『プールの中で突然』

投稿日:2006/09/13(水) 21:57:27.41
「ったく。高校にもなってプールとかありえねーっつーの」

「まぁでも今日暑いしちょうどいいじゃん」

 夏休みも間近の七月半ば。vip高2-Aの体育は水泳の授業と相成った。思春期真っ只中。何事も皮肉交じりがお約束の少年たちは、ぶつくさ言いながら着替えていた。

「お前まだムケてねぇのかよ。だっせー!」

「うるせっ。これから成長するんだよ!」

 そう言い放った少年こそ本日の主役であり、彼の上のようなささやかな願いは生涯叶う事はないのであった。

「準備体操ー、手足の曲げ伸ばし!1、2、3、4っ」

「ごーろくしーちはーち」

 気だるそうな諸々の下準備を終えると、少年たちは弾けるようにプールへ散っていった。こうなると~無邪気なもので、各々が思い思いにプールで遊びまわっている。

「ミツルー。端まで競争な」

「おう。勝ったらどうする?」

「負けたやつになんでも一個言うこと聞かせる」

「おしっ。オレの殺人クロール見せてやるぜっ」

 と、このようにまだまだ熱くなりやすい子供らしさも十分残っている様子である。

 ザッ、ザッ、ザッ

 水しぶきとともに、力強く腕が伸び、我流だがリズムのあるストロークでミツルは順調に進んでいた。しかし、それは隣のレーンにいる友人も同じで、勝負は甲乙付けがたい接戦となっていた。

 ドクン、

(なんだ?体が――)

 ミツルは、突然自分の体に異変が起きたのに気付いた。動悸は激しくなり、背中側からなんとも言えぬ悪寒が走る。

(熱い――っ)

 そう思ったが早いか、ミツルは下半身を激しく律動させ意識を手放していた。




投稿日:2006/09/13(水) 21:59:00.19
「ミツル!大丈夫かミツル!?」

「サトシ……」

 朦朧とするミツルの目の前に友人の顔があった。サトシは心配そうにミツルを見つめながら、ミツルの傍へと泳ぎ来て彼を抱きかかえた。

「サトシ……オレどうした?」

「しぃ、」

 ただならぬ真剣な表情でミツルを制するサトシ。

(一体何が――)

 ふよん、

 何気なく身じろぐミツルの動きにあわせ、上下に揺れるふたつの球体がそこにはあった。そう。今はサトシの胸板に隠され目立たないが、それはまさしく女性の乳房であった。

「――っ!!!?」

 がっ、

 きのあまり叫びだしそうになるミツルの口を、浅黒いサトシの手が塞いだ。

「んーっ!」

「静かにしろよっ。騒ぎにしたいのか」

 確かに。年頃の男子たちの中に女性(しかも半裸である)がひとりとあっては、好奇に満ちた視線が注がれることは間違いない。ミツルはさりげないサトシの気配りに感謝しつつ、彼に従うことにした。

「おぶってけばごまかせるだろうから、このまま教室行って着替えるぞ」

 うなづくミツル。

「すいません。こいつ気分悪いみたいなんで、先、上がります」

「お、悪いな。どっかで休ませてやってくれ」

「はい」

 やりとりの間、ミツルはやはりサトシの背に隠れたままだ。日に焼けた肌。広い背中。

 なぜだろう。自然と顔が緩んでしまいそうな安心感であった。




投稿日:2006/09/13(水) 21:59:45.46
 ぺたぺた、

 静かな廊下。他のクラスも授業中だ。教室までは誰にも会わずに済みそうだった。

「悪いな。サトシ……」

 ミツルがバツが悪そうに呟いた。

「はは。ま、こんなこともあるだろ」

 背中からの言葉に、サトシは照れくさそうに答える。

 消えない不安……。誰かに見つかったりはしないだろうか。

(ん?)

 ふよん、ぺたん、ふよん、ぺたん、ふよん、ぺたん

「時に親友」

「なんだ親友」

「さっきから不自然なほど上下動があるんだが何故かな?」

「それはそのほうがおっぱいが背中に触れ――じゃなくて」

「本音がただ漏れだっつーのこのバカ!」

「大声出すな。人が来るぞ。よっと……」

 むにっ、

 サトシの両腕がミツルのまんまるいお尻に回され、ぐっと体が持ち上がる。

「っ――死ねっ!」

「なんだよ!ずり落ちないように持ち上げただけだろーが!」

 ぽかぽかと、駄々っ子のように振り下ろされる拳。サトシの顔はにやついていた。

(見直して損したぜ、ったく!)

 心の中で毒づきながら、ミツルは甘酸っぱいような胸の疼きを感じていた。

少年がその正体に気付く日は遠そうである。

end






こんなもんでよかったかしら~?(´・ω・`)


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月04日 17:31
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。