安価『くのいち』

俺はとある里で草の者として修行を積んでいた。しかし、ある日朝起きると、童女と見違ごうばかりの少女へと姿を変えていた。
別に驚くほどのことではない。ただ経験がなかっただけだ。
だが、この身体では修行にも任にも支障が出るので、長に指示を仰ぐことにした。

「ふむ、女体化してしまったか」
「長、如何なさいましょう」
「御主にはそのまま情報収集の任へと着いて貰う」
「しかし、この身体では…」
「問題ない。その手のシュミの御仁じゃ」
(…不安だ)
だが、長の命令は絶対。素直に従うことにしよう。
「わかりました。それでは早速向かいましょう」
「ああ、頼んだ」

「あの姿なら『おじいちゃん』と呼んで欲しいのぅ…」


しかし、どうしたものか。長はその手のシュミだと言っていたが…。童女らしさでも強調すればよいのか?童女らしさ…。童女らしさ…。
とりあえず、転びながら大名行列に突っ込んで泣いてみよう。失敗したなら次の策だ。俺は丁度よくやって来た行列に突っ込んだ。
ズザァッ!
なんだこれ、予想以上に痛いぞ!本当に涙が出てきた!
「ふ…ふぇ…」

「ふえぇぇんっ!」

………
……

なんだかやけに簡単に取り入ってしまった…。切り捨て御免寸前で殿に助けられ、そして今は居室に通され、菓子を食らっている。
「そなに慌てて食らわずともよい。代わりはまだまだあるぞ。これこれ、こぼしておるではないか。おぉーい、誰かおらぬか!」
やけにホクホク顔の殿が気持ち悪い。しかし、一応笑顔でコクコクと頷いておく。
「なんぞ聞きたいことはないか?何でも答えてやるぞ?」
「え?!うんとね、それじゃあねー…」
機密はダダ漏れだった…。

「よいのですか?草の者かもしれませぬぞ?」
「よい。幼女に騙されるなら本望じゃ…」
(ダメだ、この殿…)
しかし、この殿は存外に長生きし、城下もしっかり発展していったと言う…。


ちなみにその後、長にたびたび「おじいちゃんと呼んで欲しいのぅ」と懇願されたことや、俺が幼なくの一として勇名を馳せたことはまた別の話。

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最終更新:2008年06月11日 23:21
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