無題 2007 > 11 > 13(火) ナガ

27 :ナガ:2007/11/13(火) 00:06:38.09 ID:0/hyM0aj0
 なんとなくそれ以来吉田と話すようになって、ついでに黒部と話すようになって、いつの間にか二人と遊ぶようになって、俺たちの関係はどんどん深まっていった。
それと同時に、二人の関係の異常さが分かってきた。
 黒部は、吉田に自分自身全てを捧げて生きている。どんなときでもトトのために、トトが望むなら、と言う。黒部という男は、吉田という神を信じる信者のようだ。
 そう吉田に言うと、吉田は笑った。
 「大塚は、すごいね」
 吉田は眉根を寄せて、笑った。
 「そこまでわかっちゃうんだから、すごいね」
 俯くその様を見、俺は不安になった。吉田が、黒部という狂信者にいつの日か、追い詰められてしまいそうで。




28 :ナガ:2007/11/13(火) 00:07:01.73 ID:0/hyM0aj0
 文化祭前、嫌いなものベストスリー、というふざけたアンケートを自習時間に応えなくてはいけないときがあった。
 俺はさっさと「1.数学 2.携帯の明細 3.ホラー映画」と答え、たまたま後ろの席だった吉田のアンケート用紙を奪って読んだ。
 そこには、「1.犬の首輪 2.狭い場所 3.ドッグフード」と書かれていて、思わず無言になってしまった。首輪が嫌いなもの一番って、と不思議に思っているといつのまにか傍に来た黒部に取り上げられた。
 「俺はお前のそういうとこ、すっげえムカつく」
 吐き捨てた黒部は、吉田に向かって猫なで声を出した。
 「こういうのは、適当に書いて出せばいいんだよ、トト」
 「…うん、分かってる。でも、逃げたくなかったから」
 二人の会話には時々ついていけなくて、辛いと思う。多分、宇宙人と仲良くなったつもりの人間がふとした瞬間に味わう悲しさなんだと思う。疎外感、というか。
 吉田が俯いて呟いた。
 「俺は、逃げたくないんだよ」
 その姿がとても張り詰めているように見えた。でも俺たち以外、誰も気にとめた様子はなかった。結局そんなものかもしれない、と思うと俺はまた悲しくなった。




29 :ナガ:2007/11/13(火) 00:07:58.76 ID:0/hyM0aj0
 文化祭が近づいて、俺たちのクラスはお化け屋敷をすることになった。ありきたりだけど、まあ無難だろう。
 俺たち三人は同じく小道具班になり、手先が器用な吉田が率先して、飾りに使うお化けのぬいぐるみなどを作っていった。
 ある日、吉田が他のクラスメイトと買出しに行くことになり、俺と黒部が放課後の教室に残された。正直、俺は吉田に好意は持っているが、
何かと攻撃的な黒部のことが苦手だった。
 何を喋っていいか分からずチケットを入れる箱を作っている俺の髪を、黒部が触った。
 「う、わ」
 「…大塚」
 「な、何」
 黒部は俺の髪を一房掴んで、引っ張ったりねじったりした後、呟いた。
 「女になって、なんか、得した?」
 「は?得?」
 俺は呻きながら考え、首を捻りながら答えた。
 「…レディースデーとかレディース割引が、使えるようになった」
 黒部は俺の髪から手を離し、ためいきをついた。
 「…お前に聞いた俺が馬鹿だった」
 「んだよ、馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだからな」
 「…なんか、お前って、いいよな」
 「は?」
 黒部が廊下を見た。多分、階段を上っているであろうクラスメイトたちの笑い声が聞こえた。
 「…なんか、単純で。人なんか、無茶苦茶に憎んだりしないんだろうな」
 「…どういうことだよ」
 「別に」
 黒部が頭を垂れた。その姿は、「逃げたくない」と言った吉田の姿に似ていた。
 「俺は今すぐ、自分じゃないものになりたい。そうしたら、幸福、だ」


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最終更新:2008年09月04日 17:14
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