鈴虫の音色が聞こえる秋月の夜。今日は気のおける仲間と共に、女体化してしまった翼の家に泊まりにきていた。
パワプロやウイイレ、スマブラなどをやっていたのだが飽きてしまい、傍に置いてあったトランプで遊ぶことにした。
「これであがり!」
「ちょwそれジョーカーじゃねーかよw」
ババ抜きをしているのだが、翼がジョーカーを他のカードと共に捨てて上がっていた。
あからさまなルール違反。昔っからこいつは変りない。
ただ変ったところといえば、すごく可愛くなったということ。沢尻エリカの毒が抜けた感じとでもいおうか。
こいつの変貌振りには、仲間内だけに留まらず、学校全体に衝撃を与えた。
「ちょっとネット見てもいい?」
トランプに飽きた翼が、テーブルの上に置いてあるパソコンの電源をつけた。
今巷で話題の動画サイトにアクセスし、かちゃかちゃと文字を打ち込んだ。
モニターに目をやると、「くやいしのうwwwwくやしいのうwwwww」と無数の弾幕。
「はだしのゲンっすかwww」
俺らは苦笑いしながら翼のことを見ていた。
「すっごく名作なんだからね!」
頬を少し膨らませながら言う。可愛らしいその表情に、少しどきっとした。
俺らも少し遠くからはだしのゲンを見ていた。
翼は俺らがいることを忘れているかのように、パソコンに食らいついていた。
ふと翼に目をやると、涙が頬を伝っていた。
「いいかゲン?戦争というのは―――――」
どうやら彼・・・いや、彼女にとっての涙腺崩壊シーンらしい。
翼は滅多なことがないと泣くことはない。その光景は珍しいものなのだ。
俺も家に帰ったらレンタルで借りてこよう。
そう思った19の夜。
最終更新:2008年08月02日 15:23