250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/18(火) 15:21:44.55 ID:x0gfBZ/G0
安価は>>20のネクタイ
登場人物の名前は主人公が>>141の紫水晶(しみずあきら)
友人が>>143の氷乃つばさ(ひのつばさ)
安価&名前をカキコしてくれた方々、トンクスでつ
251 名前:安価「ネクタイ」 ◆yhNqGdIG7M [] 投稿日:2007/09/18(火) 15:23:25.80 ID:x0gfBZ/G0
んで書き忘れたのですが、この話は前スレで投下した「安価:独裁者」の続きです
全員帰った後、「自分」は一人でせっせと仕事を続けていた。
頬を伝った涙の跡はすでに乾いており、今は必死に机に向かっている。
どれくらい続けていたのだろうか?ずっと動かしていた手を止め、一息つき窓の外を見ると、漆黒の闇に包まれていた。
時刻は午後8時。校舎内には受験勉強に励む生徒や、談笑している生徒が少しばかり残っていた。
あと少しでまとまりそうだったので、すぐに作業に戻った。
夕刻の時とは違い、校舎内は静まり返っている。時々笑い声が聞こえてくるだけで、日中の喧騒はどこへやら。
夜の静かな学校はどこか不思議な雰囲気を醸し出している。
電気の付いていない教室。整然と並べられた机が月に照らされ、シルエットとなって映し出される。
外ではまだ運動部が練習を続けていた。
野球部は大会が近いのだろう。雄雄しい声が木霊してくる。
ノックをする監督の怒号と、部員の気合の声をBGMに、黙々と作業を続けた。
「おい紫水、そろそろ学校閉めるぞ。」
その声にはっと気付く。集中しすぎて時間を全く気にしていなかった。
施錠担当の先生が来るということは、すでに10時近くだろう。
多くの文字を書き留めた紙をまとめ、すうっと立ち上がった。
「すいません、ちょっとこれが終わりそうにもなくて。」
予算編成の紙を先生に見せると、納得したかのような表情になる。
「戸締り確認しておけよ」と言うと、じゃらじゃらと鍵のぶつかる音を立たせながら、別の部屋へ向かっていった。
よしっと呟き、「自分」は生徒会室を後にする。
満月明るい外の世界。時刻は午後10時を回っていた。
足早に家に帰った「自分」は、家に着くなり布団にもぐりこんだ。
「夕飯は?」と聞かれたが食欲がなく、食べてきたと誤魔化した。
お腹は減っているはずなのだが、女体化したショックと、途端に自分から離れて行く皆のことを考えてしまい、食欲不振となっている。
今日の出来事を思い出し、悔しい思いと共に、後悔の念が強く押し寄せてき、その晩は枕を濡らした。
翌日、目が覚めたときは少し気持ち悪かった。
正直学校に行きたくないという気持ちが強く、制服に着替えようとすると吐き気がしてきた。
なかなか動かない体を無理矢理動かし、クローゼットに掛けてある制服を取り出した。
まだ男の時の感覚が残っており、ズボンが掛けてある制服のほうを手に取ってしまった。
女体化してしまった今では男物の制服ではサイズが合わない。
その前に、女体化してしまったら男物の制服は着る事ができない。
まだ履きなれぬスカートを通し、鏡の前に立った。
「ネクタイないと・・・不恰好だな。」
未だに見慣れぬ変わり果てた自分の姿に、苦い表情は隠せなかった。
クローゼットに掛けられているグレーのネクタイを横目に、自分は学校へと向かった。
「晶、顔色悪いぞ?」
1限終了後の教室で、一人寂しく外を眺めている自分に声を掛けてきたのは、小学校来の友人である氷乃つばさだ。
自分にとって友人と呼べる友人は、こいつしかいない。
自分がどんな立場に立っていようと、変わりなく付き合い続けてきたのは後にも先にもつばさしかいない。
「いや、ちょっと風邪引いたみたいでね。」
今は一人にしてほしいという空気をだす。
だがお節介なつばさ。心配そうにさらに声を掛けてきた。
「大丈夫か?保健室行く?」
「大丈夫、大丈夫だって・・・」
消え入りそうな声で答える。言葉を返すのが面倒なだけであったが。
「おい氷乃。そんなやつ放っておいて早く実習室行こうぜ。」
遠くドア付近から声が聞こえる。クラスの男子がつばさに声を掛けてきた。
次は美術の時間。実習室へ移動しなくてはいけない。
「遅れるなよ」と一言放ち、つばさはそこにいた男子とともに実習室へ向かっていった。
教室を去る間際、すごく申し訳なさそうな表情をしていたのを自分は見逃していた。
つばさ達がいなくなった後、すぐに始業のチャイムが鳴り響く。
誰もいなくなった教室。自分の心模様を映しているように思えた。
それからの授業は苦痛でしかなかった。
鞄などの持ち物は隠され、ノートや教科書には無数の落書き。机に至っては廊下に放りだされる始末。
今まで彼らが受けてきた恨みが一気に爆発したみたいで、無法地帯と化している。
もちろん、先生がいるときはそのようなことはやらない。
影でこそこそとしかできない、陰湿な野郎ばかりだ。
だが自分も先生には言わない。自分がどんなことをしてきたか理解しているからだ。
自分勝手にやってきた独裁者は、見るも無残な姿となっていた。
帰りのHRも終わり、鍵を職員室から借りてから生徒会室へと向かった。
誰も来ないことは分かっていた。
今日も一人で黙々と作業をすることを考えると、少しばかり憂鬱になった。
途中の自動販売機でアイスティーを買い、鞄に放り込んだ。
階段を上がり生徒会室を見ると、ドアの前に誰か立っていた。
西日がまぶしく、遠くからではその姿を確認できなかった。
自分は恐る恐る近づいていき、そこに立っている人物を確認した。
唯一無二の親友、氷乃つばさであった。
「なんで・・・ここにいるの?」
「お前、何か弱弱しくなったな。」
いきなりこの言葉。正直むっとした。
「いきなりその言葉はないだろ?」
「いや、昔のお前だったらやり返してるだろ?」
「それは昔の話!今は女の子になっちゃったんだよ・・・?」
「鉄拳制裁ができなくなったから、皆ふんぞり返っちゃったんだよな。」
「・・・」
「お前らしくないなぁ。今までどおりガツンと言えよ。」
ずっとつばさのターンであった。
自分は何も言うことができず、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
つばさの言うことは全てが正しかった。正しすぎて、何も言い返せない。
いつの間にか、自分の目には涙が溜まっていた。
ぐさぐさと突き刺さるつばさの言葉に、自分の心はやられていた。
「つばさ・・・もういいよ・・・」
下を向き、震えた声で言う。これ以上言うのはやめてくれ、と言おうとしたが、声がでなかった。
「もう・・・我慢するな・・・」
そう言うと彼は、涙を浮かべている自分を抱きしめた。
自分は突然の出来事に、何が起きているのか状況を把握できていなかった。
今まで男同士の友人であったつばさが、自分を抱いている。
男同士で抱き合っていたら変態野郎だな、としか思われないが、男と女が抱き合っている。
西日を浴びる彼らの姿は、まるで映画のワンシーンのようだった。
自分達の横を通る人たちは、目線を逸らしながら通り過ぎて行く。
自分はちょっと抵抗したが、つばさの力が強く、ただ彼に従うままにいた。
何分経っただろう。
生徒会室の前でつばさと抱き合っている時間は、とても長く、しかし短く感じた。
無言で自分を包んでいた彼が、ふと耳元で呟く。
「俺は・・・晶の味方だからな・・・」
その言葉に、自分の涙腺は一気に崩壊した。
彼の胸に顔を埋め、人目を憚らず大声で泣いた。
いつも強がっていた自分。でもそれは表面だけのものだと理解していたつばさ。
そんな彼からの一言は、自分を救ってくれたように思えた。
「ごめん、ブレザーびちゃびちゃになっちゃったね・・・」
一生分泣いたかと思うくらいに、自分の涙はつばさのブレザーを濡らしていた。
どれくらい泣いていたかは分からない。
それでもつばさは自分のことをずっと抱きしめていてくれた。
「すっきりした?」
そう言うと、彼は頬にキスをしてきた。
ひっ、と少し仰け反る自分。彼の口付けしてきたところを手で触ると、顔が紅潮してきた。
「あははは、晶、すごく可愛いぜ。」
「う、うるせい。」
充血した目でつばさを睨む。男のときとは違い、自分の睨みにまったく凄みはなかった。
「ネクタイ、曲がっちまったな。」
つばさは、くしゃくしゃになったネクタイをぴしっと締めようとする。
それを見た自分は、ちょっと待ったと言い、背伸びをしてネクタイに手を掛けた。
「やってあげる・・・」
他人のネクタイを締めるのは難しいもので、どことなくぎこちなかった。
新婚夫婦さながらのその光景。つばさはちょっと頬を赤らめていた。
「これで・・・よし!」
ぽんっと彼の胸を軽く叩き、その姿を確認させた。
ノットの部分をくいっくいっと動かし、締まり具合を調節する。
うん、と軽く頷き、彼の整然とした制服姿が現れた。
「あー、とりあえず俺が言いたいことは・・・」
「何?」
「何かあったら頼ってくれってことだ。」
彼は帰り際に一言、こう言った。
いつもは頼りなく見える彼が、今日はとても頼もしく見える。
「うん、頼るよ・・・」
今度は自分からつばさの頬に口付けをした。彼はにこっと満面の笑みを浮かべる。
「それじゃ、これからも挫けるなよ。」
「うん、頑張る・・・」
そう言うと彼は、その場を立ち去って行った。
自分は彼の後姿をずっと追っていた。
小さく見えた彼の背中が、今日はすごく大きく見えた。
そして自分の中で、何か新しい感情が芽生えていたのを自覚するのは、これから先のことである。
ネクタイのノットのように、強固な関係はこれからも続く・・・。
最終更新:2008年08月02日 16:11