安価『蒸留酒』

女体化して一週間。そろそろ異性…って言っても男だけどさ。ヤツラの好奇の目にも慣れてきた頃。
俺は今までと変わらずに、ぼんやりと気だるい午後の授業を聞いていた。
昼飯が消化され始め、それと相俟って担当教諭の平坦な口調が眠気を誘う。
取り敢えず窓の外を見てみる。木々も枯れ始め、すっかり冬の様相を呈していた。
そのまま落ちていく木の葉を眺めていると、なんの気紛れかは知らないがたまには授業を真面目に受けてみるか、なんて考えたわけだ。
そんなわけで我ながら使用感のさっぱりないまっさらなノートに目を落とす。
そしてそこには本来こんな場所にいちゃいけないヤツの姿があった。そう、黒光りするヤツ…ゴッ〇ーの姿が!
今までなら殺すなりなんなりの選択肢もあった。でも、今は得体の知れない感情が沸き起こり、恐怖心を揺り動かす。
そして俺は俺の机を悠然と、縦横無尽に駆け巡るヤツをただ呆然と見送っていた。
目を逸らしたいのに、いつ飛びかかってくるかわからない恐怖にそれすら出来ない。
どうした、机の中から他の教科書なりを取り出して振り下ろすだけだろう!
そう必死に自分を叱咤してみるものの、机へと伸ばした手はへなへなと力を失ってしまう。
きっと今の俺の顔は泣きそうに歪んでいて、悲鳴を上げないのが奇跡に思えた。

そして状況は急激に打開する。そう、ヤツの行動によって!
ヤツは俺の机の上で幾度か翅をうち震わせると、一直線に俺に向かってきたのだ!
「キャーーーーーッ!」
気付けば有らん限りの声を上げていた。するとヤツはその声に驚いたのか、明後日の方向へと飛びすさって行った。
や、やったぞ!俺はこの女体化して初めてのクライシスに我が手で勝利を掴んだ!
なんて頭弛いことを考えているうちに、所々で似たような悲鳴が上がる。
当然クラスは騒然、授業の終わりまで阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。

ちなみに最初に悲鳴を上げたのが俺だとばれ、きっちり悪友達にからかわれたのでした。

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最終更新:2008年06月11日 23:28
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