『novel01』

夜も段々と暑くなる夏の日、夜の散歩でベンチに座る良人(ヨシト)は思った。

最近の世の中では、性行為が未経験の思春期の男子が女体化することはごく一般的になってきた。
自分がまだ小学生になるかならないかの記憶の頃、女体化という変異はものめずらしく扱われていたのに。
中学生になると、周りの人間からは『そういう』男子が多くなってきた。
高校生の今じゃ、『そういう』ことは当たり前になり、中学のときに馬鹿やってた友達の多くは女になって、そして離れていった。
正確に言うと、離れざるを得なかった。
生物の変異の果てか、性行為未経験の男子は大抵美しく生まれ変わってしまう。
そんな変わり果てた友達を、今や女になってしまった友達を、自分は友達として見れないんじゃないか。
そう思って、離れなくてはならないような、そんな気持ちになったから。

「『そんなこと』も普通になってくるなんて、変な世の中…」

夏の澄んだ空に浮かぶ月を見上げ、ぽつりと彼は呟いた。
彼自身には関係なく、且つ世の中のちょっとおかしくなっていくことについて、夜の散歩で考えるのが彼の日課になっていた。
といっても、本当の目的は本当に散歩なのだが。愛犬ミドリの。




思春期男子の女体化に彼が関係ないと言える所以は、彼が既にセックスを経験していて、それでいて高校生ということにあった。
女体化の原因はわからないが、起こる人間はセックス未経験、いわゆる童貞ということから考えて、彼は安心していた。
高校生になってもう2年も経ち、変異は起こることはないだろう。
童貞男子でも変異が起こらない人間もいるのはわかっていて、未だに童貞野郎はびくびくと怯えながら彼女という名のセックスの相手を探していたり、もう諦めをつけていたりしていた。
相手を姿がまた滑稽で、嘲笑することも彼はあった。

良人は[なぜ?][どうして?][どうやって?]を延々と考えていた。
意味をなさないことは世の中にはないんだ、と彼は意味を持つのかすらわからないことを考えていた。
そうした方が自分がクリアで居られるような気がして。

「良人」

名前を呼ばれる声に彼は顔を向けた。この散歩の意味は、またここにもある。
もう長いこと友達付き合いをしている親友の伊織(イオリ)と何気ない話や込み入った話をするとき、彼は散歩コースに公園を入れていた。
公園に来るのはほぼ毎日ではあるのだが、伊織に会えるのは毎日じゃない。
「おお、3日振り」と片手を挙げて返事をし返す。
ミドリは伊織に千切れんばかりに尾を振って、わふわふと喜びの声を上げながら飛び上がっている。



「ふふ、ミドはいつも嬉しそうに寄ってくるなー」
「ミドリは伊織が好きだからな」
「そっかー、ふふ。で、今日は何考えてた?」

元々細い目を糸のようにして、喜ぶミドリを撫でながら伊織は言った。
自然なことのように切り出したのは、伊織は彼の考え癖も全て理解しているから。

「んー…童貞について」
「なにそれ」
「ほら、女体化って俺らが小学生ぐらいのときから起きたじゃん?それが普通になってきてすごいなぁと」
「全然童貞の話じゃないじゃん」
「ちょっと繋がってんだって」
「えー……ああ、確かにな。女体化するのは童貞だけってやつか」
「そうそう」
「俺は起こらないかもなぁ、童貞だけど」
「そうに決まってんだろー……え?」
「知らなかったか。って、親から連絡来たわ、帰るし、お前も気をつけろよ?」
「いや、ちょ…!」

伊織は名は体を表すという言葉がよく似合うように、男らしさをもった男だった。
一重の細い目に体の線は細く、モテるという訳じゃないけれど、彼女はそれなりにいた。
なのに、童貞?あんなに落ち着き払って?

ヤツが女体化するとかしないとかそれ以前に、良人にとっては伊織が童貞である事実が驚きであった。


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最終更新:2008年09月04日 17:24
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