「最近やけに欠席が多いな。」
「あれ、なっちゃんあの噂知らないの?」
「噂? なんだそれ?」
「このごろこの町でさ……出るんだって。」
「出るって、幽霊か? 高校生にもなって幽霊なんか怖くねえよ。」
「違うの、幽霊より怖いかもしれない。」
「……なんだよ。」
「変質者よ。どうやらにょたっ娘ばかり狙ってるらしいわ。なっちゃん、気をつけてね。」
「どうせ俺を脅かそうとか思ってるだけなんだろ?」
「もう、本当なんだから。遭った子の話によると『悪魔だ』って、それ以上は何も語ってくれなかったんだけど。」
「ご忠告どうも。じゃ、俺バスケ部の練習があるから。」
「どうなっても知らないわよ……。」
そんな会話が二時間前にあったのもすっかり忘れてしまっていた。
女子更衣室。はじめは戸惑ったものだが今ではすっかり馴染んでしまっている。
チームメイトがブラ姿でワキに消臭スプレー掛けていても気にならない、というのはちょっと悲しい気もする。
「なっちゃん、お疲れ様。」
「あ、先輩、お疲れ様です。」
「あいかわらずキレがいいよね。」
「いいえ、俺なんてまだまだですよ。」
男の頃からひそかに憧れていた先輩。結局その思いは告げられずにいたが、こうやって日常的に会話できるようになってむしろ嬉しい。
「そうだ、なっちゃん、今日一緒に帰ろ?」
「え、いいんですか?」
ただこの人にだけは、いまだにドキドキする。これが恋ってモノなんだろうか。
狭い路地を通っていた。彼女の家は意外に近所で、この道は俺たちの家への近道らしい。
「ところでなっちゃん、『悪魔』の噂知ってる?」
「そういえば今日そんな話を聞いたような……。」
ああ、思い出した。放課後すぐのことだった。でもなんで先輩がそんな話を切り出してくるんだろう。
「あれ、ね、実は、私なの。」
後ろから抱きつかれて思わず体がすくむ。嘘だろ、まさか先輩が……。
「ふふ、そんなに怖がらなくてもいいのよ。」
「ひゃう!」
胸を思い切りわしづかみにされ、声が漏れてしまった。
「んゃ……だ……。」
なんだ今の、俺が言ったのか? 信じられない。
「可愛い声だすじゃないの。」
先輩は片方の手を胸から離しスカート越しに俺の秘部を……。
「んやぁ! 先……輩っ、こんな……道……端……でっ。」
「んー、それもそうね。じゃ、お家入りましょうか。」
開放されたものの身体がもぞもぞする。なんだか物足りない。
「はぁはぁ……、え?」
お家って?
「本当はね、私のお家ここなのよ。」
そう言ってすぐそばの一軒家を指す。なるほど、確かに先輩の苗字の表札がかかっていた。
「入る?」
先輩は柔らかな笑顔で誘ってくる。その仮面の下にある悪魔の素顔を隠して。
だが俺が断ることはない。なぜなら『女の快感』の片鱗に触れてしまったから。そして、知ってしまったからにはもう求めずにはいられないから。
そうして俺は魔窟へと自ら足を踏み入れた。
最終更新:2008年09月06日 23:23