安価『ノーブラ』

 俺の名前は五條章博。
 突然だが俺は今猛烈に悩んでいる。どうやらオレはホモらしいんだ……
 というのもクラスの男に惚れてしまったからだ。
 くそっ……俺は今まで女好きだと思ってたのになぁ……経験はないけどな!!
 ああ、経験といえば16歳までに性体験をしないと女体化してしまうんだよな、そして今年16になる。
 うおー!
 俺は男がいいんだよー!!
 でもホモなのは嫌だー!!
 どうすればいいんだ、誰か正解に導いて欲しい。


 そんなこんなで今日も憂鬱な学校なわけだ。
 うちの高校は偏差値が中の上くらいの、まぁそこそこの進学校。
 俺の学力じゃ無茶だとわかってたんだが目標校だったので受験し、無事合格した。
 ……よく受かったな、俺の勝負運に乾杯。

 その日も授業を右から左へと聞き流しながら、俺は俺より斜め右前の席の主を眺めていた。
 その男が片思いの相手、明日香和巳。うん、苗字が名前と間違えそうな上に男か女かもわかりにくい名前だ。
 知性を感じさせるその顔にフチ無し眼鏡がよく似合っている。
 明日香は授業を続けている教師と黒板を無表情に見つめては教科書へ目をやったり、ノートをとっている。
 真面目だなぁと思う一方で、そんな女ですらない奴に見惚れていた俺はいよいよダメかもしれない。はぁ……
 ダメならダメで今日こそは当たって砕けておこうと俺は誓った。

「こんなところに呼び出しておいて何の用なんだい?」
 明日香が不信気な視線を俺に向ける。奴を昼休みに屋上へと呼び出したのだ。
 休み時間に来るように頼んだときは、「なんで僕が行かないとならないんだい?」なんて怪訝そうに言ってたが、気になるのだろう、俺よりも先に屋上に来ていた。
「まあ、その……なんだ」
 さすがの俺も口篭ってしまった。だって考えても見てくれ、普通に告白するだけでも緊張するのに、しかも同性相手にだぞ、緊張しないわけがない。
「用があるならはやく言ってくれないか」
 せかすなよ……心の準備をしてただけさ。
「あ、ああ……じゃあ言うぞ!
 俺は明日香……おまえの事が好きになってしまったみたいなんだ。だから付き合ってくれ!」
 よし! 言いきったぞ。緊張してて脂汗でも出てきそうな気分だ……
 しばらく黙りこくる明日香。しかしやがて口を開くと、
「君はホモなのか?」
 うん、そうだね。普通はそう思うよなぁ、俺だって逆の立場ならそう思うだろうさ。
 だが一応否定しないと本当にホモだと思われる。
「いや、俺はホモじゃない。でもおまえが好きなんだ」
「自分の言ってる事が矛盾してるくらいわかるだろう?」
 うん、矛盾してるね。でも本当なんだよなぁ……言葉足らずだったか?
 しょうがない、もう一度!
「俺は女が好きなはずなんだが、なぜかおまえに惚れてしまったんだ。
 ホモと言われても仕方ないかもしれないな……
 それでも付き合って欲しいんだ」
 明日香はふぅと溜息をついてどう答えたものか思案してるようだ、まあ無理もない。
「言い方を変えただけで同じ事を言ってるようにしか聞こえないが?
 まぁ人に好意を持たれて悪い気はしないのだけどね……
 残念だけど僕はホモじゃないんだ。だから君の気持ちには答えられない」
 まぁそうだろうな……俺の与太話を聞いてくれただけでもありがたいか。
「今日はわざわざ呼び出して悪かったな、俺の気持ちを聞いてくれてありがとう。
 これからも邪険にだけはしないでくれるとうれしい。じゃあな」
 俺は、他人が見たら引きつって見えたであろう、作り笑いをして礼を言い去ろうとした。
「まあ、待ちなよ」
 意外にも明日香が呼び止めた。そして、眼鏡の少年が微笑んで続けた。
「せっかく同じクラスなんだし、友人にならなってもいいさ」
「ほ、ほんとか!?」
 思わず俺は振り返って大声で聞き返した。
 だってそうだろ? まだ希望の糸は切れていないのかもしれないんだ。うれしいに決まってるさ。
「ああ、交友を広げておくのも悪くはないと思ってね」
 そういえば、明日香にはあまり友達がいない気もするな……いい機会だと思ったんだろう。
「なんだか気を使わせてしまってすまんな。じゃあ今日から友達としてよろしく」
「こちらこそよろしく。五條君」


 明日香と友達になって数週間が過ぎた。
 奴はいつも冷静でしっかりしていて、なんでもアバウトな俺とは対照的だった。
 何故か、いや、だからこそか気が合い名実共にいい友達となれていたんだろう。
 俺のくだらない話に明日香の冷静なツッコミが入ったりなんてのは、もう二人の日常と化してたな。

 そんな最近の習慣となりつつある明日香との屋上での昼食時に、俺は今まで悩んでた事を白状した。
「明日香さぁ……」
「ん、どうかしたかい?」
「何週間か前にここで告白した時さ……ホモとは付き合えないって断ったんだよな」
「ああ」
「じゃあ、ホモじゃなくなったら、男でなくなったら……どうなんだ?」
 ここ何週間か仲良くしてるうちに、ますます明日香の事が好きになっちまったんだよな。
 それこそ、女体化してでも付き合えたら付き合いたいくらいにはね……
 女体化するであろう誕生日は再来月だけどな。
 そんな俺の衝撃発言に、明日香は一瞬目を丸くしたかと思えば俺をしばらく凝視して、
「そんな軽はずみな発言はするべきじゃないね」
 と、答えた。そして、缶コーヒーで一息ついてから、
「女体化するかどうかは、君のこれからの人生を大きく決定付ける事だ。
 僕と恋仲になりたいからといってそう簡単に女になったりするのはやめたほうがいい」
 俺が聞きたいのはそれじゃない!
「そんな事よりも、俺が女になったら付き合ってくれるか教えてくれ!」
 話を逸らされてしまったので思わず声が大きくなってしまった。
 いつも冷静な明日香はそんな俺の声にも怯む事はなかったが、ふたたび俺を凝視してから答えた。
「君がそこまで本気なのなら答えるよ。君と異性になれば付き合うさ。でも本気なのかい?」
「ああ、本気だ」
 おれは断言した。ホントは男でいたいんだが、明日香と付き合えるなら女にだってなってやるさ!
「そうか……わかった。では、君に見てもらいたいものがあるんだ」
 明日香はそう言うや否や立ち上がり、ここが屋上で他に人がいなかったからできたんだろう……制服のワイシャツを脱ぎ、その下のTシャツも脱いだ。
 その下にはサラシというのか? 白い布で胸を巻いていた。
「どういう……ことだ……?」
 俺は思わず呟いていた。ほのかにサラシで覆っている部分が膨らんで見えたからだ。
 胸をサラシで潰してるんだろうか……?
「見ての通りだよ。僕は1ヶ月程前に女体化していたのさ」
 なんだって……ということは……
「俺が告白した時にはもう女だった……?」
「実はそうなんだ」
 なんてこった。俺が男だと思って告白したのが本当は女で、俺がホモだったというのは勘違いだったというのか。
 俺は自分でも気付かないうちに、深層心理では明日香を“女”だと感じて好きになったんだろうか。
「女なら女でなぜ女として学校に来ないんだ?」
 そう聞くと、明日香は脱いだ服を再び着た後答えた。
「そうすると、クラスの面々から質問責めにあうだろう?
 変な目で見られるし、とても煩わしい。
 幸いにも身長や体格には大きな変化はなかった事だし、ばれないようなら高校卒業まで男として通す気だった。」
 そういっても高校なんてまだ二年半以上あるんだぞ……
「無理せずに女として学校へこいよ。そのままだとせっかく胸が成長しても潰れて変になるぞ?
 ウザい連中がいたら俺がなんとかしてやるし」
「それはそれでありがたいんだが、重要なのはそこではないよ。
 本当は異性である事を今明かした訳だけど、君は僕の彼氏になってくれるのかい?」
「いや……俺が最初に告白したのにダメなわけないだろ」
「君がホモだったなら、女である僕には用はないだろう? だから少し心配いていたんだ」
「俺はホモじゃない!!」
「そうか。君に告白されて、友達になってから……
 僕は君の事が少しずつ好きになっていたようだ。
 だからはっきり言うよ、僕は君の事が好きになったんだ。付き合ってくれないかな?」
「それこそ俺の望むところだ」
 そして俺達は予鈴が鳴るまで抱きしめあっていたのだった。


「あれ? お前女体化してたのか」
「女になった感想聞かせてくれよ」
 翌日、女子の制服で登校した明日香に浴びせられる無遠慮な言葉達。
 そこで俺は昨日の約束どおり、こいつらを封じることに。
「シャラァァァァッッップ!! おまえら、明日香は見世物じゃないんだからもっと気を使え!!
 おまえらだって自分がそうやって騒がれるの嫌だろ?」
 俺の怒声が効果的だったのか、騒ぎがやんだ。あともブツブツ言ってる奴もいたがこれで大丈夫だろ。
 そして渦中の人物、明日香に声をかける。
「明日香大丈夫か? もう騒がせないからな。
 それにしても……制服似合ってるぞ」
 女子制服を着ている明日香は、格好よく、それでいて女性らしい気品も感じた。つまり、似合っている。
「僕は大丈夫さ。感謝してるよ。あき…ひろ…君」
 そう俺を名前で呼んだ明日香の、いや和巳の眼鏡の下の顔は照れているようにも見えた。




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最終更新:2008年08月02日 11:52
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