『小野妹子』

326 名前:『小野妹子』紫蘇 ◆OJMjCiynlc [] 投稿日:2007/09/25(火) 21:00:58.06 ID:KUoht3rQ0
 俺の名前は小野尚文。ピッカピカの高校一年生だ。
 世間では16歳までに童貞卒業しなければ女体化するなんて話もあるが、俺は卒業済みなのでなんの憂いもない。それ以外は何の特徴もない気がする平凡少年だが……まぁ贅沢は言わない事にする。

 いつも通りの眠い登校時間。
「おっはよー! 妹子」
「誰が妹子じゃぼけぇ!!」

 ドガッ!!ズシャアァァァン!!!!

 まだ少し肌寒い五月の朝からフェンスにめり込むのが趣味らしい男は……だれだっけ? 町人その1でいいか。
「それはないよ、妹子~」
 まだいうかこいつ……それにしても復活早ぇな。
「あのなぁ荒木……俺の苗字が小野だからって妹子と呼ぶとか、小学生レベルの発想だといい加減思い知れ」
 そう仕方無しに荒木を諭す。あぁ、町人の名は荒木純一だった。家が近所のこいつは黙っていたら二枚目なのに、言動がちょっとアホな子ぽい。
 なんで朝からこんなに体力使わないとならんのか、憂鬱だ。
「ごめーん。わるかったよ、妹子」
 一応謝ってるが、こいつ全然わかってないな、というかわざとだろ。
「遣隋使ラリアットォォォォ!!」

 ドゴォォォォォッッ!!

 俺は煙を上げて轟沈する荒木を放置して、学校へ向かった。バカのせいで遅刻しそうだ。

 始業三分前に教室に着いた俺は、一限目の準備をして一息ついていた。
 そして、チャイムが鳴ると同時に荒木が教室に滑り込んできた。ちっ、間に合ったか。

 一限目の日本史終了後。
「なーなー妹子。さっきの授業、丁度妹子の……」
「みなまでいうな」
 今日の授業内容の隋について、嬉しそうに話しだした荒木の顔の前にパンチを寸止めして見せ、黙らせた。

327 名前:『小野妹子』紫蘇 ◆OJMjCiynlc [] 投稿日:2007/09/25(火) 21:01:43.56 ID:KUoht3rQ0

 昼休み。
 高校も給食があれば楽でいいのにな。学食はあるっていっても給食に比べたら高くつくし、そう考えると弁当でいいやって思ってしまうは貧乏人のサガか。
 そんな俺が教室で弁当タイムを楽しもうとしてるところに、俺の向かい側の椅子を占領する町人その1。
 荒木は俺の机に昼食、内訳はメロンパン、ジャムパン、カレーパンを置き、ここで食べる事を示した。
「荒木さぁ、いつもパンだけどたまには弁当買ってくるなり学食行くなりした方がいいんじゃないか?
 パンばかりだと栄養偏りそうな気がするんだけど」
「僕を心配してくれるのかい? 妹子……」
 俺は荒木の口にメロンパンを突っ込んでおいた、メロンパンが入るなんて大きい口してるなこいつ。
 そんな食事もあらかた終わりかけた頃、難無くメロンパンを処理していた荒木が口を開く。
「いつも弁当持ってきてるけど、お母さんが作ってるの?」
「いんや」
 俺は答えた。
「自分で作ってる。両親共働きだし自分でできる事はなるべく自分でやる事にしてるんだ」
「しっかり者だなぁ、妹子は」
「……お前の鼻にカレーパンのルーいれてやるからじっとしてろ」
 弁当を食べ終わった俺はそう言って荒木を羽交い締めにした。

 放課後、もう五月なんだしいい加減部活も決めないとなぁと思いつつも、決めあぐねている俺は、しばらく帰宅部を満喫するのも悪くもないかとも思ったり思わなかったり……
 まだ慌てるような時間じゃない、と問題を先送りにして帰路についた。

 その日の深夜……?
「ナオちゃん。いいよぉぉ……」
「ああ、俺もだよ……」
「でも…でも……」
「……なんだ?」
「これってホントのセックスじゃないんだよ?」

 ガバァッ!!


328 名前:『小野妹子』紫蘇 ◆OJMjCiynlc [] 投稿日:2007/09/25(火) 21:02:35.56 ID:KUoht3rQ0
 今のはなんだ……夢、か?
 汗だくの俺はベッドから身を起こした。気持ちよかったような後味の悪いような夢。小五の初体験の夢……か。
 まさか……手を股間と胸に当ててみる。男性終了のお知らせ、そう手の感触が教えてくれた。
 ちょっと待て、あの時の行為の手順が違ったのか? と記憶を辿るも小五の時の行為をどうやってたかあやふやな事に気付いた。
 実は小五の体験は失敗していてセックスとしてはノーカウントだったというのが現実のところのようだ。

 お、落ち着け俺!! こういう時こそ素数を数えて落ち着け……1. 4 1 4 2 1 3 5 6……1. 7 3 2 0 5 0 8……
 とりあえず……親になんとかしてもらおうと思うも、時計の針が絶望させてくれた。7時10分、もう両親共に出勤しております。
 しょうがない……これはあんまりしたくなかったんだけど……

 トゥルルルルルルル……

『おはよ~、朝から電話なんてどうしたんだい? 妹子』
『ボスケテ……』
『え!? なんだがよくわからないけど、急いで行くよ。待ってて』

 荒木を呼ぶ事に成功……いつもは鬱陶しいあいつだけど、こういう時はきっと頼りになってくれる。
 女体化しないという確信を裏切れたショックで動けなかった俺は布団にうずくまりながら、荒木をいまかいまかと待ちわびていた。
 何分経ったのだろうか、時計を見ると10分経ったかどうかというとき。

 ピンポーン……ピンポーン……

 インターホンだ。でも、なんだか腰が抜けてるのか行けないよ……
「おはようございまーす。おじゃましますよー」
 インターホンに応答がなかったからだろう、荒木が家に上がったようだ。俺の家にも数えきれないほど来てるから、勝手知ったる小野家ってところか。
 2階へ上がってくる足音。そして俺の部屋で足音が止まり、続いてノック。
「妹子、入るよ?」
「……うん」
 制服のブレザーを着ている荒木が入ってきた。急いで来てくれたんだろう、髪は寝癖でボサボサのままだ。
「いも…こ……?」

329 名前:『小野妹子』紫蘇 ◆OJMjCiynlc [] 投稿日:2007/09/25(火) 21:03:50.24 ID:KUoht3rQ0
 荒木は女体化した俺を見て戸惑ったのだろう。俺だって戸惑ってる。
「……なおふみだよ」
 ようやくそれだけ答えた。
「妹子。君が女になっても妹子なのにはかわらないよ」
 そう言って、ベッドの上で座って布団被り状態の俺に寄り、
「震えてるのかい? 妹子。不安なんだね」
 そう言って、荒木は掛け布団の上から抱きしめてくれた。いつもだったら吹っ飛ばしてたところだけど、今は荒木の抱擁がとても心地よくて、気が安らいだ。
「しばらくそのままでいて欲しい……」
「妹子が落ち着くまでずっとこうしているよ」
「荒木……あったかいね」
「妹子、君はかわいいよ。自信を持って」
「ほんとに……?」
「うん、ほんとだよ。これでも信じられないかい?」
 そう言って、荒木は俺の唇に唇をあわせてきた。
「これで信じた?」
「うん……荒木の事……好きになっちゃったかも」
 荒木に抱きしめられてキスされて、顔が火照るのを感じた。
「僕もだよ」
 そう言って荒木は今度はおでこにキスをして、落ち着くまで抱きしめてくれたのだった。


330 名前:『小野妹子』紫蘇 ◆OJMjCiynlc [] 投稿日:2007/09/25(火) 21:04:12.18 ID:KUoht3rQ0
 数日後。
 女性として生きる決心と準備を終えたわたしは、数日ぶりの登校をしていた。ちなみに『わたし』っていうのもケジメだ。
「おっはよー! 小町」
 いつも通りに現れた荒木は、いつも通りでないセリフを言い、わたしは思わず吹き出した。
「ちょっと……それは妹子以上にきついから……」
 わたしは小野小町みたいに絶世の美女とかじゃあないから! まぁそこそこ顔やプロポーションには自信はできたけど、あくまでそこそこ。
「だって、妹子だと男の名前だし。小町でいいじゃない?」
 荒木……おまえはホント懲りない男だな……
 数日前のときめきはなんだったんだろう、そう思いつつ荒木をフェンスにめり込ませておいた。
「ツンデレもいいよね……」
 フェンスからそう聞こえた気もしたが、気にしないでおいた。



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最終更新:2008年08月02日 12:00
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