『ちぇりー☆ぶらっさむ』【後編】

 彼女からの意外な言葉。急展開すぎないか?
 さっきから言っているように、彼女とはそこまで仲がよい訳ではない。
 1年の時に同じクラスであったとういうだけ。それ以外何もない。
 この積極的なお誘い。俺は心の中で何か希望が芽生えてきた。
(もしかして・・・俺に気があるのか・・・)
 彼女は俺の返事をもじもじとしながら待っていた。
 どうしようかな、と頭を掻きながら待つ俺に、水上が上目使いで攻撃してくる。
 何かを訴えかけるようなその視線。
 これは断れないフラグびんびんである。
「べ、別に・・・構わないけど・・・」
 俺は恥ずかしそうに言う。
 その言葉を待ってましたといわんばかりに、彼女ははしゃいだ。
「本当?それじゃ、こっちこっち!」
 彼女は俺の腕をつかみ、自宅への玄関まで引っ張られた。

「今日からね、ウチの人は旅行に出かけちゃってるの。」
 玄関の鍵を開けながら話す。
 なるほど。道理で積極的に家に上がらせようとしたのか。
 ・・・ってそれはなるほどと単純に理解してはいけない。
 これは・・・本当に・・・あるぞ・・・
 彼女の家に上がった途端に、俺の心臓は一気に激しく動き始めた。



 ごく一般的な間取り、3LDKの彼女の家は、それなりの広さを持っていた。
「ここ、アタシの部屋・・・ここでちょっと待っててね。」
 玄関入ってすぐ横に、さくらの部屋はあった。
 ドアには「さくらのお部屋」と可愛らしいポップ体で書かれた板があった。
「つーかいきなりこれって・・・ないわ・・・」
 未だに自分の置かれた状況が把握できていない。
 偶然であって、いきなり同級生の部屋の前。
 ありえない。絶対にありえない。
 エロゲ的な展開ではあるが、よもや現実で起ころうとは思ってもいなかった。
 俺の思っているようなことは起こらないんだろうな、と呟きながらも、心の奥底ではほのかに期待はしていた。

 5分くらい経ったのだろう。部屋の中から声がした。
「入っていいよ・・・」
 部屋の片付けでもしていたのだろう。
 俺はそう思いながらさくらの部屋へと足を踏み入れる。
 禁断の領域に踏み入れたような感じで、俺の心臓はずっとどきどきしっぱなしだ。
「ちょっと・・・散らかってるけど・・・」
 恥ずかしそうに言う。
 俺から見ると、どこが散らかっているのかさっぱりだ。
 小奇麗にまとまった部屋、ほのかに漂うフローラルな香り。
 いかにも女性の部屋、という感じがした。

「そこにでも座って。」
 ベッドに腰掛けている彼女が、小さな円形テーブルとぬこの絵が描いてある座布団を指差した。
 俺は彼女の言うとおり、その場所に腰掛けた。
「どうして水上さんは俺をここに連れてきたの?」
 俺は早速疑問を投げかける。
 ふふっと口元に笑みを浮かべながら彼女は答えた。
「どうしてって、大前君のことが好きだからよ。」
 あっさりとその言葉を出してきた。
 もうちょっと躊躇してだしてくるものかと予想していたのだが、呆気なく放たれたその言葉、少し驚いた。
 恥ずかしがりながら言うというシュチュエーションを想像していた俺にとって、いい意味で、ある意味悪い意味でだまされた。
「ちょちょちょ、いきなりそんなこと言われても・・・」
「好きじゃなかったら、私の家に男の子なんか連れてこないよ。」
「う、まあ、そうだよ・・・な・・・」
 完全にさくらのペース。
 コンビニで出会ったときの彼女とは大違い。一体どこで吹っ切れたのか不思議だ。
 しどろもどろしている俺に、さらに彼女は畳み掛ける。

「ねえ・・・大前君って童貞?」

 清楚な彼女からは予想もしないような単語が飛び出した。
 ぐふっと俺は咳き込んだ。
「ちょwストレートでその表現っすか。」
「だって、遠まわしで言うの面倒なんだもん。」
「って言ったって、多少躊躇するもんだろ?」
「別に。私にとってこれはほんの序の口程度の言葉よ?」
 俺は彼女の意外な一面を見てしまった。
 ふと本棚とかに目をやると、フランスなんとか院とか、聞いたことのないような出版者の本がずらりと並んでいた。
 題名に目をやると・・・到底中学生が読むとは思えないようなものがたくさんあった。
 濡れた団地妻、教師と生徒のいけない股人授業・・・
 俺でさえ見ないようなジャンルのものがたくさんある。
 ぽかーんとあっけに取られていた。
「どうしたの?大前君?」
 彼女は俺の目線の先にあるものに気がついた。
 何か見てはいけないものを見たような表情をしている俺に、ふふっと笑いながら言う。
「私ね、そういう話大好きなのよね。意外かな?」
 意外です。とてもそんな清楚な感じなあなたから見受けることができません。
 でも言葉に出しては言わなかった。
 あんなものがおおっぴらに置いてあるんだから、もっと凄いものがあるんじゃないかと俺は予感していた。
 そう、その予感どおり、彼女の部屋にはもうちょっと色々なものがあった。



 彼女の部屋に入ってからどれくらいが経ったのだろうか?
 ずっと彼女のターンなお陰で、俺は何もすることができなかった。
 不思議、というか中学生の女の子はこれほどまで進んでいたのか?
 男である俺でさえこんなにいってはないぜ?
 心の中で自問自答が続き、少しばかりの沈黙の中、ついに彼女は俺の待ち望んでいた?であろう言葉を発した。
「やっちゃう?」
 あっけらかんと言う。何の躊躇もなく、その言葉は出てきた。
 俺は彼女とは違い、どうしようかと躊躇していた。
(これは・・・何かの夢じゃないのか・・・?)
 頬をつねってみる。痛い。
 いきなり彼女の胸を揉んでみる。思ったより柔らかくない。
 流石の彼女も突然の行為に驚いた。
 しかし彼女は俺が全てを受け入れたと思い、口付けをしてきた。
 彼女の微かな吐息が俺の唇にかかる。唇は柔らかい。
 俺は心の中でカウントをしていた。
 5秒、6秒、7秒、8秒・・・・・・19秒・・・
 20秒経つ前に、彼女と俺は一旦重ね合わせていた唇を離した。
 互いに目線を合わせ、何かを確認した後に、再び唇を合わせた。
 今度は先程とは違う。もっと激しい接吻であった。
 互いの舌が絡み合う。くちゅくちゅといやらしい音を立てながら、激しさはさらに増す。
 到底これだけでは収まりきらない俺ら。
 彼女をベッドに押し倒し、俺は彼女の目を見る。
 潤んだその瞳、何かを求めている。
 俺は彼女に対し、全力の笑顔を見せてあげた。
 時計の無機質な音だけが、部屋に響いていた。



 強い日差しが照りつけるとある夏の日。
 大きな入道雲が遠くに見えるが、現時点で雨の心配は全くない。今日は都大会の決勝戦だ。
「それにしても、ウチの学校が決勝に行くなんてすごいんじゃないの?」
「そうだよね、まさか行くとは思ってなかったもん・・・」
 スタンドで今か今かとナインの出番を待ちわびる。
 都大会の決勝ともなると、スタンドが結構埋め尽くされる。
 白谷中学のスタンドにも、校長を始め数多くの観客が応援に来ている。
 あたしたちもその一人。今日はあいつらの晴れ舞台を見に来たのだ。
「あっ、始まるよ!」
 黄色いメガホンをパンパンと叩く。
 頑張れよー、と後ろから大きな声が聞こえてきた。
 いよいよ・・・いよいよだ!

「ここまで来たんだから、後は楽しもう・・・!」
 円陣を組む中心に立ちながら、俺はみんなに声をかける。
 翼、そして共に戦ってきた仲間達は、素晴らしい笑顔を見せていた。
 誰も緊張している様子はない。あえていうのなら、高幡先生くらいだろうか。
「つばさ・・・夢の始まりだ!」
 翼は力強く頷き、熱気高まるダイヤモンドへ飛び出していった。
「さくら・・・しっかり見ててくれよ・・・」
 目を閉じながら胸のところのお守りをぎゅっと握り締める。
 ベンチ前で並んでいるチームメイトは今か今かと集合の合図を待っていた。
 俺と翼は顔をあわせる。
 こくん、と頷くだけ。いまさら確認は何も要らない。
 審判の声高らかに集合の合図がかかる。

 俺たちの夢が・・・始まった・・・!


【ちぇりー☆ぶらっさむ~完~】



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最終更新:2008年09月17日 23:13
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