「おはよーございまーす」
バックルームの扉を開けて中へ滑り込む。俺の深夜バイトはここから始まる。
なんで「おはよう」かって?知らねぇよ、そーゆー決まりなんだよ。細かいこと気にすんな。
「ごくろーさん。じゃ、あとよろしくな。連絡事項は前シフトから聞いてくれ」
「うーす」
オーナーがやる気のない声でそれだけを告げ、颯爽と帰っていった。…そんなに帰れるのが嬉しいか…。
いつまでも呆けていても仕方がないので、さっさとユニフォームに着替えてタイムカードを切る。
更に、既に届いている常温給飯…弁当の類いを納品し、がらがらと台車を押しながら店内へ。
「っしゃいませーぃ」
店内へ出るときには必ず声を掛けをする。これも決まり。
「あ、弥泱(みお)さん、御早う御座います」
「うす。だから名前で呼ぶなっての。女っぽいの気にしてんだから」
「ふふ、すいません♪」
この微笑みの似合う好青年は、前シフトの高校生。
オーナーを筆頭にやる気のないヤツが多い中、仕事が早くて毎回深夜の仕事を一つ片付けてくれるナイスガイ。
ただ、年上の俺をなにかと(主に名前のことで)からかいたがるのは戴けない。あ、名前はないよ?もう出番ないし。
「それは酷い…」
「いや、思考読むなよ」
「いえ、声に出てましたから…あ、そうそう、在庫の品出しは終わってます。連絡事項は特にないです。出番がないなら僕は帰りますが」
「おーらい、帰ってヨシ。つーかおにーさんからかうヤツはさっさと帰れ」
「やれやれ、嫌われたものですね。それでは、お先に失礼します」
…で、一人になったわけだが。まずは弁当出して、次に雑貨やら何やらの納品と品出し、
更に新聞と雑誌の納品と品出しにチルド…紙パックとチルドパックのジュースとかの納品と品出し…納品と品出しばっかだな。
いや、実際そんな感じなんだけど。
それが終わればあとはゆっくりサボるだけだ。本当は掃除とかもしなくちゃならないわけだがね、めんどいのでパス。
そんな感じで休憩時間(うん、休憩時間。休憩だよ?ただの)を増やすために頑張るとするかね。
「…ZZzz」
はっ、ついつい暇すぎて寝てしまった。
上記の仕事を時折サボりながら、時に真剣に正味二、三時間で消化して休憩してたわけだが、
興味のある雑誌も粗方読み尽くしてしまったために少し船を漕いでいたようだ。
幸い客も来なかったことだし…と言ってるうちにお客様の来店だ。
「っしゃいましぇーぃ」
…ん?声が変だな。何か舌足らずな気もするし…。空調で喉咽でもやられたかな?
ついでに客が俺のことを凝視してるのは何でだ?なんか目玉が飛び出しそうなほど驚いた顔してるし。
「あにょ、にゃにか…」
な行も言えない…orz
いや、この際それはどうでもいい。むしろ客の反応の方が気になる。「えと…ど、どっきりカメラ?」
「ど、どっきりかめりゃ?」
わけがわからず、思わず鸚鵡返ししてしまう。
俺の姿見てどうしてそんな言葉が出るよ。んな人外みたいな不細工な顔をしているとでも言うつもりか?
「いや、だって明らかに小学生…」
…は?いや、あのドウイウコト?『どちらかと言えば老け顔』で通ってる俺が、小学生…?
「しゅ、しゅみましぇん、しょーしょーおまちくだしゃい!」
とりあえず客を待たせることにして、やたらと広く、大きく感じる店内を駆けていった。
「にゃ、にゃんじゃこりゃー!」
バックルームにある姿見に自分を映す俺。ただ、そこにあった姿は自分のものとは似ても似つかなかった。
なんかもう華奢とか小柄とかそういうの通り越して小さい。つーかもう幼いレベル。
瞳が大きく、愛らしい顔立ちをしているが、言うまでもなく幼い。そしてなにより… 性 別 が 違 う 。
母さん、本日を持ちまして僕は女の子になりました…。
一般的に男のヒトが女に変わるのは、大体16歳くらい。要因は童貞であることだとされているが、詳細はわからない。
でもって俺は童貞のまま16歳を過ぎたので、変わらないで済んだ、ラッキー、くらいに思ってたわけだが…。
…なんかもう色々考えたくないな。そういうときは身体を動かすに限る。つーわけで仕事しよ、仕事…。
【レジ打ち】
レジを動かすには、まず自分の従業員番号を打ち込み、ロックを解除する。するのだが…
「届かにゃい…」
テンキーに指が届きません…。さて、どーすっかなー、脚立どっかにあったよなー…
そんなわけで小さな脚立を持ってきて万事解決。…客が激しく悶えてるのは何でだ?
【パンの納品】
朝は大量にパンを納品する。どれくらい大量かっつーと、
元の身長より少し高いくらいに番重(桶っつーか箱っつーか…何やらかんやら色々なものを入れるもの。雰囲気でわかってくれ)が重なる。
つまり今の身長では倍近い高さになるわけだが、高さ自体はまぁそれほど問題でもない。先程のモノより大きめの脚立を使えばなんとか届く。
問題なのは、その脚立を運ぶ筋力が今の俺にあるかどうか分からないと言うことだ…。
案の定、途中で幾度か挫折しそうになりながらも、苦労して引き摺りながらなんとか運びきる。気付けば俺の身体は汗だくになっていた。
この頃から、なんだか常に生暖かい視線が浴びせられている気が…。そしてこの時間にしてはやけに客が多い。ホントどうしたんだ?
【ゴミ箱の処理】
人間の出す一日分のゴミってのは意外に多い。そして、そんなゴミを捨てる場所の一つとしてコンビニが挙げられる。
つーわけでゴミ箱の処理は毎日やることになっている。ちなみにウチの地方自治体の分別区分は多岐にわたっていて、並ぶゴミ箱の数は多い。
今までですら一度に運びきることは出来なくて、幾度かにわけて往復していたわけだが…まぁ、いいか。作業を始めよう。
…運べねぇ…。そりゃそうだよな、質量に比べて割合軽い脚立が運べないくらいだ、缶や瓶の一杯詰まったゴミ袋を運べる道理はない。
しかし、肉体年齢?に比例してるのか、涙腺が弛いらしい。なんか涙出てきた…。
「ふぇ…うぅ、ぐすっ」
さて、どーすっかな、まず持ち上がらねーのにどうすることも出来ねーわけだが…。身体は泣くほど興奮してるのに、頭では極めて冷静に、そんなちぐはぐな状況で…。
ドドドドド…。
地鳴りがするほどの勢いを湛え、店にいた客が一斉に店外へ飛び出し、俺の周りへ集まってくる。そんな様子をただ呆然と見送る俺。
え?何?どったの?
そして開口一番、一糸乱れず同時に言い放つ客たち。
「「「どうしたの?!俺(僕or私)に出来ることは?!」」」
………
……
…
これが俺がバイト中に女体化した日の話。それ以後、俺目当てでウチの店に通い詰めたり、無償で働いてくれる人たちが出来たために、
俺が〇〇コンビニ××支店の姫と呼ばれたことや、時給が十倍になったりしたことはまた別の話…。
84 :
ロリ大僧正 ◆lWD6I8D30g :2008/03/08(土) 09:40:24.51 ID:Gx8hRBxAO
私が高校の卒業後に憧れの先輩の姿を見たのは、何故かコンビニの店内で。
そして彼、いや、彼女は御輿に担がれ、店内を闊歩しているところだった……
いじょ、安価:卒業後 憧れの先輩と… (安価:深夜のコンビニの続き)でした
ごめんね、出落ちって言うのをやってみたかったんだ、ごめんね
最終更新:2008年06月11日 23:26