12月25日。
世間一般で言う「クリスマス」という日だ。
だけど彼女・・・いや、彼氏のいない自分にとって、全く意味の成さないイベントだ。
というか、日本人の大半は仏教なんだぜ?
なんでクリスマスとか誕生日とかバレンタインの時だけ他の宗派になるんだ?
意味分からねぇよ。
日本人ってのは、こういうイベントに踊らされすぎなんだよ。常考。
これらの時期になると、どこにもぶつけようのない怒りが俺の中で沸々と沸き上がる。
生涯一度も彼女という存在がなかった俺は、例の如く女体化してしまった。
俺だけ女体化しないのかな?と少しだけ淡い期待を抱いていた時期もあったが、女体化しない確率は天文学的数値のようだ。
そんな数値を引ける運はないだろうし、そこまで期待していたものでもなかったので、女体化した時はそれほどショックはなかった。
あてもなく街を歩いていると、見慣れた髪型の男が一人、洋菓子屋の前で立っていた。
整髪剤なんかひとっこ一つもつけている様子のないその特徴的なくるくる天然パーマ。遠くからでも一発でこいつだとわかる。
「・・・何一人でケーキなんか見てるの?」
「わ、悪いのかよ?」
少し顔を赤らめながら答える。
そいつの名は瑞江(みずえ)。小学校来の幼馴染だ。
しかしこいつが洋菓子屋の前に立っているなんて、想像もつかない。
いや、現に立っている。不思議でしようがない。
「一人でケーキでも食べるの?」
「い、いや・・・」
なんだかうやむやな言い方。とても引っかかるような感じがする。
何か言いたそうな感じがする。
10年近く付き合いがあれば、何がしたいのか何となく分かる。
こいつは昔っからそうだった。表情によく出るタイプだ。
「何か言いたいことあるでしょ?」
俺がそう言うと、目を少し大きく開け、「何で分かったの?」というような表情でこちらを見てきた。
そりゃあ、昔っからの幼馴染ですもの。
俺はそいつの言いたいことを聞くために、じっと見つめる。
そいつはもじもじとしながら、なかなか話を切り出せずにいた。
俺が見つめているせいもあるのだろうか。体をうねうねさせながらダンマリとしていた。
「別に隠すようなことじゃないんだろ?早く言えって。」
「ううんと・・・ええっと・・・」
もじもじしながら、なぜか顔が赤くなっていく。
俺は首を捻りながらそいつのことを見る。
「いや、本当に早く言って欲しいんだよね。なんか雪がちらついてきたみたいだし。」
「わかったよ・・・あの・・・えっと・・・」
「早く言えっての。」
「一緒に・・・ケーキでも食べない?」
「はぁ?」
変なところから抜ける空気のような声が出た。
こいつがそんなこと言い出すとは微塵にも思っていなかった。
全く予想もつかなかった答えだ。逆に俺がどう反応していいのか分からない。
何故俺とケーキを食べようとしているのだろうか?
俺が女だからなのか?
それとも純粋に友人としてだからか?
色々と複雑な感情が交錯する中、瑞江が口を開く。
「とりあえず・・・中に入る?」
「ん・・・そだね・・・」
いまいち状況が飲み込めていない自分。
俺は流されるままに、彼と一緒に洋菓子屋の中に入って行った。
「・・・何で俺、瑞江の家に来てるんだろ・・・」
「ん?何か言った?」
「いや、別に・・・」
いつの間にかケーキを買い、いつの間にか瑞江の家に来ていた。
いや、こいつの家に来るつもりは毛頭なかった。
だけどホイホイと付いていってしまった。
何で付いていったのか、全く分からない。
洋菓子屋に入って・・・入って?
その後は・・・?
そういえば、洋菓子屋の中に入って以降の記憶があんまりない。
1時間も経っていないのに、何故か記憶が飛んでいる。
俺はその間の記憶を辿っていたが、どうしても思い出せない。
なぜだろう、とただただ首をひねるばかりであった。
記憶がないのも結構問題だが、こいつの部屋の臭いにも結構問題がある。
まずイカ臭い。自重しろ。
汗臭い。洗濯物溜めるな。
そして・・・焦げくさい・・・?
そういえば、先ほどから妙に焦げくさい臭いが鼻につく。
くんくんと嗅ぎながら辺りを見回すと、丸っこい大きな石があった。
「・・・何これ?」
「え、火鉢」
「エアコンとかファンヒーターは・・・?」
「ない」
即答。見事なまでの即答だ。
ないって言われると、ついついあるかどうか探してしまう。
確かに辺りを見回すと、それらしきものはどこにもないみたいだ。
しかし今時火鉢が暖房代わりとは・・・。
でも案外暖まるものなんだな、と少し思う。
そんなこんなで、俺たちは二人さみしくケーキを頬張った。
クリスマス馬鹿野郎と叫びながら・・・
「・・・頭がぼーっとしてきたんだけど・・・」
「そう?」
「そうって・・・あんたいつの間にマスクしてんだよ。」
「いつの間にだろうね。」
「ちょ・・・いつの間にって・・・」
段々と薄れゆく俺の意識。
瑞江はいつの間にかマスクを装着していた。
「ねぇ・・・ファン回ってる・・・?」
「ファン?俺のファン?」
「瑞江ファンクラブなんてねぇよ。換気扇ってこと。」
「換気扇?そんなものないよ?」
「それじゃ・・・窓・・・あけ・・・て・・・」
体の力が一気に抜け、ふらっ床に倒れる。俺の意識は飛んだ。
そういえば瑞江の行動は少し変だった。
普通に考えれば一酸化炭素が充満し、危険な状態になることは分かるはず。
車の中で練炭自殺するのと全く同じ状態なのだ。
だけど彼はあえてその状態にした。
なんでだろう・・・?
とにもかくにも、俺の記憶はそこで終わった。
それにしても、何でだろうなぁ・・・
完・・・・・・?
最終更新:2008年08月02日 15:42