性別が変れば、性格も変るものなのか。
明らかに昔の自分とは違う。間違いなく違う。
今までは自分の思い通りに行かなければ荒れ狂うような性格だったのだが、逆転している。
何か言われたら「はいすいません」「ごめんなさい」と低い物腰。強く言い返せなくなっている。
不思議だ。女体化が原因としか考えようがない。
4時限目が終わる事を告げるチャイムが鳴り響く。
雑談に耽っていた人や、眠っていた人たちが一斉に動き出す。
これから待ちに待った昼休みの時間だ。
「おいサチ、焼きソバパン買ってきて。」
「あ、俺にも。」
「俺には関東レモンな。」
俺はいつものメンバーにおつかいを頼まれる。
頼まれているというより、半ば強引に行かされている。
このメンバー、昔俺がいじめていたメンバーだ。
俺が女体化して性格や力が弱くなったことをいいことに、面白いように俺のことをいじめてくる。
一応女性の体なので手加減はしてくるが、結構体に響く。
男だった頃ならこんなものどうってことなかったのだが、やはり女性の体だ。
こん棒のように太くて堅かった俺の腕も、白くてか弱い枝のようなものになっている。
こんな状態で彼らを殴ったって、痛くも痒くもないだろう。逆に俺が痛くなる。
昔は指示されるということが一番嫌であった。
あれこれやれと言われると、よく逆上していた。
だが最近では、指示されることが何だか楽しい。
俺は指示されたとおり、焼きソバパンなど指定されたものを買ってきた。
「・・・おい、関東レモンがないぞ・・・」
そういえばそんなもの忘れていた。
彼は無言で俺のことを睨み付ける。彼は関東レモンがないと暴れだす、厄介なヤツだ。
俺は急いで購買所に戻る。何となく嫌な予感はしていたが。
その予感どおり、それは売り切れていた。
この購買での一番人気商品であるから、仕方ない。
だが仕方ないで片付く問題ではない。彼が暴れてしまう。
だったら近所のコンビニで買えばいいだろうと突っ込まれてしまいそうだが、近くのコンビニまでかなりの距離を要す。
どうしようかと考えながら、教室に戻った。
「おう、関東レモンどうした?」
「売り切れでした・・・」
「売り切れぇ?なんだと・・・」
彼は俺の胸倉を掴み、思いっきり顔を近づける。煙草臭い鼻息が俺の顔にかかる。
もう見慣れた光景。周りにいる奴らはにやにやしながらこの様子を眺めている。
さて、これからどうするものか。やられている立場の自分でもちょっと興味が沸いてくる。
「おう、このうすのろ野郎が。お前のせいで関東レモンが飲めなかったじゃないかよ。」
「お前みたいな豚野郎は地獄に落ちな。」
ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせてくる。彼にとってはこれが精一杯の言葉なのだろうが、俺にとっては痛くも痒くもない。
だけど何かがおかしい。体がどんどん火照ってきている。
コト言われる度に体が熱くなってくる。こればかりは自制心が利かない。
「もっと・・・もっと言ってください・・・」
知らぬ間に彼に懇願している。多分顔は茹蛸のように真っ赤なんだろうな。
ああ、多分俺は身も心もドMな人となってしまったんだなぁ。
最終更新:2008年08月02日 15:38