『須藤と中崎』(1)

52 名前:なもないえかき[] 投稿日:2007/07/17(火) 02:08:53.26 ID:2bNam/JC0
書いてみます。初挑戦。つまらんかったらすまん。
ながらなのでもしかしたら多少リク受ける
・・・・

いろいろあったよーで、なかったよーで、記憶に霧がかかったよーにぼんやりとしている。
そーとーにパニくってたような気もするし思い出したくないこともあったような気がする。
夏休みの後みたいにいろいろあったことだけが記憶に残ってるけれど、具体的には何も覚えてないような、思い出す気力も無いような。
アレから3日もたつのにまだ鼻づまりと頭痛がひどい、たまに吐き気がする。
朝は猛烈に体温が低く貧血気味で、昼は体温がひどく高く体がだるい。別に休んでも誰も責めないのをなんとなくわかっていながら、でも、いかなかったら次にいつ行けばいいのかわからなくなりそうで、こわかったのか、そんなことも考えていなかったのかもしれない。
ただ、なんとなく、その日、ジャージ姿で学校に行った。





56 名前:なもないえかき[] 投稿日:2007/07/17(火) 02:23:04.56 ID:2bNam/JC0
昨日、今まで意識的に避けていた保健体育の教科書の性教育のページを開いた。
7年前。いくつかの先進国で突然若者の男女比が崩れ始めた。15~18歳の年齢の男子の大半が女性化するという謎の現象が始まったからだ。その原因はいまだわからず、教科書がいうには「さまざまな事情で」正確な統計は取れていないらしい。
日本の国内の混乱がようやく収まりはじめ、法整備とかのニュースが連日テレビで放送されている。2009年。13歳の6月。
「なってしまった」僕は、自分の顔が真っ赤になってるのに気がついて教科書を閉じたのだった。




71 名前:なもないえかき[] 投稿日:2007/07/17(火) 02:59:23.06 ID:2bNam/JC0
僕の顔はほとんど変わってない、と、自分では思う。が、そうでもないらしい。…周囲のリアクション的に。
朝、鏡を観たとき、ちょっと顔が太ったかもしれないと思った。よく言い表せないけど。
髪はもともと男子にしては長いほうだったけれど、この3日で肩まで伸びた。
が、やたら抜け毛が多く髪はぼさぼさだ。猛烈な新陳代謝のせいらしい。
母さんはそれが許せないらしく、今日の朝も嫌がる僕の頭に散々ブラシをかけたが、何も変わってない。
あと、歯磨きをしたら歯茎から血が出た。関係ないけど。なんか体が弱くなってるんじゃないかという気がしてならない。
昨日の夜、ちょっと体調が落ち着いて油断した直後に思いっきり吐いた。家の廊下はおかげでまだ臭い。
そのせいもあってか、今朝は、空腹がひどくてお茶碗4杯もご飯を食べた。
もともと小食だった僕としては考えられない量なのだけれど、母さんはものいいたげな顔だった。
あまり気にしたくはないのだけれど女子になってしまった以上、大食いははしたない?…よくないことなのかもしれない。





73 名前:なもないえかき[] 投稿日:2007/07/17(火) 03:26:10.15 ID:2bNam/JC0
1時間目の前、朝自習の時間。再び頭がボーっとしていた。猛烈に腹がなっていた。4杯も食べたのに。
2つ隣の席まで聞こえたと思う。ずっと鼻をかんでいたから鼻が痛かった。
机がひんやりと気持ちいい。
くしゃくしゃになったティッシュが散らかってる。もうどうにでもなれ。


火曜日、中間テスト最終日、相当に具合が悪かったが、律儀に学校にいった。でも、どんな問題が出たのかさえ覚えてない。
その放課後、中崎と一緒に帰ろうとして、渡り廊下で下呂をぶちまけた。
制服が下呂でドロビシャになり、保健室に運ばれて、ジャージに着替えて、3組の先生の車で家にかえって、そのまま高熱でて病院にいって風邪薬もらって家で寝て…
水曜の明け方に例の変身があったらしい。めちゃくちゃ苦しかったがほとんど何も覚えていない。
成長痛でアバラがギシギシくるし、個人的に聞きたくない事実もいろいろ親に聞かされたけど、いろいろやばかったらしい。
救急車に乗せられて、病院で点滴をいくつも打たれた。
頭がぼんやりと働き始めたころには、もう夜で女だった。
周りの人が言うことがさっぱりわかんなかった。胸はペタンコだし、何が変わったわけでもない。
でも、医者が言うにはもう1ヶ月も前から変わり始めていたのだという。
木曜日にいろいろと医者から聞きたくも無いエロい話(?)をされて、その日の昼には退院。
ホントはあと2週間くらい病院にいてもよかったらしいのだが、親が望まなかったらしい。
その夕方くらいから、自分が女になったというどうしようもない事実に気がつき始めた。


冷静に考えたら、今日、金曜日休んで月曜日学校に来ればよかった。と。ぼんやり思った。





77 名前:なもないえかき[] 投稿日:2007/07/17(火) 04:08:07.62 ID:2bNam/JC0
「須藤…。だよな?」
と、来たのは中崎の声だった。僕は顔も見ないで答える。
「ほかに誰がこの席に座るんだよ…。」
ここにきて、見られたくない、という感情が一気に上がってくる。
それは母親の車で校門に入るとき、ジャージ姿で教室に入るときの比ではない。
声変わり前に戻ったような気がしないことも無い声も聞かれたくなくて、つい小さな声で喋っていた。
「え、あ、いや、ごめ…。」
いつもとは明らかに違う中崎の態度。
…中崎にはいつもどおりでいてほしかった。が、こいつの母親には昨晩ウチの母さんが電話をしていたのだ。
当然、僕に何があったのか、中崎は知っている。僕もそのことを知っている。
いや、そうでなくても、僕がジャージでこそこそと教室に入ってきた時点で大概の奴が気がついていたはずだ。
しかし、なぜ僕が?なぜ、僕がこの学年で一番最初の性転者なんだ!?中崎はどもりながら僕に聞いた、
「その……大丈夫か?」


――何かが弾けた。

「大丈夫だと思ってんのかよっ!」
僕は怒鳴った。立ち上がって怒鳴って、勢い任せに色々言った。
中崎はキョトンとして、何も言い返さなかった。何故突然キレたりしたのか、僕自身が一番知りたい。
けど頭はどこか別なところで冷静に回転していて、
「あ、やべぇ、必死に怒鳴ってるのになんか声たけぇ。」とか、「うわ、中崎を見上げながら怒鳴ってるよ。自分。だせぇ。」とか、
そんなどうでもいいことを考えていた。……もともと、中崎のほうが10cm以上高かった。
同じバスケ部に同時にほぼ同じ身長で入った中崎の背が、明らかに僕より高くなったことを前々から意識していた。


気がついたら、僕は教室を出ていた。1階の端っこ。給配室の前まで来ていた。何も考えずに。
戻ろうか、と思ったときに1時間目開始のチャイムが鳴った。授業に遅れて入ったら皆から注目される。……色々考えたけど、1時間目はサボることにした。何のために学校に来たんだろ、とか思った。


腹の虫がまた鳴いた。




83 名前:なもないえかき ◆upb/RTungI [] 投稿日:2007/07/17(火) 04:46:46.45 ID:2bNam/JC0
10分もたたずに担任の井上先生に見つかった。
「おいおい。テストの解説をする授業くらい出ろよな。…まぁ、後藤先生には俺から伝えとくが。」
と、言ったっきり、特に僕を責めもせず、職員室に僕を連れて行って、学生証の再発行がどうとか、軽く言ってはいたが、特にやりたくなければやらないでいいとのことだった。
その後、来月の宿泊合宿の班分けを女子に組みなおしたほうが良いかとか聞いてきたが、正直、こうなってくると宿泊合宿自体行きたくなかったし、投げやりに返事をしてしまった。
先生は、しばらく日があるからそれまでに考えておけと僕に言った。風呂に関してだけ、女子・男子のいずれとも別に入れるように手配してみると言われた。
それと、洗濯した男子夏服を保健室で預かっているから取りに行けといって、それ以上のことは、
「明日から髪の毛を梳いて学校に来い。」
しか言わなかった。
保健室に行って、夏服を受け取りかけたが、今自分が教室に入れないことに気がついて、「放課後取りに来ます」と言って、そのまま置いて来た。


意味もなく、ぶらぶら歩いていると、なんともいえない妙な感覚がした。
小便に行きたくなっただけで、なぜか今まで以上にソワソワする。傍目から見てるとまた顔が赤くなってるんじゃないだろうか。
男のときとこの感覚だけは決定的に違う気がするのだが、だからなんだと言うわけにも……と、いうか極力気にしたくない!
廊下にただ一人だけ、初夏に真っ赤な長袖ジャージでトイレに行くことがこんなに恥ずかしいことだとは思わなかった!





86 名前:なもないえかき ◆upb/RTungI [] 投稿日:2007/07/17(火) 05:24:59.20 ID:2bNam/JC0
僕は自分の教室の隣のトイレにたどり着いた。
やっぱり頭がぼんやりしていた。……と、言うか、今回ばかりはぼんやりのせいだと信じたい。
「男子トイレ」の小便器の前に立って小便をしようとしていたのだ。
いやぁ、習慣とはこんなにも恐ろしいものか。
ジャージを下げて、トランクスを下げかけたところで気がついたのだ。

「……。」

この数瞬の苦悩がわかるだろうか?
すでにおととい、女としてのトイレ体験は済ませていた。
熱が40度を超えていたし、関節が痛くてだるかった。何より頭がボーっとしてたのでほとんど何も覚えていない。
昨日、家でもトイレに行った。それなりに意識がはっきりとしていた。思い出したくも無い!
色々とマジで死にたくなった。その後、自分の部屋に閉じこもって泣いたりもした。


が、ここは、さらに恥辱的なシュチュエーションだった。
男の頃に女子トイレに入ってしまうことよりも何倍も洒落にならない。
と、いうか、今、普通に男子トイレに入っているそのこと自体が道に外れた事!
自分はこの隣のなんか自分の中のトイレのイメージをひっくり返しそうな世界へ行かなければならないのか!?
行きたくない、というか、人間として、行くのと行かないのとどっちが正しいのか!






87 名前:なもないえかき ◆upb/RTungI [] 投稿日:2007/07/17(火) 05:25:27.31 ID:2bNam/JC0
女子トイレには洋便器があると言う話を聞いたことがあった。
……行けばよかったかもしれない。
薄汚く落書きだらけの男子トイレの和便器で用をたすのは想像を絶する恥ずかしさだったからだ…。


一通りのあまり言いたくないことが終わって、水を流そうとした瞬間だった。
チャイムが鳴る、同時にいっせいに椅子を引く音。挨拶。
やばい!と、水を流すまではよかったが完全に男子トイレの個室から出るタイミングを失った。
一斉にがやがやと男子生徒が話しながら入ってくるのがわかった。
男子トイレの個室から外に出るのはただでさえ恥ずかしい。
まして、男子トイレの個室から、仮にも女子が出るとき、どんな顔をして出ればいいのだ。
5分休みのギリギリまで粘った。
外から声が徐々に聞こえなくなって……もう良いだろう!そのタイミングでドアを開けた!


中崎がいた。
しかも目が合った。


何秒間目があっていたのだろう。これほど気まずい沈黙を僕は知らない。


結果、僕は中崎を突き飛ばして自分の席まで走っていって、机に突っ伏した。
その日のことは帰ってきたテストの点がとんでもなくひどかったことくらいしか覚えていない。





91 名前:なもないえかき ◆upb/RTungI [] 投稿日:2007/07/17(火) 06:00:19.10 ID:2bNam/JC0
次の日は土曜日。学校は無かった。やはりまだ鼻をすすってはいたが、すっかり熱が引いていた。
が、起きたのは11時過ぎだった。だるくて何もする気になれず、12時ごろまで結局ベッドから出なかったし、昼飯を食ったらまた寝た。
貧血気味で、たまに星が見えた。晩飯はほとんど入らず、また寝た。自己嫌悪というか、夏バテというか、そんな感じの何かだった。
昼間、寝てる間に中崎から電話が合ったらしい。母さんは用件を聞いたらしいが、「かけ直す」と言ったらしく、そのままその日は電話が無かった。


寝てる割にぜんぜん寝た気がしない。女になってから朝がとんでもなく辛い。
日曜日は2時ごろに起きた。なんか色々と人に言えない夢を見たような気がする。
もうなんか、自分が嫌。全部夢だったら良いのに。


父親はたまたま仕事があったのだが、なぜか母親もいなかった。
僕の朝飯であったのだろうトーストとベーコンと目玉焼きがラップをかけたまま机に出されている。
もひもひとさめたトーストを食べながらまたまどろみの中に落ちかけていた。


ピンポーン。

「はぁい。」
僕は何も考えてなかった。いや、半分寝てた。
いつもと何も変わらないつもりでチャイムに反応し、何も考えずに素足で土間に降り、ドアを開けた。





92 名前:なもないえかき ◆upb/RTungI [] 投稿日:2007/07/17(火) 06:00:42.43 ID:2bNam/JC0
中崎が立っていた。

「お前、相変わらずすごい格好だな。」
いわれてみれば、肩下まで伸びた髪の毛は前回よりぼさぼさかもしれない。
というか、パン屑だらけのパジャマだ。
「……。」
なんか、前回の気まずさと言うのもどうでもよくなった。
ここで突き飛ばしてしまったことを謝れればよかったのかもしれないが、寝ぼけた頭はそこまで利口じゃなかった。
「で、…何の用?」


馬鹿だ。あの気まずい事件の後に訪ねてきてくれた友人に向かったぶすくれた顔でこんなことをいう奴は馬鹿以外の何者でもない!


が、中崎はまったく気にしていない様子だった。
一拍おいて、カバンからゲームのディスクを取り出した。
「……ギルティ持ってきた。」


中崎が言ったのはたったその一言だけだった。
…………。


「……ぶ。」
吹いてしまった。
馬鹿だ、こいつも馬鹿だ!
僕が笑っているのを見て、中崎は「あがっていいか?」と聞きながらずかずかと家に入り込んできた。
この日、中崎と僕とが門限を過ぎるまで一緒に遊んだのは言うまでもないことだった。


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最終更新:2008年09月04日 17:27
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