14 名前:初なれど []:2007/07/22(日) 23:01:15.39 ID:cVxu6yxwO
「もらったぁぁぁぁっ!」
「しまっ……親方様ッ――――!」
故は知らぬが、風林火山の四将に生まれた隙を安々と見逃す程、越後の龍は甘くない。
僅かなその間隙を突き、騎馬を更に疾らせ、謙信は単騎、菱の旗閃く本陣へと切り込む。
その目に映るは最早、信玄の証たる重々しき全身甲冑が一つ――!
「信玄、覚悟ォォォッ!」
「ぬ、うぅっ!」
だが信玄とて名高き名将。
名に誇る豪勇があればこそ、その刃が信玄の持つ軍配と切り結んだ刹那、謙信は自身の失敗を確信していた――
筈、であった。
「ぐ、ぁっ!」
「なっ……!?」
刃に抗う予想の外軽い感触と、にも関わらずそのまま斬られるでもなく刃の重さに弾き飛ばされる姿に明らかな違和感を覚え、謙信はそれを目で追い――
15 名前:初なれど []:2007/07/22(日) 23:02:58.65 ID:cVxu6yxwO
勢いに甲が飛び、内より現れたその姿は。
確かに、紛う事無き――
「ぐ、ぅっ……!」
「……おなご、だと……!?」
「親方様、ご無事でっ!」「チィッ!」
一瞬僅かに呆けた自身に喝を入れ、謙信は離脱すべく馬を走らせる。
「今は何も問わん! 信玄、この勝負預けるッ!」
「くっ――待て謙信――! 追うのだ透琳! 我が元服より続く武田の秘、ここで漏らさせる訳にはいかん!」
「はっ! 全騎、我に続けぇぇぇっ!」
「応ォォォッ!」
はてさて、今となっては由は判らぬものの、何ゆえか川中島の戦いは突然収束してしまうのだが――
一説によれば、上杉と武田に肉親の縁が結ばれたというのだが、誰と誰がめおととなったかどうにも定かとならないのである。
洒落話ではあるが、もう一つ。
同盟の結ばれる僅かに前、一部信玄が実は娘子であったなどという流言蜚語が飛んだのであるが、上杉から『この頃の下らぬ流言。我が宿敵を愚弄する事あらば、我が上杉の誇りをもって処断する』と各地に触れ回った折に、あっさりと立ち消えてしまったようである――
最終更新:2008年09月06日 22:38