヤニヤしながら聞いてみる。
「おまえなぁ…」
「可愛くなかったのかな?」
「まぁ……びっくりするほど可愛かった。んであの服桜井のって聞いたけど、なんであんなの持ってるんだ…?」
「細かい事は気にするでないよ。まぁふたりとも初体験おめでとう」
 話を逸らしつつ、ふたりを祝福した。
「桜井君ありがとね」
「桜井なりに気を使ってくれたんだよな、ありがとな」
 親友の恋人関係が高田の女体化で崩れる事なんてあったら悲惨だからね。うまくいってよかったさ。

「あとは、桜井君が彼氏作らないとね」
「だな」
「ちょ、ちょっと…あたしはまだ女になったばかりなんだからっ、彼氏なんてそうすぐできないよ!!」


おしまい


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最終更新:2008年08月02日 11:51
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