俺がまだ小学生低学年だった頃、ひいばあちゃんの家によく遊びにいった思い出がある。
ばあちゃんちのそばには神社があって、その神社の敷地内には公園にある遊具が
いくつかおいてあったのを覚えてる。
あと、でっかい樹が一本立ってた。すごく堂々とした古木で、多分御神木なんだろうな。
俺は、ばあちゃんちに行く度に神社に行っては近所の同い年ぐらいの子供と遊んでた。
神社の境内でかくれんぼしたり、鬼ごっこしたり、野球やサッカーもやった。
近所の窓ガラス割って怒られたのもいい思い出だ。
あの時一緒に遊んでた奴等の中でも、ひときわ仲が良かった奴がいた。
名前はちょっと忘れちまったけど、一番気が合ういい奴だったんだ。
一緒に背比べして御神木に互いの身長を刻みあったりして、会うたびに色んな事を競い合った。
小さい頃の記憶の中で一番楽しかった思い出かもしれない。
ばあちゃんは俺が小学4年生の時に死んで、ばあちゃんちはもうない。
それからはあの神社にも行くことがなくなって、次第に地元の奴らとしか遊ばなくなった。
でも・・・なんで今頃こんなことを思い出すんだろう?
「―――き・・・弘樹!起きなさい!遅刻するわよ!」
耳元で怒鳴られて跳ね起きる俺。
「か、母さん・・・あれ、俺寝てたのか・・・」
目をこすりながらまどろむ頭を叩き起こす。時計に目をやるとかなりギリギリな時間を指している。
「う、うわやっべ!母さんパン頂戴!食いながら行くわ」
そう言うと俺は急いでパジャマを脱ぎ、制服に着替える。
居間で用意されているパンを一枚咥えて俺は学校へと向かった。
715 名前:ちょめ助 ◆1qUcSvsxGs []:2007/06/12(火) 22:09:19.56 ID:puTSv6RH0
今日は入学式である。入学早々遅刻とかマジあり得ない。俺は全力の限りをもって学校へ向かう。
俺は朝が弱く、起きるのが苦手だ。だから学校は近場にした。
その選択は間違っていなかったと、心の底から思う。
等と、あほなことを考えているうちに学校に到着する。急いで掲示板を見て、
自分の教室を確認するとその教室へ向かった。
そーっとドアを開けると、まだ先生は来ておらずギリギリ間に合ったようだ。
「はー・・・セーフ・・・」
そう一人ごちすると、俺は張り紙にあった自分の席を探して座った。
「よっ弘樹!入学早々遅刻寸前とは・・・相変わらずだなw」
そういって話しかけてくるコイツは中学生の時からの親友で、名前は後藤裕也。
同じ高校を目指して一緒に勉強もした。
「うっせーよ、学校も最近流行のフレックスタイムを導入すればいいんだよ」
「んな無茶なw」
馬鹿話をしていると、先生が入ってきて入学式の段取りを説明していく。
その後はツマラナイ入学式の始まりだ。
入学式中ずーっと寝ていた俺は、何度か担任らしき先生に頭を叩かれる。
その様子を見ていた同じクラスになった女子や裕也に笑われた。
716 名前:ちょめ助 ◆1qUcSvsxGs []:2007/06/12(火) 22:10:23.89 ID:puTSv6RH0
今日は入学式なので授業もなく、すぐに解放される。
退屈な入学式の後、教室に戻った俺は裕也や同じ中学出身の奴等とくだらない話で盛り上がっていた。
「なぁ裕也、お前ってもう童貞卒業したのか?」
「あー、ついこないだな。女体化すれすれで危なかったぜw」
「弘樹、お前は?」
「あ?俺はまだ童貞だよ・・・なんか文句あんのか?」
そう、俺はまだ童貞なのだ。そろそろ本気で考えないと女体化してしまうかもしれない。
「あー、じゃあ女になったら一発ヤらせろな?」
「アホか、誰がお前とw」
クラスの女子もいるのに下品な話で盛り上がる俺らバカ一同。
そんなことしているうちに担任らしき教師が教室に入ってくる。
「お前ら騒いでんな!さっさと席につかんか」
「へーい」とバカ一同。
どーせ明日からの事とか話がちょっとあってすぐ解散だろ、とぼーっと外を眺めていると
こういうときお決まりのお約束イベントがやってくる。所謂、自己紹介って奴だ。
みんな適当に名前と出身中学を挙げて、だるそうに終わらせていく。
極々稀に趣味やら特技ならを妙に熱く語る馬鹿が数名いる程度だ。
俺も適当に名前と出身校を紹介してさっさと済ませた。
ただ、ひとつだけ気になったのは、見知らぬ女子が驚いたような顔でこちらを見ていたぐらいか。
719 名前:ちょめ助 ◆1qUcSvsxGs []:2007/06/12(火) 22:14:01.40 ID:puTSv6RH0
そんなこんなで、高校初日はさっくりと終わり、俺は裕也と適当に寄り道しながら家に帰った。
家についてからは、明日の用意と風呂と食事をさっさと済ませたぐらいで
特にやることも、やりたいことも思いつかずに寝ることにした。
部屋の明かりを消し、布団にもぐりこんだところで頭に浮かんでくるのは今朝の夢。
それと、自己紹介の時に気になった女子の顔。
会った事もない女の子に驚かれるほど、俺は不細工 or かっこいいのか?
まぁ、後者はないとしても・・・なぜあんなに驚いた顔をしていたのか・・・。
一度気になりだすとなかなか考えを払拭できない俺の悪い癖。
俺が寝坊する大半の理由はそれが原因だ。
「あの子・・・なんであんなに・・・」
そう独り言をつぶやくと、意識が不意に遠くなっていった。
728 名前:ちょめ助 ◆1qUcSvsxGs []:2007/06/12(火) 22:20:23.16 ID:puTSv6RH0
―― 白く靄がかかっていてあたりを見渡すのは困難だが・・・
とても見覚えのある景色、ここは間違いなく記憶の中にある思い出の場所。
それを夢だと判断するまでに、さして時間はかからなかった。
今朝といい今といい、なぜ今になってこんなに昔の思い出ばかりが頭をよぎるのか?
考えてもわからない。出ない答えを探して呆然と立ち尽くしていると、不意に
横から声をかけられる。
「ヒロ君!ヒロ君は大きくなったら何になりたい?」
あまりに脈絡もなく唐突なその問いに対して、俺はなんと答えていいのか分からず
問いかけてきた人物の方へそっと目をやる。
視界に入ってきたのは少し大きめの野球帽をかぶった少年のシルエット。
顔はぼやけてよく分からないが間違いない、この子はあの子だ・・・。
名前も顔も思い出せないけれど、一番仲のよかったあの子。
この質問もなんとなく記憶にある。俺はあの時なんて答えたっけ?
そう思っていると、不意に口が勝手に動く。
「そうだなぁ、俺はカッコイイ○○みたいなヒーローになりたい」
子供の頃の話とはいえ、我ながら馬鹿な回答をしたと思う。
しかし、その子は馬鹿にした風もなく真剣に聞いてくれている。
そこで、俺はその子に逆に聞き返す。
「じゃあ、お前は何になりたいんだ?」
その子は少しだけ間をおいてから、ニコっと微笑んですぐに答えを返してくる。
「ヒロ君のお嫁さん」
732 名前:ちょめ助 ◆1qUcSvsxGs []:2007/06/12(火) 22:22:43.31 ID:puTSv6RH0
俺は驚いて夢の中から華麗に脱出して見せた。
何だあの夢は?俺にはそんな趣味はねーぞ?
なんだったんだ・・・いったい・・・。
俺にしてはかなりの早起きになったが、目覚めは最悪だった。
男の子からのお嫁さん発言。夢って記憶の整理だったり願望だったりするって
聞いたけど・・・、昔本当にあんなことを言われたのか?
もし願望だったとしたら・・・ショタ好きとか洒落にならねぇ・・・
朝っぱらから相当な陰鬱さを抱え、あんまり飯ものどを通らず元気も出ない。
「ロリコンのホモなんて洒落にならねーだろ・・・常識的に考えて」などと独り言をつぶやきながら家を出る。
俺が通う高校までの道は並木道があり、レンガを敷き詰めたなかなかハイカラ(笑)な
つくりになっていて、秋ごろになるといい感じのデートスポットにもなるらしい。
近くにはお洒落な喫茶店や隠れ家的な飲食店もあり、買い物には向かないが
とても雰囲気のいい並木道である。
そして、並木道を抜けると少々広めな公園があり、その中心には大きな木が
シンボルとして一本立っている。そこがまた恋人たちにとってはかっこうのキッシングポインツらしい。
そこは俺の通う学校までの近道になることを発見したため、今日もそこを歩いているのだが
数組のカップルがことに励んでいる。朝っぱらかよくやるもんだ・・・。
そうこうしている内にこの公園のシンボルである一本の大きな木の前に到着する。
こうして大きな木を眺めていると、朝の夢と相まって昔のことを思い出させる。
不意に今日の朝の夢で言われた一言を思い出す。
──ヒロ君のお嫁さん・・・──
俺は真っ赤になった顔を冷ますかのように朝の冷たい風を受けながら学校まで
走っていった。走れば余計暑くなるというにもかかわらず・・・。
最終更新:2008年08月02日 12:46