投稿日:2007/02/03(土) 22:02:52.58 ID:BJo4Uw2V0
I.H予選も学期末考査も終わり、いよいよ長い長い夏期休暇だ。
あぁ、テストの結果は聞くな。補講は回避したが、ひどかった・・・。
成績表もひどいもんだった。親に見せたら
「あらー立派なアヒルの行進ね、数匹転んでるけど」
等といわれこっぴどく怒られた・・・。
夏期休暇といっても部活の練習がある。一応うちは進学校だし
部活があってもある程度時間制限が決められている。
また練習もひっきりなしにあるわけじゃなく、結構休みが多い。
俺は夏休みは出来るだけ遊びたいし、後になって慌てて宿題を
やるのも嫌いなので夏休みの始め1週間を使って全て終わらせようと
考えていた。早速問題集を開き手をつけ始める。
――わからん。全く分からないわけではないが、解けない問題が
かなりある。全て問題を解かなければ提出できないし
かといって分からない問題に適当な答えを書いたら、提出した後に
呼び出しを喰らって怒られるだろう。
「仕方ない、洸に教えてもらうか・・・」
そう一人でつぶやきながら洸に電話をかけた。
投稿日:2007/02/03(土) 22:03:58.58 ID:BJo4Uw2V0
数回のコールの後、ガチャっという機械音が鳴り洸が電話に出る。
「もしもし、どうした悠?」少し眠そうだ。
「あー、わりぃんだけどさ・・・夏休みの宿題で分からないところが
結構あるから教えて欲しいんだけど・・・」
「教えるのは別にかまわないけど、お前理系クラスだろう?
俺は数学とか教えてやれねーぞ?」
確かに言うとおりだ、だが英語や国語、社会科系科目は洸の方が断然得意だ。
「そこをなんとか!お願いしますよ洸先生!」
「んまぁ、別に構わんけど・・・いつどこでするんだ?」
「あー・・・うん、出来れば今から・・・」
まだ寝てたであろう洸をたたき起こして部活の休みな休日を潰させる。
そう思うと申し訳なくて多少口ごもるが、俺も迷惑とか考えていられない
状況だと悟ったため、遠慮がちに申し出てみる。
「分かった今からだな、で、場所は?」
俺か洸の家、でもよかったのだが・・・最近微妙に意識してしまうから
市立の図書館で教えてもらうことにした。
投稿日:2007/02/03(土) 22:05:10.38 ID:BJo4Uw2V0
現地集合と集合時間を決めて電話を切る。荷物の準備は早々と済ませ、
着ていく服をどれにしようか考え始めた。
最近の俺は女性として順応し始め、服を選んだり可愛いものを見たり
するのが好きになっていた。
服を着替え、宿題を詰め込んだバックを持って家を出る。
今日の俺の格好はラッフルフリルがついた黒いノースリーブに
白いミニフレアスカートを同色のリングベルトでとめている。
最近買ったお気に入りのピンヒールトングを穿いて来た。
あぁ、うん、みなまで言うな。男言葉も抜けていないのに
こういうところはかなり早く順応したんだ。
元々、男だった頃から服や靴を結構気にしてたし
女だったらこんなの着てみたいなとか、彼女にはこんなの
着せてみたいなぁとか考えてたせいもある。
女体化してから休日に洸と会うのは部活以外では初めてだ。
俺の私服姿見たらなんていうかな?なんてのんきなことを
考えながら市立図書館へ向った。
投稿日:2007/02/03(土) 22:06:07.63 ID:BJo4Uw2V0
約束の時間より30分前に図書館に到着。原則30分前行動!
これは体育会系に良く見られる特徴だよなぁ・・・。
洸はまだ来ていない。洸は時間にきっちりしてるからなぁ・・・。
部活で強制させられているとき以外は、1分たりとも遅刻しない
代わりに、1秒たりとも早く来ない。
「元男でも、仮にも女なんだから待たせるなよなー」
等とぶつぶつ言いながら、軽く何かあったのかな?と
不安な気持ちが膨らんでくる。少し落ち着かなくて辺りをキョロキョロと
見回していると、不意に後ろから肩を叩かれた。
「よ、相変わらず30分前行動は徹底してるのか?」
洸の声。洸の方へ向き直った俺は自分でも信じられない程、嬉しそうな笑顔で
洸を出迎えていた。
「よっ!洸!今日はよろしく頼むな?」
少々上擦った声でそういう俺、顔も赤かったかもしれない。
そんな俺を見て、洸は少しあとずさるような形で身を引き驚いた顔で言った。
「あぁ、ま、任せとけ。お前になら教えられるぐらいは出来る」
その態度は照れと戸惑いが入り混じったようなもので、少し顔も紅潮していた。
そんな洸の仕草を見ながら、洸は俺のことをどんな風に見てるのかな?
等と考えながら図書館に入った。
投稿日:2007/02/03(土) 22:06:42.51 ID:BJo4Uw2V0
洸に教えてもらうことで、宿題の山は驚くほどの速さで片付いていく。
洸も一緒に宿題をしていたのだが、早々と切り上げて本を読み始めた。
「・・・なぁ、洸ってかなり本読んでるけど面白いか?」
横目でチラっと様子を伺いながら聞いてみる。
「あー?あぁ、面白いぞ?お前もマンガやゲームばっかりじゃなく
文庫でもいいから本を読んでみろ、ためになるぞ?」
こちらをチラリとも見ずに返事をする洸。そんなに本がいいのかよ・・・
「んじゃぁさぁ、本とバスケどっちが好きだ?」
「は?んーそれは比べるベクトルが違うからなぁ、一概にはいえないな」
こちらに向き直り、考えるそぶりをしてからそう答える洸。
「ベクトルって?」
「言葉はあってるか分からんが、好きなことなんて曖昧で大きなカテゴリー
で見てしまえば同一かもしれない。でも、読書とバスケは俺の中では
『好き』の方向性が違うんだよ」
「ふーん?」
ごめん、真剣に答えてくれたんだろうけど、難しいことは俺にはわからない。
ただ、説明の中にあった『好き』という言葉が耳に残って・・・
俺はこれから発する言葉がどういう意味を持っているか考えずに言ってしまった。
「んじゃ、俺と読書とバスケ、どれが一番好――」
言い切る前にはっとしたが、既に遅かった。
「は?お前何言ってんだよ?」
本当に意味が分からないと言うカンジで言われて、なんだか胸が痛い。
投稿日:2007/02/03(土) 22:07:34.04 ID:BJo4Uw2V0
固まってる俺に、涼しい顔で上半身だけ近づけて、耳元で囁く様に
「お前が一番だよ・・・」と息を吹きかけられるようにいわれる。
瞬間俺の鼓動はおかしなぐらい早くなり、次いで顔も真っ赤になる。
なっなっ何言ってるんだ、と噛みまくりながら顔を上げると
必死で笑いを堪える洸の姿が映る。
「く、くくっ・・・あはは、冗談だよ冗談!ったく手ぇ止まってるぞ
せっかく俺が教えてやってるんだから真面目にやれ」
そういわれて不機嫌面になりながらも宿題に目を戻す。
冗談、と言われて少し寂しかったのは本音だ。
それと、時折無意識の内に俺の口から漏れる恥ずかしいセリフは
無意識なだけに俺の本心なのかもしれない。
そう思うと俺は洸が好きなのかも知れないと考えてしまう。
ただ、俺にはそれでもわからない。恋愛感情を抱いて洸が好きなのか
それとも親友としての洸が好きなのか・・・。
そうこう考えながらも宿題は順調に片付いていく。
洸は今読書をやめて俺のやり終えた宿題に目を通している。
「んー、ちょっと教えただけで出来るんだし普段から真面目に勉強
しとけばお袋さんに成績で怒られることもないだろーに」
「俺って落ち着きがないのかな、ずっと座って勉強してると・・・
こうなんていうか動きたくてしょうがなくなるんだよ」
「あーそれは分かるな、前からお前のことハムスターみたいだと思ってた」
「は、ハムっ?!」
「そーそー、落ち着きがなくてキョロキョロしてて人懐っこくて・・・
男のときは随分でけーハムスターも居たもんだと思ってたんだけど
今のお前はまんまハムスターだな」
笑いながらそう言われて、また何も言えずに俯いてしまった。
投稿日:2007/02/03(土) 22:08:20.64 ID:BJo4Uw2V0
17時を回り、目も頭も疲れてきたので今日はお開きにして帰ることにした。
図書館を出る際に飯でも食っていこうかという話になり、俺は母親に電話で
その旨を伝えた。金もそんなにあるわけじゃないのでラーメンに即決。
ラーメン屋に向う最中に俺は前から思っていることを聞いてみた。
「なぁ、洸って最近優しくなったよな?」
「は?俺は前から優しいだろ。甘やかしはしねーけどな」
「あぁ、お前が真剣に人のことを考えてくれるところとかは分かってた。
でも最近のお前はなんていうかこう・・・丸くなったカンジがする」
「丸く、ねぇ?実際自分の変化ってのは気づきにくいもんだな・・・
俺には俺がどうなったかなんてわかんねーよ。意識してねーしな」
「ふーん・・・」
ここで会話が途切れ、不意に沈黙が訪れる。会話がないと今日あったことを
色々と思い出して恥ずかしくなる。なんであんなこと言っちゃったかなぁ
洸も洸でなんであんなこと言うかなぁ・・・俺はまだ二つの想いのどちらが
本物なのか分からないで揺れているのに。
そんなことを考えていたら不意に洸が話しかけてきた。
「変わったって言えば、お前も変わったよな悠」
「え?俺なんか変わったか?」
以外だったので割りと素っ頓狂な声を出していた。
「変わったよ、前から変な可愛げがあって何されても憎めない感じだったけど
今のお前には変なところが抜けて可愛らしいカンジになった」
恥ずかしげもなくこういうことを平気で言うんです、俺の親友。
恥ずかしくて恥ずかしくて、顔から火が出そうな勢いで赤面する俺。
投稿日:2007/02/03(土) 22:09:04.20 ID:BJo4Uw2V0
「な、なななな何言ってんだ!?」
「あははは、何照れてるんだよ」
「あ・・・がっ・・・ぐぎぎぎ」
「大丈夫かー?(笑」
からかってるな?からかってるんだな!?くそ!くっそおおぉぉぉぉ!!!
仕返ししてやる!絶対だ!!と、復讐の誓いを立てている間にラーメン屋に着く。
まだ6時前でラーメン屋もガラガラだった。
カウンター席に腰掛けてラーメンを注文する。
「おっちゃん!俺チャーシュー麺大盛りね!」
「あいよ、しかしお嬢ちゃんそんなナリで食べきれるのかい?」
にこやかに笑いながらそう聞き返してくる店主のおっちゃん。
「大丈夫!スープも残さず飲むよ!」
と俺も得意のニカってカンジの笑みで返す。
「あー、俺は味噌ラーメン普通盛りで」
「あいよ、しかしにーちゃんそんな小食じゃ彼女に負けちまうぞー?」
おっちゃん俺と洸を彼氏彼女の関係だと勘違いしてる模様。
あー、またぶっきらぼうに否定されるのかなーなどと考えていると
「はは、食い気じゃコイツにゃ勝てませんよ」
あれ?洸?否定しないのか?そのまま世間話を続ける洸を横目に見ながら
否定されなかったことを嬉しく感じてる俺が居た。
その嬉しさを胸に抱きながら、俺やっぱり洸のこと恋愛の対象として好きなのかも
しれないと感じていた。
投稿日:2007/02/03(土) 22:09:41.10 ID:BJo4Uw2V0
ラーメンを食い終わって、店を後にした俺達は途中で本屋に寄ってから
駅に着く。方向は一緒なので同じ方向のホームへ降りていく。
ちょうどいいタイミングで電車が来て二人とも電車に乗り込んだ。
電車の中では特にコレといった会話はなく、バスケの話とかお勧めの
本を教えてもらったりしていた。目的の駅に到着して駅から出た所で
俺は復讐の件を思い出す。俺と洸は駅をはさんで反対方向に帰るのだが
「じゃあな」といって洸が踵を返したところで呼び止める。
「洸、今日は勉強教えてくれてありがとうな!」
そう言って振り返った洸にそっと口付けをする。
ちょんっと触れるぐらいの淡いキス。俺にはコレが限界だった。
それでも洸には十分効果が会ったようで、顔を紅潮させながら驚いている。
今日散々からかわれた仕返しが出来て、上機嫌な俺はニカっと笑いながら
「また明日!部活ガンバローな!」
とだけ告げて走っていく。仕返しが出来たこと、俺なんかのキスで洸が
狼狽してくれたこと、洸にキスしたこと。それらのどれもがなんだか
嬉しくて、体は羽が生えたように軽くて、そのまま家まで走って帰った。
やっぱり俺、洸のこと・・・好きなんだな・・・。
投稿日:2007/02/05(月) 02:27:26.00 ID:vHTllHhu0
翌日は朝からバスケ部の練習があり、俺もマネージャーとして練習に参加していた。
昨日、自分からキスをして・・・二つの想いのどちらが本物なのか、おおよそ
定まって、朝から俺は上機嫌だった。・・・にやけてたかもしれない。
そんな俺の様子を見て何か感じ取ったらしい後輩のマネージャーが声をかけてくる。
「須藤先輩、昨日何かいいことでもあったんですか?なんだかすごく嬉しそうな
顔してますけど」にこやかに話しかけてくる。
「ん?そんな顔してるかな?いやー別にこれといって特に何もないよ」
ゴメン、本心を言ったら顔のニヤケが止まらないかもしれないんだ。
そこで浮かれまくっている俺を、地面に叩き落すようなことを聞かされる。
「そういえば、女体化した2年の先輩が終業式の日に告白してフラれたそうですよ。
なんでも、女体化した奴はいくら可愛くても気持ちワリィって言われたとか」
気持ち悪い・・・そんなフリ方、いくらなんでも酷すぎるだろう・・・。
あぁ、でもそうか・・・いくらなんでも元男と付き合うってのは、一般的に
そういう感情が産まれるのがごく普通なのかもしれない・・・
俺は何を浮かれていたんだろう、洸と付き合いたいという気持ちが、男だった頃の
友情よりも勝って、決心がついたのに。
俺は、相手にも感情や想いがあることをすっかり失念していた。
そうだ、洸が俺をそういう対象として見てない、見れないかも知れないことを
全く考えていなかった。俺は洸に気持ちを伝えれば上手くいくと何の根拠もなしに
思い込んでいた。そして俺は昨日のキスを激しく後悔した。
投稿日:2007/02/05(月) 02:28:12.36 ID:vHTllHhu0
洸は昨日どんな顔をしていた?昨日顔を高潮させたのは照れだったか?
もしかしたら怒りで頭に血が上っていたのかもしれない。
狼狽したのは?気持ち悪かったからかもしれない。
『気持ちワリィ』と言うセリフが洸の声で聞こえてきたような気がして
体が震える。急に立っていられない程の眩暈と吐き気が襲ってきて
その場にへたり込む。
「な、んだろ・・・胸の辺りがムカムカする・・・」
そういって俺は意識を失った。
目が覚めたとき、俺は保健室で寝かされていた。
ボーっとする頭で、俺が何でこんなところで寝ているのか考えてみる。
「えっと、確か・・・部活でえっと・・・?」
よく思い出せない。部活で体育館にいたことは覚えているのだが
なぜ倒れたのか、なぜ倒れたはずなのに保健室で寝ているのかがわからない。
不思議だなぁとのんきに考えながらボーっとしていると、ベッドをしきるための
カーテンの向こうから呼ばれた。
「須藤さん、目がさめた?」校医の先生だった。
「あ、ハイ・・・すみませんなんか倒れちゃったみたいで」
「あら、いいのよ?女の子ですもの、しょうがないわよ」
と告げられたが、その言葉が何をさすものなのかわからない。
投稿日:2007/02/05(月) 02:29:03.19 ID:vHTllHhu0
「えっと、俺なんで倒れたんですかね?正直、よくわからないんですけど」
本気でわからなかったので、ぶしつけな質問をしてみると、先生はちょっと呆れた
顔つきであら、なんていっていた。
「あのね須藤さん、元男のあなたにはちょっとショッキングな出来事かもしれないけど
ずばり言うわよ!生理よ!」いや、某有名占い師の真似はどうでもよくて・・・
・・・って、えええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!?
「せ、生理ですか!?」
慌てふためく俺、確かにそういえばお腹が痛い。それと鳩尾の辺りがムカムカする。
「そ、須藤さんが倒れたのは生理と貧血、あと何か精神的なストレスがあったんじゃ
ないかしら?それらが重なってね・・・」
「そ、そうなんですか・・・」
精神的なストレス・・・『気持ちワリィ』といわれてフラれた女体化した2年生の話と
それから来る不安、昨日軽い気持ちでしてしまった洸とのキス。
それらのどれもが俺の精神を追い詰めていたんだろう。
なんだか辛いな・・・なんて思っていると、不意に先生が話しかけてきた。
「それにしても須藤さん、元男の子の割りには可愛い下着つけてるのねー(笑」
漫画でよくある『ボッ』という擬声音が鳴り響くような勢いで顔が赤くなった。
下手したら『ボンッ』ぐらいいってたかもしれない。
「な、ななな、何をいきなり?!」噛みまくる俺。
「あらー、別に恥ずかしがることないのよー?アナタももう立派な女の子なんだし」
俺、からかわれてるのか!くそー!
・・・ん?イヤ待てよ?何で先生が俺の下着がどんなのかを知ってるんだ?
「あ、あのー先生?何で俺がどんなショーツつけてるかとかわかるんです?」
「あら?アナタ初潮でしょ?汚れちゃってたから替えの下着と取り替えておいたのよ」
俺顔真っ赤。すっかり茹で上がった俺は恥ずかしくて言葉が出せない。
追い討ちをかける様に「大丈夫、あなたの・・・とってもキレイだったわよ」
と先生に言われて奇声を発しながらここからどこか遠くへ飛んで行きたい気持ちだった。
投稿日:2007/02/05(月) 02:29:48.22 ID:vHTllHhu0
でも、先生と話してるうちに次第に気分が楽になっていた。
思い切り辱められたが、辛い想いを心のどこかへ追いやることが出来て良かった。
「あ、でも先生・・・俺ってどうやってここまで来たんですか?」
完全に意識を失っていたし、自力でここまでたどり着けたとは思えない。
「あぁ、天宮君がね抱きかかえてきてくれたのよ。」
不意に洸の名前を出されて、想いがフラッシュバックする。
また、胸の辺りがムカムカしてきて、急にお腹が痛くなったように感じた。
その様子を見て、先生はあわてた様子で聞いてきた。
「す、須藤さん?どうしたの?苦しいならクスリもあるけど・・・?」
「あ、大丈夫です先生・・・ホントに・・・大丈夫ですから。」
不安で不安で心が落ち着かない。ザラっとした何かが這いずり回るような
不快感を感じる。目の奥が熱くてチリチリするような錯覚を覚える。
「須藤さん・・・?」
いつの間にか俺が涙を零していることに気づいた先生はオロオロしていた。
投稿日:2007/02/05(月) 02:30:32.98 ID:vHTllHhu0
俺は生理が少し重めで、精神的に不安定になりやすいらしい。
そんなこととは関係なしに洸に『気持ち悪い』と思われていないか
という不安がでかすぎて・・・、余計に滅入ってしまっている。
先生は落ち着くまでここで寝てていいと言ってくれて、俺を一人にしてくれた。
「何、やってるんだろうな・・・俺」
そう一人で呟きながら、ベッドの傍にある窓から外の風景を眺めていた。
雲がゆっくり流れて、夏の透き通るような青い空がなんだか綺麗で
洸のことを頭から追い出そうとして焦る俺の心を落ち着かせてくれる。
どこまでも青い空にこの想いを全て流せたらいいのに・・・。
そしたら・・・昨日のことは冗談だからって軽く言えるのに。
「苦しいよ・・・」言葉が勝手に口から零れた。
「まだ、苦しいのか?」
誰かが後ろに立ってる気配なんて全然感じなかっただけに、いきなり後ろから
かけられた声にびっくりして目玉が飛び出すかと思った。
よく聞き馴染んだ、静かな調子の声。不安で不安で後ろを振り向けない。
「?どうした悠?」
不思議そうに、でも体を気遣ってくれてるのか優しい声。
振り向いてしまえば不安な気持ちを払拭できるのかもしれない。
でも怖かった。もし『気持ち悪い』と言われたら・・・。
でも、振り返って笑いかけないと、それで一言大丈夫、練習ガンバレって
言わないと・・・変に思われてしまうかもしれない。
俺は精一杯笑顔を作る努力をして洸の方へ振り返る。
「大丈夫、大丈夫だから練習がんばれよな!」
笑顔は作れていた、声は少し震えていたかもしれない・・・でも
止め処なく零れ落ちる涙が隠しきれなかった。
投稿日:2007/02/05(月) 20:41:43.90 ID:BT1t2OI80
「っ?!オイ、なんで泣いてるんだよ!そんなに苦しいのか!?」
慌てる洸、でも俺は平気であると告げようと笑顔を作り続ける努力をする。
「大丈夫だって、洸、泣いてないって」
「泣いてないって、何言ってんだ?!思いっきり泣いてるじゃねーか!」
洸は気持ち悪いなんて一言も言ってない、何も悪いことなんかしていない。
それでも、言われるかもしれないと疑心暗鬼になった心が不安を煽る。
「へ、いきだから!洸は練習に戻れよ!後輩の指導とかっあるんだろ!」
そう言ったところで両腕を洸に掴まれる。
「平気じゃねーだろ!今先生呼んでくるから!」
「平気だから!離せよ!離せって!は・・・はなしてっ・・・」
力強く握られる両の腕から伝わってくる洸の体温がすごく暖かくて・・・
顔がカッと赤くなるのがわかる。赤くなった顔を見られたら俺が洸をどう思ってるか
自分からばらしてるようなものだ。今までも幾度となく無自覚ながらも態度には出てた。
でも、今までのは冗談で済ませられるものだと思う。
だけど、こんなにうろたえて、あまつさえ両腕を掴まれた事で頬を染めて・・・
冗談では済ませられない。
『キモチワリィ』不意に思い出したセリフに背筋が寒くなる。
「っ!やっ!いやっだ!離せ!離せぇ~!」
誰かに見られたら大いに誤解されそうな声を上げる俺。
「落ち着けよ!オイ!どうしたんだよ!」
洸はパニックに陥ってる俺を必死に落ち着かせようとしてくれてる。
でも、俺は怖くて・・・洸に嫌われることが怖くて・・・
こんなにも洸で心がいっぱいになってることが怖くて・・・
どうしようもなかった。
投稿日:2007/02/05(月) 20:42:34.40 ID:BT1t2OI80
俺は感情がオーバーヒートして、とうとうボロボロと泣き始めた。
瞬間、俺はぐっと体を引き寄せられ、洸に包み込むように抱きしめられていた。
「落ち着け、大丈夫だから・・・な、大丈夫だから・・・」
どこまでも優しい声でなだめられて・・・俺は洸にすがりつくように泣いた。
すがりつく俺をいぶかしむでもなく、咎めるでもなくただ優しく包んでくれる洸。
パニックに陥っている俺を宥め、落ち着かせるためだけかもしれない。
それでも俺は嬉しくて、ひたすら洸の体温にすがり付いていた。
「悠、落ち着いたか?」
しばらく経って、優しい口調で洸が聞いてきた。
「ん・・・うん、ゴメン・・・もう大丈夫だから」
泣き疲れたのと、気持ちが落ち着いてきたのもあって、俺は力なく答えるのが精一杯だった。
「その、女の体の事はよく分からないけど、精神的に不安定になったりするんだろ?」
俺がうろたえまくって、パニックに陥っていたのを女性特有な生理現象と
勘違いした洸がばつの悪そうな顔で聞いてくる。
俺は一瞬、洸が何を言っているのかよく分からなかった。
「あ、あぁ・・・まぁ・・・あるみたいだな、そういうことも」
何か勘違いしてるのかなと思いながらそう返す俺。
よくよく考えたら、俺はまだ洸の腕に抱かれた状態でいる。
不安と恐れ、嬉しさと恥ずかしさがいい感じにあいまって、俺は下手に動けない
状態になって固まっている。それでも段々恥ずかしさが勝ってきて
「こ、洸・・・もう本当に平気だから・・・その、離してくれないか?」
と、ちょっと名残惜しそうに言ってみる。しかし
「んー、もうちょいこのままで」
「な、何言ってるんだよ!先生が戻ってきたら変な風に見られるだろ!?」
「そんなにイヤか?こないだはオマエからキスしてきたクセに?」
静かで悪戯っぽく、細く笑いかけながら聞いてくる洸。
投稿日:2007/02/05(月) 20:43:23.12 ID:BT1t2OI80
考えないようにしてたことを突きつけられて、顔が更に赤くなる。
「あ、あれはっ・・・その・・・からかわれた仕返しで・・・その」
「本当に?本当にそれだけか?」
更に細く笑いかけながらそう呟く洸。息が・・・耳にかかって・・・
体が震えてることを自覚する。
「悪かったな、まだ本調子じゃないのにからかう様な真似して・・・
でもまぁ落ち着いたみたいだし、大丈夫そうだな」
意地悪な顔から一変して、優しく微笑みながらそう言って、洸は俺の体を
解放してくれた。俺は少しもったいないことしたかなぁなんて思いながら
洸を見つめていた。そして優しい顔の洸を見ていたらつい
「洸、オマエ・・・俺のこと、気持ち悪いとか・・・思うか?」
と、聞いてしまった。
「どうして?」優しく聞き返してくる洸。
「今日、女体化して告白したら気持ち悪いってフラれた奴がいるって聞いたんだ・・・
それで、みんな女体化した奴のこと気持ち悪いって思ってるのかと思ったんだ」
「そうか・・・俺は気持ち悪いなんて口が裂けても言わない」
「じゃぁ、内心は気持ち悪いって思ってるのか・・・?」
今日はどこまでも思考がネガティブになっている俺。
「思ってても口にはしないってことだよ。それに俺がお前のことを気持ち悪いなんて
思うわけないだろ?」
そういわれて、俺は不安な気持ちが軽くなって、好きでもいいといわれた気がした。
「そっか・・・分かった・・・はは、悪かったな変なこと聞いて、あははは・・・」
「もう、平気だな・・・じゃあ俺は練習に戻るから」
「うん、俺ももう少し休んだら戻るから」
洸は俺に背を向けながら手をひらひらさせて保健室を出て行った。
投稿日:2007/02/05(月) 20:44:01.34 ID:BT1t2OI80
その後、俺は薬をもらって体育館へ戻ることにした。
「まだ寝ててもいいのよ?」と先生が言ってくれたが
「いえ、もう大丈夫ですから」と笑って出て行った。
体育館に戻るとマネージャーの後輩が駆け寄ってきて心配そうに声をかけてきた。
「先輩、大丈夫ですか?急に倒れたからびっくりしちゃいましたよ」
「あー、ごめんごめん。なんか俺も本格的に女の子っていうかなんていうか・・・」
ちょっと気恥ずかしくて、具体的に何がどうかは俺の口から言えなかった。
「あぁ、だから調子悪そうだったんですね?先輩って重いほうですか?」
「うん、そうみたいだね」
恥ずかしくて、口を噤みたい気持ちでいっぱいになるがそう続けた。
しかし、女の子ってこういうのあんまり気にしないのかな?
女の子の話をしながら、練習風景に目をやると今はハーフコートを使って3on3の
練習をしている。その中に洸の姿を見つけ、自然と目で追ってしまう。
「あれ、先輩?もしかして・・・」
「え?!な、何?」
「天宮先輩の・・・」と言われて言葉を遮る様に声を出す俺。
「お、俺は別に!洸とは!」慌てふためいて否定じみた言葉を吐く。
「別にどうとは言ってませんけど?ンフフ~先輩、天宮先輩のこと好きなんですねw」
意地悪そうな笑みを浮かべてそう言われて、赤面する俺。何で俺はこう、嘘がつけないんだ?
「う・・・うん・・・」
へぇ~と面白そうに言う後輩を尻目に、俺は洸が気持ち悪くないと言ってくれたことを
思い出していた。俺は嘘が下手だし、すぐ顔に出る・・・黙っているよりも
さっさと思いを告げたほうがいいんじゃないかな、と考えていた。
投稿日:2007/02/05(月) 20:44:29.46 ID:BT1t2OI80
部活が終わって、俺は洸を誘って一緒に帰ることにした。
「今日はどこかで食って帰るか?」洸にそう言われて、言葉は出さずに頷いた。
「今日は何にするか・・・なんかボリュームのあるものが食いたいな」
朝からぶっ続けで練習してきた洸は相当腹が減ってるんだろう。
「じゃ・・・じゃぁ、カレーとかにするか?確か駅前の辺りに安くて美味しい
お店があったよな・・・」
いつ言おうかタイミングを計りながら、買い食いスポットの提案をする。
「そうだな、カレーなら腹にたまりそうだしそうしよう」
俺たちはそういって駅前のカレー屋に向かった。
カレー屋についた俺たちは各々好きなモノを頼んでカレーが来るのを待つ。
俺はオニオンカレー、洸はカツカレーを頼んだ。頼んで物の数分で料理がやってくる。
どうでもいいけどこういう店ってやたら出てくるの早いよなぁ・・・。
お?このオニオンカレー美味しいな・・・ガーリックの香ばしさがいい感じ。
洸も大ボリュームのカツカレーを黙々と食べている。
ひとしきり食べ終わって水を飲みながら、ゆっくり腹ごなしをしていた。
俺はこれからどうやって洸に思いを伝えるかで悩んでいた。
正直な話、今までの行動でバレバレなような気がしなくもないんだが・・・。
でもハッキリさせないと俺がモヤモヤするのと不安で気分が悪い。
洸はなんとも思ってなさそうだ、全然態度に出さないから正直何を考えて
いるのか分からない。それとも本当になんとも思っていないのかな?
投稿日:2007/02/05(月) 20:44:57.56 ID:BT1t2OI80
お会計を済ませて店の外に出た俺は、思いの丈を告げることを決意した。
思い切って洸の方へ振り返り、目を見てゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「洸・・・俺・・・」決心したもののいざとなるとやはり言葉が出ない。
「ん、どうした?」
「あ、あのさ・・・俺・・・俺、お・・・お前のこと・・・」
恥ずかしさと不安で心臓が爆発しそうで、決心が鈍りそうになる。
その間も洸は何も言わず、ただ聞いてくれている。
「お・・・お前のこと・・・その、す・・・好きに・・・好きになったんだ・・・」
すんごく尻すぼみになりながらも、今の自分の気持ちを真剣に伝えた。
怖い、どういう返事が返ってくるのか全く見えないから・・・。
「今更何言ってんだよ?俺もお前のこと好きだぞ」
その言葉を聞いた瞬間心臓がバクンっと跳ね上がった気がした。
「え、そ・・・それって・・・?」信じられず聞き返す。
「俺たち友達だろ?友達なんだから好きに決まってるじゃないか」
ギャグ漫画のように派手にズッコケたい気分になりながら肩を落とす。
こいつ・・・今までのはマジでからかってただけなのか・・・。
・・・っこの鈍感!と叫んで頬をひっぱたいてやりたい気持ちが込上げる。
それでも必死に堪えて「ち、違うっ・・・俺が言いたいのはっ!」
そう叫ぶように目を見て言うと。洸は短く「・・・本気か?」とだけ言う。
「あ・・・あぁ、俺は・・・洸が好き・・・なんだ。その、そういう対象として」
そう静かに、呟くように言う。目を逸らしたい、でもこういうときに目を逸らすのは
良くないと思う。だから俺は俺のすべてを振り絞って目を見つめ続ける。
「そうか・・・俺もお前のことは好きだ。でも、それがお前と同じ『好き』なのかは
正直言って、わからない」
そう、洸も真剣に返してくれる。YESなのかNOなのかハッキリしない曖昧な答えだが。
投稿日:2007/02/05(月) 20:46:13.57 ID:BT1t2OI80
「俺は、中途半端な気持ちのまま誰かとそういう関係になるのは好きじゃない」
そう言われて、俺は振られるんだなと確信めいたものを感じていた。
「でも・・・お前に好きだと言われて、俺の気持ちが昂ぶったのは事実だ。
それに、お前に男の恋人が出来た時の事を考えたら、イヤな気持ちになった」
振られることを覚悟していた俺は、あまり洸の言葉が耳に入ってきていなかった。
「だから、俺もお前のことがそういった意味で好きなんだと思う」
「え・・・?今なんて?」
「俺もお前が好きだって言ったんだよ」
そう言って洸は、そっと俺のおでこに口付けをした。別に口にキスをされたわけでは
ないのに、俺は呆けたまま顔を真っ赤にしていた。
「わ、悪い・・・その俺にはまだこれが限界、かな」
洸は顔を高潮させながら頬をかきながらそう言って目を逸らした。
「ほ、本当に・・・?本当に俺と・・・その付き合ってくれる・・・のか?」
「あぁ、好きだよ・・・悠・・・」そう言いながら俺の髪をそっと梳く。
嬉しさと、心地よさで自分の体がピクっとなるのを感じた。
「あ、あの・・・洸・・・こ、これから・・・その、よろしくな?」
おずおずと洸を見上げながら、俺はそういった。
「あぁ、よろしくな悠」
目を細めて、フッと優しく微笑む洸がそういった。
俺は爪先立ちのように身を伸ばして、洸の頬にそっと口付けた。
すぐ離れてしまったけれど、それから俺は洸に向かってへへって笑いかけた。
「・・・お前、ニンニク食ったろ・・・」
さっき食べたカレーを思い出して赤くなる。こうなることを考えて避けるべきだった。
「う、うるさい!」と言って俺は洸の鳩尾に一発ぶち込んだ。
終わり
最終更新:2008年08月02日 12:45