数学の授業はいつも退屈だ。
教科書には訳の分からん数式が羅列し、先生は抑揚の無い喋り方で授業をする。
覚えなくてはならないことが沢山あり、かつこういった作業が嫌いな俺にとって、日本史に次ぐ嫌いな授業である。
初っ端から授業を受ける気がない俺は、いつも夢の中へダイヴしている。
(なんかいい匂いするな・・・)
なんとも言えない甘い匂いが、俺の脳を刺激する。
スイーツ(笑)までとはいかないが、キムチとか塩っ辛い系ではないことは確かだ。
この授業は4時限目、つまり昼飯前だ。
お腹をぐぅと鳴らしながら、涎が大量に出てきている。
俺は瞼をこすりながら、匂いのする方を見る。
さらりとした長い髪、そして相変わらずの短めのスカート。
一瞬誰だか把握できなかったが、すぐにあの馬鹿野郎だと分かった。
馬鹿野郎の様子を見ているのだが、なんだか動きがおかしい。
つい先ほど来たばかりなのに、机に突っ伏している。
いや、突っ伏しているというより、何かを隠しているように見える。
俺は横の隙間からちらっと覗きこむ。
小さな口に何かがいっぱい入っている。
「何も口に入ってませんよ」というようなとぼけた表情をしているが、そんなの外から見たら一目瞭然だ。
授業中にも関わらず、こいつは何かを食べてやがる・・・。
「孝也・・・今何時だと思ってるんだよ・・・」
「今は孝也じゃないの。孝子って名前変えられたんだから。」
「いや、そんなことどうでもいいんだけど・・・」
ひそひそと話しながらも、紙袋からもうひとつ鯛焼きを取り出し、むしゃりと頬張る。
いやいや、まだ授業中だっていうの。
俺がそんなこと思っているうちにチャイムが鳴る。
「それにしても、何で鯛焼きなんて買ってきたんだ?」
「いや、おいしそうだったから。」
ただそれだけの理由だった。
腹が減ってたのかと尋ねると、そうでもなく。
そんなに食べたかったのか尋ねると、そうでもなく。
こいつはいつもこんな感じだ。
男の時からこういうところは一切変わっていない。
「てかさ、鯛焼きってどっちから食べる?」
鯛焼きの尻尾の部分を掴みながら、俺に問いかけてくる。
聞いてくる意図が分からなかったが、一応答えておく。
「別に、どっちからって決めてるわけじゃないけど、あえて言うなら尻尾だな。」
「尻尾!? お前邪道だな!」
「いや、俺は別にどっちでもって・・・」
「どっちでもって、尻尾って言ったじゃん!」
理不尽。理不尽すぎる。
別にと前つけしておいたのに、何故か孝也・・・もとい孝子に怒られる。
さすがに普段は温厚な俺も、ぴきっと頭にきた。
「お前にな、食べ方でどうのこうのって言われる筋合いねぇんだよ!」
「はぁ? 私は正しい食べ方、流行ってる食べ方をお前に親切に教えてやってんだよ?」
「んなのどうてもいいんだよ!」
そこからギャーギャーと大ゲンカ。
なぜか分からないけど、周りの皆は何故か生暖かく見守ってくれている。
「仲いいねぇ」とニヤニヤしながら見てくる人も。
あうあうwwwwwどう考えても勘違いですwwwwwwwwwww
最終更新:2008年08月02日 16:03