安価『引き出しの奥の思い出』

「……うわー、まだあったか…………」
 引き出し奥から出て来た『それ』を手に、しみじみと物思いに耽る。
 あの頃は俺も若く、まだギラギラと光っていたものだ。これを見るだけでよく判る。
 ……このピンク基調の表紙といい、あからさま過ぎて最早ギャグっぽい題名といい、まるであの頃の暑い心が戻ってくるようだ。いや全く。何もかもが懐かしい。
 パラリと捲ると、開きグセに従って開く先には、今となっては見慣れたモノ。
 ……っつーか、もう俺の身体の方がエロいしな。


 気怠い日曜の午後。特にする事もなくゴロゴロとベッドに丸まっていた俺は、これではイカンと一念発起して部屋の整理に臨んでいた。
 ……結果として上がった釣果。カオスと化したまま放置されていた引き出しの、更に奥から発掘されし人類の負の遺産。

 その名はデラべっぴ……いややめようか、やっぱり。

「全部アイツにやったと思ったんだがな……」
 アイツと言えば、つまるところ我が親友だが。永きに渡って積み重ねた蔵書、メディアの数々は、女体化を以て全て奴に譲渡された。お互い性癖はほぼ把握済みだし、問題はないだろう。
 あれだけ素直に嬉しそうにされると、正直何か複雑なのだが。

 ……まあ冷静に考えると、恋人からエロ本のプレゼントを受けるというのもかなりアレではある。


 パラパラと懐かしさにかまけて捲っていると、懐かしい顔触れと共にあの頃の記憶が鮮やかに蘇る。
「あー、そうそうやっぱりフェラはこの角度だよなー……あー、この子結構好みだったな、折り癖ついてっし……わざわざ学校まで持ってって、空気出しながらトイレ籠ったりな……」
 ……卒業アルバムか。黒髪の美少女が穏やかな昼下がりに、優しい笑みを浮かべながら捲る本と言葉なのかこれは。
 もっと美少女らしく自分を磨くとか流行のファッションを気にしてみるとかないのか俺。

 妄想する。
『うふふっ、明日は愛しの彼とのデートッ♪ ちゃんとお化粧の練習してお洋服選んで、そうそう、お弁当の中身も決めなくちゃ♪』
「ねーよ」
 一蹴した。たとえ女体化したとて決して譲れぬ誇りがあるのだ、俺にだって。


 ……なのに、そのまま妄想が、妙な方向に進んだ。
 開いたページには、騎乗位で責められる髪の長い子の姿。

 ――――置き換わる。
 熱に浮かされて、熱い息をつきながら、突き上げられる自分。

 虚ろな視線の先には――――

「――ッガアアアァァァッ!? 何考えてる落ち着けオレェッ! 雑念退散雑念退散ッ!」
 総てを振り切り布団へダイブ。ゴロンゴロンと激しく転げ回って邪念を落とす。
 刹那、空気を読んだかのように鳴る枕元の携帯。多分見なくても判る。アレだ。
「うるっせバカが空気読め――――――あ」
 衝動的に投げた先は、開いた窓。ちなみにここは二階。下アスファルト。

 ……これだから、部屋整理なんて慣れない事はするもんじゃない。


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最終更新:2008年09月06日 22:21
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