「俺は今お前にとても失望しているんだ。何故だか分かるかい」
俺の目の前にいる野郎は唐突にこんな台詞をはきやがった。
いやまあ普通に傷つくよね。こいつは俺の彼氏なわけだし。一応。
「何だお前唐突にひどいな。今日は遅刻もしてないし、化粧もばっちり、服装にも気を使って万全の体制でお前とのデートにやってきたというのに。失望だなんて……言われる筋合い、ないと思うんだが」
「ああ確かに、今日のお前は俺の理想の女性に限りなく近い。ただ一点を除いては完璧といっていいだろう。時間のルーズさもなくなったし、なんだかわけのわからない服装もしてこなくなったし、化粧は、してもしなくても可愛いし……」
今日の化粧は相当気合を入れてしたつもりなんだけど、あんまり評価してくれないなあ。
母さんにも手伝ってもらわずに一人でやったし、なれない女性誌だって読んでみたりして頑張ったのに。そりゃあ素顔をほめてくれるのは嬉しいけど、努力したことをもっとほめてもらいたいんだよなあ。一応、女の子としては。
ていうかなんでこいつこんなに上から目線なんだ?
そりゃあ俺だって惚れてはいるからできる限り期待にこたえてあげたいとは思ってるけど、それにしたってちょっと理不尽だろう。
女体化したばかりの俺に対して「元友人に対してだから、言いづらかったんだが……一目ぼれだ。付き合ってくれ」なんて言ってきたのは向こうなんだから。
よし決めた。あいつの文句を聞いた後は俺があいつに文句を言いまくってやる。
「けれど、けれどだ。お前のその足元。膝を覆っているニーソックスについて俺はとてつもなく意見したいことがあるっ」
「は?」
「お前のことだ、きっと俺の好みを察して今日という日のために買っておいてくれたんだろう。今まではいているのを見たことがないしな」
ああそうだよ。なんか通りがかりの女の女の子を見て(俺と一緒に歩いているにもかかわらず、だ)「おお、ニーソックス」なんて呟いてやがったからわざわざ買っておいたんだよ。
それに何の文句があるんだってんだよこいつは。ああ、腹が立つな。本当。
「で、それに何の問題があるんだよ」
思わず、いやゴメン嘘。意識してとても苛立っている声を出す。実際苛立ちのメーターはぐんぐん上昇しているんだ。ぐんぐんグルトなんて目じゃないくらいに。
「いやな、お前のはいてるそれ。黒と白のストライプじゃん」
気にした風もなく続けやがって。ああもう。駄目、駄目。
「やっぱりさあ、ニーソは黒か紺か白の単色以外じゃあ駄目だろう」
何が駄目なんだ、いやむしろもう俺が駄目だ。限、界……。
「うおっしわかったあぁああ。てめーに俺がドンだけ苦労してたか教えてやる。元男が化粧したり可愛い服を着たり、これが慣れるまでどれだけ恥ずかしいことかっっ!! お前の体に刻んでやるよおおおおおおお!!」
「えっ?」
「とりあえずは化粧品だ、お前にかわい~い化粧をほどこしてやるからなあ……」
「やっ!」
「そしたら次は服を買ってやる。男のお前にはぜっっっっっっっっっっっったい似合わないフリフリのふくを、だ。覚悟しろよお」
「ちょっ」
「そうだ……後はニーソックスも買ってやらなくちゃなあ、黒か紺か白の単色がいいんだったなあ。どれでも好きなやつを履かせてやるよおっっ!!」
「うわあああああああ」
数日後、妙にすっきりした表情女の子と、とてもやつれた表情をした、ありえない格好をした男が並んで町を徘徊している写真が、地元の新聞に小さくのっていた。さすがに少しやりすぎたかもしれん。
「というわけで、スマン」
「いっ、一生の恥だ」
まあ、一件落着だな。俺の気はすんだし
最終更新:2008年08月02日 12:21