美術館のとある一角に飾られた絵画に私は心を奪われていた。
その絵には二人の人物が描かれていて、おもしろいことに左右で絵のタッチがあからさまに違うのだ。
右側の男性は力強く荒々しい、他方の女性は繊細で美しい。この二人が左右対称に同じポーズを取っている。
ひとりの老父が隣に立った。
「お嬢さん、この絵にまつわる逸話を知っておるかの?」
「い、いえ。」
彼は静かに語り始めた。
「その画家はわずか15歳の時にはこの絵を完成させておったという。しかしその時は決して公開しなかった。」
「はあ……。」
「しかしその後彼に転機が訪れる。」
「女体化……ですか。」
「そう、そして彼――もはや彼女だが――は、1年後、何を思ったのか絵の半分を破り捨ててしまった。
そして片方を描き直し、つなぎ合わせたのがこの絵というわけだ。」
「なるほど……。」
私は左の女性を見つめていた。この絵のように優雅な心が、彼女の得たものなのだろうか。
「彼女の描き直したのは、右半分だ。」
「えっ……。」
思わず赤面した。彼女の心情を勝手に誤って『理解』しかけていた。
「女性になって初めて理想の男性というものが分かったという。」
人は自分の持っている良さは見えにくい。そう最後に言い残して彼は去っていった。
今でも、私の頭の中には彼の言葉とあの絵が焼き付いている。
おわり
最終更新:2008年09月06日 23:24