何が起きたのか彼女自身も把握しきれていない。
ここで叫ばれてもおかしくないのだが、彼女は一切抵抗する素振りを見せない。
俺は調子に乗って、彼女の口の中に舌を絡ませる。
彼女の舌のざらざらした感覚をじっくりと味わう。
互いの唾液が絡み合い、くちゅくちゅといういやらしい音を立てながら、さらに強く抱き締めた。
頭の中はすでに真っ白。俺自身も何をしているのかわからない状態だ。
俺の足はがくがくと震えており、彼女を抱きしめていないと恐らく崩れ落ちるだろう。
重なり合っていた唇を一旦離し、互いを見つめあう。
彼女は完全に目がうつろになっており、焦点が定まっていない。
好機・・・完全無欠の超好機・・・!
理性を完全に失った俺は、彼女を強引にベッドに押し倒そうとする。
身の危険を感じた彼女は、俺を押し退けようとする。だが力では俺のほうがまだまだ上。
ほどなくして諦め、どさっとベッドに仰向けになった。
乱れた衣服が、俺の興奮をさらに高めてしまっていた。
明らかに嫌がっている彼女の表情。だが理性を失ってしまっている以上、誰にも止めようがない。
彼女の目から、大きな涙がぼろぼろと零れ落ちる。
「仙川くん・・・こんな形でなんて・・・嫌だよ・・・」
声を震わせながら言う。いつもは気の強い彼女からは想像もつかない姿だ。
彼女が言葉を発しているということは確認できた。
だが暴走している俺の耳には全く入ってこない。
鼻息荒く、全身がものすごく熱い。服を全部脱ぎだしたいくらい熱い。
俺は一心不乱に彼女の服を脱がし始める。
嫌がる彼女。だが嫌がれば嫌がるほど、俺は性的興奮を覚えていくのであった。
彼女の上半身は、青いブラジャーしかない。白く透き通っている肌が、少しばかり赤色に染まっている。
それ以外の服は全部ベッドの傍らに放り投げてある。
嗚咽を漏らしながら泣く彼女。だが今の俺には、その嫌がる姿さえ興奮してしまう。
過呼吸気味になっている俺。自分が何をしているのか、どうなっているのか全く分からない。
あまりにも強すぎる性欲が、僅かばかり残っていた自制心を次々に剥ぎ取って行く。
「ねえ、本当はこういうことしたかったんでしょ?」
「そんなことないよ・・・」
弱弱しい反応を見せる彼女。普通に考えれば彼女の言うことを聞くのだが、今の俺には聞こえない。
「う、嘘だ・・・嘘だうそだウソダ!!!」
突然叫びだす俺。自分でも何が起きているのか全く分からない。
豹変する俺の姿に、彼女はびくんとする。
彼女の抵抗する言葉にスイッチが入ってしまったのだろうか。
今までこんな風になったことは一度もないのだが・・・
「仙川くん・・・本当にどうしたの・・・」
「どうもこうも、お前が悪いんだ! お前が・・・お前がっ・・・」
「せんがわ・・・くん?」
俺は声を震わせながら、押し倒していた彼女から離れる。
知らず知らずのうちに涙がぼろぼろと溢れ出していた。
どうして、というような表情で俺のことを見てくる。
これだけの短時間に喜怒哀楽が一気に出てくるということも滅多にないからだろうか。
彼女が見つめる中、俺は泣き続けた。
止めようとしても、止まらない。
恐らく、俺の思考回路が正常に戻ってきた証拠なのだろう。
半裸状態の彼女の姿を見て、とんでもないことをしてしまった罪悪感が一気に襲ってきている。
顔を覆い隠しても止まらない涙。もう、後戻りのできない位置に来てしまった。
それから1時間、俺は一人で泣き続けた。
彼女はどうすることもできず、ずっと半裸の状態でベッドに佇んでいた。
延々と溢れ出す涙。ヒトの涙は、これほどまで出続けるものなのだろうか。
このままの状態だったら、俺の体から水分がなくなってしまうんじゃないかっていう感じだ。
「仙川君・・・?」
重い空気を引き裂くように、彼女が言葉を発する。
申し訳なさそうな表情で、ゆっくりと彼女のことを見る。
「帰っても・・・大丈夫かな?」
上半身を毛布で隠しながら、時計を見て言う。
今まで時間を確認していなかった俺は、今ようやく時計を目にする。
時刻は、既に午前1時を回っていた。
こんな遅くまで外をほっつき歩いていれば、親は心配するだろう。
友人の家に遊び行ってくると行ったとは言え、まだ高校2年生。まだまだ夜遊びするには早い年齢だ。
「う・・・うん。遅くまでごめんね。」
いつの間にか涙は枯れていた。俺の中の水亀がなくなったのだろうか。
「いやいや・・・私こそお邪魔しちゃってごめんね・・・。」
つい1時間前にあんなことがあったとは思えないような雰囲気。
ぎこちないというか、互いに警戒し合っているというか。
彼女が服を着終えるのを確認し、玄関へ向かう。
玄関まで互いに無言のまま。話したくても話せない。というか、何を話していいのかわからない。
彼女は無表情で靴を履き、無言のまま俺の家を後にした。
俺は彼女のことを見送ることなく、そのまま自分の部屋に戻った。
しわくちゃになったベッドに仰向けになる。
少しばかり彼女のぬくもりが残っており、ふと彼女の姿が頭に浮かぶ。
いつも俺の前では笑顔でいてくれていた彼女。
いつも俺に対しては優しくしてくれていた彼女。
いつも俺のことを気遣ってくれていた彼女。
そんな彼女に、俺はひどいことをしたのだ。
今さらながら冷静になる。だが時すでに遅し。
「後悔」という言葉が次々と俺の頭の中に襲いかかる。
あんなことをしてしまったのだから、明日からは当然ぎくしゃくした関係になることは間違いない。
「ごめん」と言って済むような問題ではない。
自分の性欲を抑えられなかったこと、そして彼女を傷つけてしまった自分に対して怒りが沸いてくる。
明日学校に行ってどうなるのか、見当もつかない。
もしかしたら俺の机や椅子が校庭に放りだされているかもしれない。
「お前の席ねぇから」と言われてもおかしくはない。
それだけ、俺は大変なことをしでかしてしまったのだ。
だが、今はそんなことを考えていても前には進めない。
それに今日も学校があるのだ。
とりあえず、寝る。寝て少し自分を落ち着かせる。
これからどんなことが起きるのか、全く見当がつかない。
ただ、いい道に進まないだろうということは確かだ。
涙する彼女の姿が、頭からずっと離れずに残っていた。
最終更新:2008年09月19日 22:22