「・・・俺にそんなもの見せ付けてどうしようってんだ?」
「いや、お前に色々と手伝ってもらいたくてね。」
学校祭まで後一週間。
放課後のだと言うのに多くの生徒が学校内に残っている。
授業中もこれくらいのパワーを出せと先生から怒られそうなくらい、皆張り切っている。
かくいう俺もそのなかの一人なのだが。
俺は今、友人に呼ばれて軽音楽部の部室へと来ている。
ギターやドラムが狭い部室の中に置かれており、半分以上のスペースを占めている。
圧迫感を感じながら俺と友人がこの部室に二人。これが男同士だったらどうってことない。
俺の向かい側に座っている相手は女の子。
短くまとまった髪が特徴的で、やや小ぶりな胸に目が行く。
いやいや、行ってしまってはいけない・・・。
こいつは元男だ。あんなことやこんなこと、色々二人で馬鹿なことをやってきた。
だがシチュエーション的にはおいしい。
狭い部室に男と女・・・ジュルリ。
・・・いや、そんなことは考えてはいけない。俺は別件で呼ばれているのだ。
襲い掛かる邪念をどうにかして振り払い、必死に友人の話に耳を傾ける。
これがこうこう、あれがあうあう、と言っているコトは右から左へ受け流す。
必死に聞いているフリをしていても、心は正直だ。
「でさ、このギブソン・レスポール・スタンダードを使ってさ・・・なんちゃらかんちゃら」
「いや、何を言ってるのかよく分からないんだけ・・・」
「何!?お前この形のよさがわからねぇのか!?」
「いや、それが本題なの・・・?」
明らかに話が脱線している。
本来は、軽音楽部が学校祭でやるライブに、俺が穴埋めで出てくれないかということ。
最初はそんな話をしていたのだが、途中から彼女の熱いギター話になってしまっていた。
「まあ、確かに本題じゃないけど・・・とにかく、俺の話を聞いてくれよ。」
「・・・帰るわ。」
いい加減、彼女の話に俺は嫌気が差していた。
素人相手にディープなお話。こんな話をされてしまっては、時間の無駄だ。
傍らに置いてあった鞄を手に取り、ドアに手を掛けた。
「待って!」
彼女の声が小さな部屋に響く。
女の子の声で待ってと言われたら振り返らずにはいられない。
ゆっくりと彼女の方を振り向くと、椅子から立ち上がり、俺のことをじっと見つめていた。
見つめていたというより、睨んでいるようにも見える。
よく見ると、小刻みに震えている。泣いているのだろうか?
俺が彼女の話を聞かなかったばかりに、泣き出したのだろうか?
そんな理不尽なことがあってたまるか。
一方的にどうでもいい話をされ、面倒臭くなって帰ろうとしたらこの姿。
一体俺が何をしたというのでしょうか?
頭を掻きながら、面倒臭そうに彼女に話しかける。
「・・・何?」
「・・・ごめん。」
少し声を震わせながらの一言。実に意外な一言であった。
男の頃であったら、「うるせぇ」「は?俺の話無視すんな」とかそういうことを平気で言って来る様なヤツだったのだが、まさかの謝りのお言葉。
何で謝られたのか、俺も一瞬分からなかった。
「いや、謝ることはないだろ?」
「だって・・・怒ってるでしょ?」
目をうるうるさせながら、上目遣いで俺のことを見てくる。
心臓の音が聞こえてきそうなくらい、俺はどきっとする。
何でそんな目線で俺のことを見てくるんだ?
そんな目で見られたら、たとえ相手が元男だろうと関係ないぜ。
再び襲い掛かる欲望達。ここで襲い掛かっては、色々と問題が・・・。
「と、とにかく謝る必要はないって。」
「うん・・・ごめん・・・」
「だ・か・ら!謝らなくていいって!」
何度も謝ってくる彼女に少し苛つき、やや強い口調で答える。
体をびくんとさせ、体を小さく丸める。
・・何だか、弱くなっちゃったなぁ・・
数分間、そのままの状態で二人は動けずにいた。
俺は、場の空気が悪くなってきているのがよく分かった。
悪くなってきているというか、重くなってきている。
どこにもぶつけようのない感じが、俺の中でもやもやと蠢いていた。
「・・・それじゃ、俺帰るね・・・」
俺はこの状況を打破すべく、重い口をどうにかして開けた。
彼女は床に丸くなったまま。この状態だとまだまだ時間がかかりそうだった。
少しため息をつき、ドアに手をかける。
部屋を出る際も、ずっと彼女のことを見つめていたが、こちらのほうを見る様子は一切なかった。
ぴしゃりと戸を閉める。ひんやりとした空気が漂う廊下に一人佇む。
部屋から出た途端、一気に罪悪感というものが襲ってきた。
自分自身では悪いことをしたように思えないのだが、一人になった途端に不思議と感じる。
どこにもぶつけようのない想いが蠢く。俺は紅く輝く西日を浴びていた。
「そういえば、なんであの時お前泣いてたの?」
「え?嘘泣きだよ!」
「・・・はぁ?」
拍子抜けした俺の声が、喫煙室全体に響いた。
そこにいた全ての人が俺たちのことを見てくる。
サーセンと軽く頭を下げながら、話の続きを聞く。
「嘘泣きって・・・なんで?」
「だってああでもしないと、人がいなかったんだもん。」
「何で俺じゃないと駄目だったの?」
「・・・何となく。」
その言葉に呆気に取られた。
ようは俺は手玉に取られていたのか。
俺の性格を利用して、ああいう行動を取っていたのか。
やられた、一本どころではないくらいやられた。
彼女は意気揚々と煙草を吸う。
とても清々しい表情。一瞬彼女のことを殴りたくなった。
でもあの時、ああしてしまった自分。悔やんでも悔やみきれない。
いい思い出になったって言えばそうだが、顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。
「ええっと・・・あったあった。」
彼女はハンドバッグから写真を一枚取り出す。
そこには俺と彼女、そして数人が写っている。
「こwれwはwwwwwwwwお前やめれwwwwwww」
「やだよww」
必死にその写真を取り上げようとする俺。逃げ回る彼女。
どこからどうみても仲のよいカップル?にしか見られないだろう。
あのときの俺がどうしたのか、皆さん既にお分かりでしょう。
持つべきものは、良心溢れる友人です。
はい、終了です
安価くれた人、期待通りにいかなくてごめんねw
4/4の所は、後日談的な感じで
煙草吸ってるんで大学2、3年生くらいになった二人ってことでお願いします
最終更新:2008年08月02日 15:37