うだるような暑さの中、子供たちが虫取網を抱えて駆け抜けていく。俺はそれをクーラーの効いた涼しい部屋から見下ろしている。
俺にもあんな頃があったな…と感慨に耽る。野山を駆け回って、セミやらカブトムシやらを捕っては大きさ勝負をしたもんだ。
童顔のアイツは俺に負ける度に悔しがって、涙目で指を突きつけてきてこう言うんだ。
「俺がお前に負けるわけない!明日また勝負だかんな!」
って。そんなアイツに、俺は決まってこう返す。
「また返り討ちにしてやるから、精々頑張るんだな」
って。
幼馴染みだった。ライバルだった。親友だった。アイツと遊ぶのが一番楽しかった。でも――そんなアイツはもういないんだ。
アイツは、中学卒業の寸前に転校した。理由はわからないし、転校する直前も、してからも会うことは出来なかった。
そしてその日、俺は狂ったように虫を捕った。そうしていればアイツがひょっこり現れるような気がして。
でも、当たり前だがアイツはやって来はしなかった。
それから何年かは、夏になると虫を捕っては一番大きかったヤツを標本にしていた。いつアイツが俺に会いに来てもいいように。
だけど、やっぱりアイツがやって来ることもなく、次第に俺は虫取をしなくなった。
色々と思い出していると、寂しさが沸き上がると共に昆虫採取がしたくなってきた。
それで今更アイツが帰ってくるだなんてことは考えていない。でも、心の底ではきっと期待していたのだろう。
いてもたってもいられなくなり、俺は倉庫に仕舞ってあった虫取網と篭を引っ張り出すと、外へと飛び出した。
「虫取はどうだったよ」
昆虫採取から帰ってきた俺を玄関先で待っていたのは、一人の見知らぬ少女だった。
「悪いが、あんた誰?」
「おいおい、幼馴染みの顔も忘れたかよ。…まぁ、これじゃ仕方ねーけど」
何故か見せつけるようにくるりと回る彼女。その仕草は可憐だったが、何がしたくて何を言いたいのかは、俺にはわからなかった。
「俺だ、〇〇(幼馴染みの名前)だ。久しぶりだな」
童顔だったアイツは、更に幼くなった顔に微笑を浮かべ、俺を見つめていた。時が止まった気がした。
終わり
最終更新:2008年06月11日 23:22