安価『あくび』

日本史の授業はいつも退屈だ。
教科書には訳の分からん偉人が羅列し、先生は抑揚の無い喋り方で授業をする。
一番嫌いな授業であるのに加え、ダラダラと話す先生の声が子守唄となって、俺はいつも夢の中へダイヴしている。

(ん・・・終わったみたいだな・・・)
チャイムが鳴り、日本史の授業は終わった。
重い瞼を開けると、知らぬ間に2、3枚ほどプリントが置いてあった。
俺がむくっと起き上がると、風圧でぱらぱらっと床に散らばる。
面倒臭そうに髪を掻きながら屈む。それにしても汚い床だ。
俺がプリントを拾っていると、一緒に拾ってくれる女性が現れた。長い髪を靡かせながら、俺の目の前に屈んでくる。
少し短めのスカートから覗かせるデルタ地帯は、思春期の男性にはちょっと刺激的。
「なんて優しい方なのだろう・・・」と口元をにやにやさせながら姿を確認する。
彼女と目が合った瞬間、俺は一瞬無表情になる。ちっ、と舌打ちもした。

「なんだよ・・・孝也かよ・・・」
「なんだよって言い方ないでしょ?」
先程までいなかったはずの友人が、いつの間にか来ていた。
孝也は長い髪を靡かせながら、俺にプリントを渡す。
(こいつもこの姿がすっかり板についてきたなぁ・・・)
プリントを手に持ちながら、じーっと彼女の姿を眺める。
彼女は「何見てるのよ!」と言わんばかりの表情。少しばかり頬を膨らませながら俺を見ていた。
男だったときとは大違いの可愛さだ。ここまで変われるものなのだろうか。

「ふぁ・・・あっ・・・」
突然、彼女は小さな口を開け欠伸をした。
男だったときより明らかに小さくなっている彼女の口。唇にはうっすらと口紅が塗られていた。
口元を隠す手にはマニキュアが塗ってあり、一段と女性らしくなっている。

自分の欠伸を見られて恥ずかしがる孝也。頬が紅潮しているのが一目で分かる。
以前に増して、本物の女性となっていく彼女なのであった。


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最終更新:2008年08月02日 16:02
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