無題 2007 > 12 > 14(金) 暇人

薄暗い部屋で毎日なんの目的もなく過ごす。こんな日々を長く過ごして、もう今日が何月何日か分からない。
いわゆる不登校だ。学校にはもう長い間行っていない。
他の男子より体が小さくて、人と話すのが苦手な俺はいじめの恰好の的だったようだ。俺は執拗ないじめにあい、しまいには不登校になった。

そんな俺はいつもと変わらない日を終え、またいつもと変わらない日々が続く事を考えながらベッドに潜りこむ。すぐ睡魔が襲ってきて、まぶたが自分の意志とは関係なく閉じはじめる。おやすみなさい。




目が覚める。暖かい布団の中でまどろみながらも重い身体を起こすことにする。さあ、今日は何しようか。と考えながら。

「よいしょ…っと?」

ん?声が高い。変だ。風邪でもひいたのだろうか?しかし声が高くなる風邪なんて聞いてことがない。まるで女の子…
そこまで考えて、思考が停止した。
嘘だろ?まさか?
洗面所に駆け出す。まさかまさかまさか!
洗面所の扉を勢いよく開け、鏡を覗き込む。

鏡を見ると、髪の長い女の子がこちらを見ていた。見たことの無いような美少女が。
手を頬に当ててみる。鏡の向こうの女の子も同じ仕草を寸分の違いも無くしている。
確信した。俺は女の子になった。そこでふっと思い出す。そういや誕生日、今日だ。

俺は鏡を見つめながら考えていた。
なってしまったものはしょうがない。童貞だった俺が悪い。 しかしこれ・・・信じられないな。こんな美少女が俺なのか?
こんな顔グラビアだとか写真集だとかに載ってるような顔だぞ?信じられん。
しかも見下ろすと胸が…あるんだけど…。まぁ女だから当然か。まぁまぁの大きさってとこかな。
長髪で整った顔立ちに小柄な体。なんでこんなにハイスペックなの? などなど考えていると

「ぁ・・・どなた?」

あ、母さんだ。久々に見た気がする。長い間引きこもってたからなぁ。 どなた?とか…まぁ普通分かんないか。
一応これのことは話しておかないと。


「俺だよ、母さん。俺。女になっちゃった。」
「歩・・・?歩なのね?あなた…そう。童貞だったのね…。」

それっきり独り言を話す母さん。さて、部屋に戻るとするか…。

「女になったなら服を買わないとね!下着とか全部買わなきゃ!」
「あ・・・うん。そうだね。」

適当に見つくろってきて…と言おうとした矢先、
「さ!服買いに行くわよ!あんたもついてこないと服のサイズ分かんないじゃないの!さ!」

まぁ、そうか。女になったからサイズ分かんないもんな。それにこの姿で外を歩いてみたい。という気も ちょっとしたからであるが。俺は女性でも着られそうな服を自分の服の中から選び、着替え。
久しぶりに日光の下に出た。

久しぶりに出た日光の下は、引きこもっていた俺にとって少々眩しかった。しかし同時に、少し楽しくもあった。
昔は自分に自信がなかったのだが、今は違う。ハイスペックな美少女。…女になって嬉しいのか自分。
ユニ○ロに到着する。そこで母が騒ぎ始めた。

「歩にはこんな服似合うんじゃない?…これも似合うかも!それから…」

なんであんたがそんなにテンション高いんだ。まぁとりあえず服を選ぶ。…次は下着か。
下着コーナーに入った俺は少し緊張する。見た目は女性でも中身は男性。なんというかここにいるのがむず痒い。
適当に下着を手に取ってみる。…手に取る時周りを確認した自分が恥ずかしい。もう女性なんだから恥ずかしそうにする必要は全くないと分かってても。

「これなんてどう?でもちょっと派手すぎるかな・・・。ねぇ歩ちゃん?」
「ちょっと…ちゃんづけはやめてくれよ…」
「いいじゃない。女の子なんだし。それに言葉遣いとか直した方がいいわよ?さぁさ、試着してらっしゃい。」

試着・・・ねぇ。とりあえず試着室に下着や母が選んだ服などを持って入る。試着・・・か。
自分の体をあらためて確認してみるが、これは反則じゃなかろうか?かなりスタイルがいい。元男としてこれだけは言える。
長い間付き合った息子がいないのはちと寂しかったが。
試着が終わった服を持って試着室から出ると母がにこやかな顔で待っていた。

「ねぇ母さん。なんでそんなにうれしそうな顔してるのさ?」
「ん~?なんでって…娘が欲しかったからよ。それに…これをきっかけにアンタの不登校も直ってくれると嬉しいかな・・・なんてね。」

そう言って母はにっこりと笑った。
こんな母の顔を見るのは久しぶりな気がする。俺は、長い間引きこもっていたことで母がどれだけ傷ついているか考えたことがあるだろうか?そう思うと胸がチクリと痛んだ。

「母さん…ごめんね。長い間。」
「どうしたの?」
「俺…明日、学校に行ってみるよ。」

俺は緊張していた。
久しぶりに学校へ行く、というのもあるが一番はこんな俺…女になった俺はうまくクラスになじめるんだろうか?という不安。
ああ、緊張しすぎなのか心臓がバクバクいってる。やっぱ行きたくないなぁ。でも行くって宣言したからには男なら行かねば。いや女だけど。 でも勇気を振り絞って玄関の扉をあける。そこに、後ろから嬉しそうな声で

「いってらっしゃい。」

久しぶりに聞いた。こういう時はこういうんだっけね。

「いってきます。」

久しぶりに言ったこの一声。それを聞くと母さんは嬉しそうな顔をしていた。 さあ、いってきますか。


学校に近づくたび緊張する。同じ学校の制服を見るともっと緊張する。
周りの目が痛い。通り過ぎていく同じ学校の生徒が俺を見ている。しょうがないか、こんな顔だしね。 それに恥ずかしい。生まれて初めてスカートを穿いた。スースーしてしょうがない。
学校の門を過ぎ、玄関を上がり、教室へ向かう。やばい、かなり緊張する。胸が張り裂けそうだ。 教室の手前まで来る。中ではいろいろな話し声が聞こえてくる。中に入るのが怖い。怖すぎる。怖くて一度立ち止まる。駄目だ、もう無理。進めない。

「おはよう!」

不意をつかれてビックリする。…挨拶。女の子だった。振り返ってる間にその子は教室の中に入っていった。
嬉しかった。その一声に勇気をもらった気がした。だから教室への一歩を踏み出すことができたんだ。
教室の中へ入る。教室にあったさっきまでの話し声が少しの間止まる。全員の目がこちらへ向く。そりゃそうだ。見たこともない美少女が教室に入ってきたんだから。
そこでまた足が止まってしまった。怖い。怖すぎる。やっぱり俺はいない方が…

「おはよ~!」

さっきと同じ声…だと思う。その子がそう言ってくれた。その声を皮切りに
「おはよう。」 「おはよ!」 「おはよー。」
俺に向けて、挨拶をしてくれた。嬉しかった。

そうやってるうちに先生が来る。

「お?誰、君?」
「ぁ・・・久しぶりです。山内歩です…」声が小さくなっていく俺。情けない。
「おー久しぶりだな。話は聞いてるよ女の子になったって?まぁ気を取り直して頑張りなよ。席は…あそこだ。」

指された先にはさっき挨拶してくれた女の子の隣だった。とりあえず、安心。
席まで移動する間も皆の視線を浴びている。あー緊張する。とりあえず席に着く前に教室を見回してみる。俺をいじめてたやつは…いた。俺を変な物を見るような目で見ている。当然と言えば当然か。
席に着くと隣の子が「よろしく~。」と声をかけてくれた。俺もとりあえず「よろしく…。」と言ったが声が聞こえたのだろうか。
一応聞こえたらしくこう、言ってくれた。

「お前も元男なんだろ?」
「え?おまえも…?」
「ああ、俺も元男。俺のこと覚えてない?田中っていうんだけどさ。」

田中…覚えてないような。いるような。

「まぁいいや。とりあえず元男同士仲良くしようぜ。」
「え・・・それはどうも…ありがと…」
「声が小さいぞ。せっかくそんな可愛い顔になったんだから声も大きくしないと損だぜ?」
「うん…ありがと…」

こうして、はじめて友達ができた。
どうやら田中以外に女の子になった男子はこのクラスにはおらず、だから俺と同じ元男が来て嬉しいそうだ。
俺としても同じ元男がいてくれて、本当にうれしかった。

友達と言うのは心強いもので、学校に来はじめてもう一か月がたっていた。
外見が美少女、ということもあってみんなが話しかけて来てくれた。俺は少しずつ学校に馴染んでいった。
困ったのが男子の類いである。見知らぬ男子に話しかけられることが多くなった。話しかけられたら断れない性質なので対応にほとほと困っていたが田中が隣にいてくれたおかげであまり大事にはならなかった。
あとはラブレター。二日に一回は必ず下駄箱に入っているのである。こんな美少女を男子がほっとくのは無理なのは分かっているが…かなり困る。
俺はもともと男なので男子と付き合う、というのは考えられなかった。なので丁重にお断りを入れることにしている。ラブレターを書くような男は粘り強くはないので対応は楽だった。
とりあえず、普通の学校生活を送れて俺は毎日が楽しかった。


ある日のこと、俺を昔いじめていた男子が喋りかけてきた。

「よう、久しぶりだな?」
「…」

目に見えて何か嫌なことを考えている。喋り方からもそう推測できた。

「…何か用?」
「いや、ただ仲直りがしたかっただけよ?べっつに変な意味はねぇよ。」
「仲直り?」
「そうそう、仲直り。…な?」

そういうと俺の手を引っ張る。どこへ連れて行く気だ。

「…ッ!やめろよ…!」
「あ?うるせえ。黙って来いよ。仲直りだよ。」

絶対嘘だ。俺は必死に抵抗したがしょせんは女性の体。簡単に引きずられてゆく。
俺は怖くなった。昔は男だったから単なる暴力で終わったが、今は…女。相手は男。 もしかしたら…犯されてしまうかもしれない。 必死に抵抗するがどんどん人気のないところに引きずられてゆく。
ヤバイ。助けて・・・っ!

暗がりに連れ込まれた俺は怖かった。体が動かない。心臓が、張り裂けそうだ。 相手の手の力が緩んだので振りほどいて数歩下がる。

「…なんの用だよ?」
「だから、仲直りだっつってんだろ…っと!」

俺は腕を抑えつけられ、縄で結ばれる。必死の抵抗も無駄だった。

「さってと…仲直りのしるしにさ。ちょっと親睦を深めようや?な?」
アイツの手が俺の服にかかる。抵抗する間もなく、服を乱暴にあげられる。下着があらわになる。 俺は、なんとも言えない気持ちで胸がいっぱいになった。畜生。

「お前さ?最近むかつくんだよね。不登校になっておきながらノコノコ学校にきやがってさ?しかもクラスで注目されるようになりやがって!むかつくんだよ!」
そういえば昔はこいつクラスで注目を浴びてるような奴だったな。最近見なくなったと思ったら…俺が原因だったのか。

「なぁ?お前とんだかわいこちゃんになってさ、自惚れてねぇ?なぁ?ちょっとお仕置きが必要なんじゃない?」
「…やめろ!コノヤロウ!」俺は声を張り上げて叫ぶ。
「うっせぇんだよ!この野郎!犯されてえのか!」

そういってあいつの手が俺の胸に伸びる。畜生。畜生畜生畜生ーッ! 俺は目をつぶった。こうした方が少しはマシになるかもしれない、と思ったからだ。

「コラ!お前!なにやってるんだ!」

俺は目をあける。大人の声だ。助かった…? アイツは俺に一瞥すると逃げようとした、しかしそうはいかなかったようだ。大人数人に羽交い絞めにされる。

「コラ!やめろよ!ふざけんなよコラ!ああ!?離せ!離せッ!」

た・・・助かった…んだ?よかった…

「大丈夫か!?山内!」
田中が大声を出しながら駆け寄ってきてくれた。俺は、涙が溢れてきた。 本当に、怖かった。

どうやらアイツに引きずられていくのを田中が見て、教師たち数名を引連れてここまで来たらしい。
見つかったのは、俺が叫んだおかげだという。声が聞こえたそうだ。
危なかった…もう少しで…。俺はそう考えると心底怖くなった。

「大丈夫か?」田中がそう声をかけてくれた。
「ああ…大丈夫だ。もう少しで…アイツに…」

そう考えるとまた涙が溢れ出してきた。

「俺が見つけてよかったよ。本当に良かった。」
「本当にありがとな…。俺なんかのために大人まで呼んでくれて。」
「あったりまえだろ。俺たち、親友だもんな。」
「親友・・・。ああ、本当に、ありが…と…」
「ばっか泣くなよ・・・・


その後、アイツは学校に来なくなった。こちらとしては万々歳である。怖い思いをしたが、それを差し引いてもお釣りの来るほどの幸せが残ったように思える。
「いってきます!」「いってらっしゃい。」
そう挨拶して学校へ行くのがこんなに楽しいのは、本当に久しぶりである。
また今日も、楽しい学校生活であるように…。

終わり


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最終更新:2008年09月06日 22:50
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