『売買』

「なあ、俺の処女買わないか?」
ぶっ! ……ゲホ、ゲホ……。
「お、おい、大丈夫か。」
「お前が変なこと言うからだ!」
相手はつい最近女体化した男である。こういう反応をとるのも無理はない。
「ああ、そうか。俺が元男だから……。」
やけにものわかりが早いな。
「……だから金まで出してセックスしたくないんだな。」
うん……ん? あらぬ方向に話がずれている気がする。
「ここに五千円ある。」
そう言ってすり寄ってくる。手を後ろから回し肩を組んだ格好になった。息が近い、そして甘い。
「これで、どう?」
「馬鹿野郎、売春とか買春とかやめろ! もう女なんだから自分を大事にしろよな!」
はっきり言って欲情しかけていた。それを隠すために怒鳴りつけた。
俺は……。気持ちの整理がつかなくて、足が勝手に、全速力でその場から離れていく。
「嫌われちゃったかな。」「時間がないのに。」
そんな言葉を、こんなときに限ってやたら精度良く拾い上げる耳を恨めしく思った。

おわり

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最終更新:2008年09月06日 23:25
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