無題 2006 > 09 > 04(月) 保守がてら

投稿日:2006/09/04(月) 02:58:21.27
正樹「ふぅ…。」

俺、鈴木正樹は今日何度目ともしれない溜め息を吐いた。

溜め息の重さが日々増していく。

誕生日が明日に迫っていることも原因だが、一番の要因は…

祐子「な~に溜め息ついてんのっ。」

コイツだ。

今、俺の頭を小突きながら俺の顔を見てにこにこ笑うコイツ。

コイツ香山祐子(俺はゆこと呼んでいる)は、俺の幼馴染みだ。

幼少の頃から一緒なせいか、中学まで通う学校はずっと同じ。

今年入った高校も同じで何の因果か同じクラスで勉強している。

容姿はそこそこ運動神経、学力もそこそこながら、その飾らないのに人を引き付ける性格からゆこの周りにはいつも人の群れが耐えなかった。

必然的にゆこに告白する男も出てくるし、俺も見たことはあるが、ゆこは彼らの申し出をことごとく断っていた。

対して俺は、というと容姿は中の下、学力も学年の最下位から数えたほうが早く、取り柄は少し運動神経が良いくらい。

引っ込み思案で、人付き合いも下手。もちろん異性と浮いた話も無く、異性で気安く話せるのはゆこぐらいなものだった。

長く付き合えば愛着が湧くのは必然だ。

ご多分に漏れず俺もゆこに好意を寄せていたが、それも煮え切らない自己完結をしていた。



投稿日:2006/09/04(月) 03:20:26.09
そんなこんなでいつも通りに軽くお喋りしながらの帰宅。

ゆこ「そういえば明日は正樹の誕生日じゃない?」

唐突にそんな風にゆこが俺に言ってきた。

正樹「そうだよ。」

心なしかぶっきらぼうに答える俺。

その姿に訝しそうに首を傾げて見せてから、ゆこは話を続けた。

「明日で16だよね?まーくん(ゆこは俺をこう呼ぶ)は。

そかー、私よりも年食っちゃうんだぁ。ね、プレゼントは何がいい?」

正樹「え?」

その問いに俺は答えに詰まった。

本当は「ゆこが欲しい」そう言いたかった。

16になって、童貞のままだったら女になってしまうとかそんなのはどうでもいい。

ただ純粋にゆこを抱きたいって。

正樹「俺は…。」

けれど、俺の根性無しの口は結局最後までその言葉を紡ぐことは無かった。

ゆこ「俺は?」

正樹「…っ!何もいらねーよっ!」

それだけ言い残して俺は自分の家に駆け込んだ。

ゆこ「まーくん…。」



投稿日:2006/09/04(月) 03:34:40.27
結局俺はまた何も言えなかった。

ゆこに彼氏がいないだろう今がチャンスだろうに、

俺はまたそのチャンスを生かし切ることが出来なかった。

正樹「…っきしょう!」

バンっ!

たまらずに俺は、今自分が入ってきた自室のドアに枕を叩きつけた。

ボフっと何かが破裂するような音を立てて、枕がずり落ちるのを目もくれず

俺は自室のベッドに突っ伏した。

明日だ。

明日こそゆこにこの気持ちを伝える。

そして、ゆこに俺の童貞をもらってもらうんだ。

…明日は…来なかった。

正確には「男として」の明日は。

その夜、俺は大量の射精に意識を失い、そして

慣れ親しんだ「正樹」という名前を失った。

(作者から)
需要があれば続きを書く。

とりあえず寝る。



投稿日:2006/09/04(月) 04:14:33.31
(何故か眠れないから続きを書くんだぜ。)

私は、夕方別れた時のまーくんの態度がずっと気がかりだった。

私に「何もいらねーよ!」ってそう言い放って部屋に入っていってしまったまーくん。

いつもはあんなに優しいのに、凄い剣幕だった。

あの時、まーくんは本当に何も欲しくなかったんだろうか。いつもなら誕生日が来るたびに何々が欲しいなんて冗談まじりに言うのに。

私はまーくんが分からない。

あんなにいつも私と一緒にいてくれるのに、まーくんから付き合ってなんて言われたことない。

まーくん私のこと嫌いなのかな…?

幼なじみでしょうがないから一緒にいてくれてるだけ…なのかな?

まーくんにだったら私のあげるのにな…そんなに魅力無いかな私…?

軽く胸をつついてみた。淡い刺激が体を走った。

違うよね。

待ってるだけじゃ…受け身じゃダメだよね。

明日まーくんにもう一回聞いてみよう。

…でもまーくんは、翌日もその翌日もその翌日も学校に出てこなかった。



投稿日:2006/09/04(月) 04:40:53.34
まーくんがいなくなってもう5日が立つ。

クラスの様子はあまり変わる様子も無い。

休んで3日目ぐらいまでは正樹のやつどうしたんだろうななんて話もあったけど今はもうそれも無い。

私の心以外はクラスは正常に戻っていった。

担任が言うにはまーくんは病欠だという。

なんでも風邪をこじらせたらしく起き上がれないぐらいらしい。

お見舞いに行きたい旨を伝えたが断られてしまった。

まーくんどうしたんだろうな…。

そんなことばかり思ってた。

放課後、今日の日誌を届けに行った時のこと、担任の机の前で見慣れない女子生徒が先生と話しているのを見かけた。

肩にかかる黒髪。

整った顔立ち。

モデルのようなプロポーション。

容姿端麗という言葉がまさにぴったりで、同じセーラーを着ているはずなのに何だか私のほうがみすぼらしく見えて、そこにいるのが気恥ずかしくなった。

先生に聞くと彼女は明日から私たちのクラスに転校してくる生徒で、名前を鈴木真咲さんと言うらしい。

彼女は私たちにぺこりと頭を下げると職員室から出ていった。

まーくんと同じような名前の読み方であることに私は少し違和感を感じた。



投稿日:2006/09/04(月) 05:01:00.05
 翌日、昨日の話の通り真咲さんがうちのクラスに転校してきた。

 先生が彼女にまーくんの席に座るように言ったが私が頑として断った為、彼女はまーくんの席の後ろの席に座ることになった。

 真咲さんは凄い綺麗な人で、何をやっても絵になる人だった。転校初日の放課後にはもう数人の男子から告白されていたけど彼女は全部断ったみたいだった。

それから数日立った。 

 真咲さんはどうも人と話すことは苦手みたいであまり人と話をしているのは見たことが無い。

人と触れ合わないのはもちろんだけど、とりわけ私のことを避けてるみたいだった。

綺麗な顔立ちなのに、何故かいつもどこか寂しげ。

何かまーくんみたいだ。

容姿端麗。なのに、人と触れ合わない所為だろうか。とうとう真咲さんに対しての一部女子のイジメが始まった。



投稿日:2006/09/04(月) 05:16:56.96
真咲さんに対するイジメは過酷なものだった。

詳しくは書かないが、真咲さんは精神のほうも少しずつやられ始めていったみたいだ。

最初こそ男子も真咲さんを助けようとしたけど結局それも最後は「お高く止まりやがって」なんて言って長続きしなかった。

たび重なるイジメにひたすら耐える真咲さん。

ノートを破かれても、机に香水をまかれても彼女は抵抗しなかった。

あくる日、真咲さんの態度にしびれを切らしたイジメグループの女子がとうとう真咲さんに手をあげた。

その様子にとうとう耐え切れなくなった私は、「もう止めなよ!」とその女子につっかかり喧嘩になった。

結局その日は先生に厳重に注意をされたけど、私はその時初めて真咲さんから「ありがとう」という言葉を聞いた。

そうして私たちは友達になった。



投稿日:2006/09/04(月) 05:31:22.10
それ以来、真咲さんは少しずつ変わっていった。

クラスメイトにも少しずつ話し掛けるようになって、少しずつクラスの輪に入っていけるようになっていった。

イジメグループの子とも仲直りしたみたいだ。真咲さんは元は喋り方が上手いせいか、話し掛け始めた彼女の周りには少しずつ人の輪が出来ていった。

まーくんはまだ学校に来れないようだった。



投稿日:2006/09/04(月) 05:53:24.11
ある帰り道、私は真咲さんと一緒に帰った。

ゆこ「真咲さん、学校には慣れた?」

真咲さん「ええ。少し大変だったけど大分落ち着いてきたわ。香山さんのおかげね。」

そう言って真咲さんはにっこりと笑った。

ゆこ「ううん。私は何もしてないよ。真咲さんが頑張った結果でしょ?」

真咲さん「ううん。香山さんがいなかったら私ダメだったと思う。だから香山さんのおかげよ。感謝してるわ。」

真咲さん「ところで…」

ゆこ「ん?何?真咲さん。」

真咲さん「時々、私の前の席を見て考え事をしているようだけど…。」

ゆこ「あ…。」

真咲さん「その…大切な人なの?」

ゆこ「一応…ね。正樹くんとは幼なじみだから。」

真咲さん「そう…なんだ。」

そう言う真咲さんは少し寂しげな顔をした。

真咲さん「じゃあ…私はここで。香山さん気をつけてね。」

ゆこ「うん。真咲さんもね。あ…そだ。」

真咲さん「え?」

ゆこ「今度、真咲さんの家に遊びに行ってもいい?」

真咲さん「ごめんなさい香山さん、それは無理よ。」

そう言って真咲さんは路地の向こうに消えていった。



投稿日:2006/09/04(月) 06:12:46.90
まーくんが学校に来なくなってもう2ヶ月ぐらい経つ。

このままじゃもうそろそろ1学期が終わってしまう。

まーくん、このままだったら学校退学になっちゃうんじゃ…

よし

担任の許しは出ていないけど、まーくんのところにお見舞いがてら激励しに行くことに決めた。

ゆこ「見舞いに果物でも買っていこうかな…」

白いワンピースに、サンダルをつっかけ、麦わら防止を被り、私は外に出た。



投稿日:2006/09/04(月) 06:25:00.93
まだ夏の始まるか否かの微妙な時期とは言え、今日の外は十分なほど暑い。

セミが合唱をして 道路からは陽炎が立ち登っている。うだるような暑さとはこのことだろうか。

ワイシャツを着て歩いている人がちょっとだけ可愛いそうになった。

早く涼しいところに入りたい。必然的に足が早くなる。

途中果物屋さんに立ち寄った。みずみずしい果物がたくさんあって、店頭にはスイカが冷えてるケースが並んでる。

ここに手を当てて冷たいんだか、暖かいんだか分からない水の感触を楽しむのが好きだったなあ。昔まーくんと一緒にやったっけ。

そんな淡い思い出にちょっとだけ浸ってから、二房の葡萄を買って私は果物屋さんを後にした。



投稿日:2006/09/04(月) 06:45:05.03
歩道橋の上を通り、車の往来が激しい大通りを越える。以前来た時はこんな歩道橋は無かったし、そもそも道が大通りじゃなかった。

こういう道を歩いていると、自分がまーくんのところに遊びに行かなくなってたっていう事実が良く分かる。

多分、まーくんが休む前に教えてもらった道順で合ってるならそろそろ見えてくるはずだ。 果たして、言われた通り5階建てのアパートの姿が見えてきた。

はやる気持ちを抑えられず、アパートに歩み寄り足早に階段を昇る。

あと少しでまーくんに会える。

あと少しでまーくんに会える。

あと少しでまーくんに会える。

会ったら何を話そう、何をしよう。

一緒に葡萄を食べて一緒に笑って

一緒に…

このまーくんがいない2ヶ月で、自分がどれだけまーくんを大切に思っていたのかを再認識した。

そのまーくんにやっと会える。

はやる気持ちを抑え、「鈴木」という表札を確認して、チャイムを押す。

まーくんに会える。

まーくんに会える。まーくんに会える。まーくんに会…

ガチャ

「え?」

ドアの向こうから出てきたのは

真咲さんだった。



投稿日:2006/09/04(月) 07:05:59.46
ゆこ「真咲さん…何で…?」

目の前の事態が分からない。

何で?

どうして真咲さんが?

まーくんに会いに来たはずなのにどうして真咲さんが目の前に立っているんだろう。

真咲さん「…っ!」

何を思ったか、私の前を通り過ぎて駆け出していく真咲さん。

ゆこ「真咲さんっ!?」

???「ゆこちゃん!」

彼女を追おうとする私の背中に見知った声が飛び込んできた。

???「ゆこちゃん。来ちゃったんだねぇ…」

ゆこ「おばさん…?どうして…?まーくんは…?」

おばさん「ゆこちゃん…正樹はね…。」

私の手から、

買ってきた葡萄が

ボタリと落ちた。

(ひとまずこれで中断、続きは夕方から夜のどちらかから書くかも。)



投稿日:2006/09/05(火) 13:19:25.67
翌朝学校に来た私は、教室に入ったと同時に違和感を感じた。

いつものようにクラスのみんなが友人とお喋りをしてるのは変わらない。 ただ、大半の瞳が一点に注視されているのが分かる。

よくよく耳を傾けてみれば、「あの真咲さんが…」「私は怪しいと…」「嘘だよなこんなの」なんて声も時折。

典子「ゆこー!」

私に気が付いたらしく友人の典子が私に駆け寄ってきた。

ゆこ「のり?どうしたの?」

のり「真咲さんが…真咲さんが…」

と声を震わせながらみんなが注視する方向、つまり黒板へと私を誘う。

みんなが注視するものの前に立った私。

正直目を疑った。

そこには

白いチョークででかでかと

「鈴木真咲は女体化した元童貞の男だ。」

と書いてあった。


投稿日:2006/09/05(火) 13:39:26.24
聞かれてた…?

昨日の話…

誰かに聞かれてた?

その時はそんなことを思えるはずもなく、叩きつけるように黒板消しを取った私は猛然と黒板に書いてある字を消し始めた。

どんだけ消しても上手く消えない。怒りで手元が狂っているせいだ。

「あれ?それ消しちゃうんだ?」

 そんな私の背中に投げつけられた声。壊れたマリオネットみたいな仕草でその声の方向を向く私。目の前に飛び込んでくるのはクラスの問題児の男の姿。

「これ書いたの…アンタ…?」

身を焼くような怒りの中、何とかその言葉だけを絞り出す私。

男「いや?俺が来た時にはもう書いてあったよ。 いや、でもねぇ…何の関係も無いゆこちゃんが消すとはねぇ…?

ひょっとしてアレ?

ゆこちゃんは真咲ちゃんのことが好きだったりしちゃったのかなあ?」

ゆこ「!!」

男「図星かよ!おいみんな聞いたか?うちのクラスの香山祐子はレズだ!ハハハ!こいつは傑作だ!

ゆこちゃん何だったら俺らがくっつけるの手伝ってやってもいいですよぉ?クラス一の美少女で人気者の真咲ちゃんとな!ヒャハハハ!おいみんな!ゆこちゃんを応援してやろうぜ!」

クラスの一部の男子から、「レーズ!レーズ!」とコールが始まった。



投稿日:2006/09/05(火) 14:00:55.46
のり「止めてよ!ゆこが可哀想じゃん!」

のりの声に呼応して、友人達が私を庇う為に集まってくれた。

そんな彼女達にもレズコールが浴びせられる。

もう…我慢の限界だった。

ゆこ「のり…みんな…いいから。」

庇ってくれたみんなを押しのけ私は前に進みでた。

一瞬、教室内が沈黙した。

ゆこ「…好きよ。」

ゆこ「私は鈴木『正樹』が好き。」

男「…おい!みんな聞い…。」

ゆこ「あんたに分かる?好きだった人に女になられちゃった私の気持ち!」

ああ。もうダメだ。これは止まらない。ゆこ「あんたに分かる!?女になりたくなかったのになっちゃったその人の気持ち!」

言葉の奔流が止まらない。

ゆこ「あんたに分かるの!?助けに気がつけなかった私の気持ち!私に助けを求めてきたアイツの気持ちが!」

ゆこ「何も…何も分からないクセに…軽はずみに物を言わないでよぉぉぉぉぉぉ!」

薄れゆく意識の中で、私は正樹が廊下に立っているのを見た。



投稿日:2006/09/06(水) 22:39:25.80
「ん…。」

まどろみの中、かすかな灯りに私は目を覚ました。

まず私の目に飛び込んできたのは一面の白い天井。 ところどころ黒ずんでるところはあるもののさして気になるものでも無い。

のり「大丈夫?」

のりが私の顔を心配そうに覗き込んでいるのが分かる。

ああ、そうなんだ。

今保険室で寝ている事実、さらに気を失っていたという事実に気がつくまで私は少々の時間を要した。

のり「今ちょっと保険の先生出払ってるみたい。びっくりしたよ。突然倒れるものだから。」

ゆこ「のりがここまで私を?」

のり「私もそうだけど…私だけじゃないかなぁ…?」

ゆこ「…へ?」

のりがちょいちょいと指差す先に視点を移す。

そこにはベッド際ですうすうと寝息を立てる正樹の姿があった。



投稿日:2006/09/06(水) 22:51:17.41
のり「あの後凄かったんだよ?ゆこが気を失った後。」

ゆこ「凄かったって?」

のり「真咲さんが凄い勢いで入ってきてね。

『俺の悪口を言うのは構わね-が、ゆこの悪口だけは言うんじゃねぇ!』

って凄い剣幕。」

ゆこ「え?」

のり「それからゆこを背負ってそのまま保険室直行。

ちょっとだけ怖かった。格好良かったけどね。」

女の子に格好良いってのはやっぱりかなぁ?そう言ってのりは苦笑した。



投稿日:2006/09/06(水) 23:04:10.74
のり「あ…あのさ。」

ゆこ「ん?何?ゆこ」

のり「真咲さん、元男って…黒板に書いてあったでしょ?」

ゆこ「うん…」

のり「真咲さんってさ、やっぱり正樹くん…なの?」

ゆこ「…。」

のり「TS症候群…ってやつだよね?…男の子にだけ発症するっていう。今まで見たこと無かったから…。」

ゆこ「…。」

のり「でもさ、こんなに綺麗になるのは反則だよね。もうちょっとブサイクだったら『女になっちゃったんだ』って思えたのにさ。」

笑いながら言うのり。けれど私には笑ってるようには見えなかった。

のり「あはは…こんなじゃ諦めることも…諦めないことも出来ないじゃんね。神様は残酷だよホント。」



投稿日:2006/09/06(水) 23:19:44.61
のり「あ…っと、ちょっとしんみりさせちゃったね。ごめんごめん。今日の私何か変だよね。」

ゆこ「のり…」

のり「あ…いけない。そろそろ塾の時間だ。私行かなきゃ。あーもぉーすっかり話し込んじゃって…。」

のり「遅れたらゆこのせいなんだからね? 真咲さんは置いていくから後は宜しくぅ。」

ちょろっと舌を出してから、のりは保険室から出て行った。



投稿日:2006/09/06(水) 23:39:39.33
ベッド元のまーくんに目を向ける。

私の足元の方でまどろむまーくん。

床に膝をついて、ベッドの上に乗せた腕の上に頭を乗せている。

膝は痛くないのかな、とか思いきや案外ぐっすり寝ているようだった。

私をここまで運んでくれたんだ。

そりゃ疲れただろうな。  

堪らなく愛しく見えて、私はまーくんの髪を撫でようと手を伸ばした瞬間。

その手が掴まれた。



投稿日:2006/09/06(水) 23:53:48.12
ゆこ「寝たフリしてたの?」

真咲「…。」

私の問いには答えず、私の手を掴んだまま。まーくんはベッドの上の私にのしかかってきた。

ゆこ「ちょ…まーくん?」

私の制服のリボンを強引に引き抜くまーくん。

リボンとの摩擦で首にちりと痛みが走る。

ゆこ「まーくん?まーくんってば!」

制服のフロントジッパーが引き下ろされる。

私のピンクのブラがまーくんの前に晒される。

ゆこ「ダメ…ダメだってば!」

そこまで来てまーくんは手の動きを止めた。

私はおずおずとまーくんを見つめる。

まーくんは泣いていた。

ゆこ「まーくん…。」

ぽたりとまーくんの涙の一滴が、私の胸に落ちた。



投稿日:2006/09/07(木) 00:10:19.37
真咲「ごめん…こんなの今更だよな。マジでごめん。ごめ…。でも分かんねーんだよ自分でどうしていいか…」

そう言ってまーくんは私の上で泣いていた。

涙を見せないように両手で顔を覆うその仕草はまさに女性の姿だった。

抱きしめたい衝動に駆られた。

でも、多分今の自分はまーくんを抱きしめてはいけない。まーくんをここまで追い詰めたのは、私だ。そんな私にまーくんを抱きしめる資格なんかあるものか。

だから、私に出来るのは、まーくんが泣き止むまで黙って見守ることだけだった。

真咲「俺…今日は帰るわ。」

ゆこ「うん…。」 真咲「さっきのは忘れてくれると嬉しい。」

ゆこ「…。」

ひとしきり泣いた後、まーくんは保険室から出ていった。

乱れた制服を見つめる。

はだけられた胸元にはかすかに流れる滴が一つ。

さっき、私はまーくんにどんな顔を向けていたのだろう。

不安?

恐れ?

期待?

罪悪感?

ゆこ「男の子になりたい…。」

身を焼く絶望ともしれない何かの中、私は漠然とそう思った。



投稿日:2006/09/07(木) 22:49:43.97
翌日の放課後、私は図書館にいた。

昨日の夜まーくんと一緒にいた時に抱いていたあの思いは、今はすっかり形になっていた。

男の子になりたい。男の子になれば私は何の遠慮もしないでまーくんの思いに答えることが出来る。 女体化について調べれば何か分かるかもしれない。その思いで私は図書館に来た。

けれど調べても調べてもワケの分からない数値やデータばかりで私の知りたいことについては書かれていない。

ひょっとしたら学校にある本だけでは不足なのかも…もっと大きなところじゃないと見つからないのかな。

いや、そもそも女が男になんてなれないんじゃ…いやまさか…。

そんなことを思いながら今日五冊目になる本を手に取ったところ、後方から聞きたくもない声が聞こえた。



投稿日:2006/09/07(木) 23:04:24.94
男「よう。」

私はその言葉には耳を貸さず、ひたすらに本を探す「フリ」をしていた。

ひとまずの目当ての本はもう右手に抱えてある。

男「おい。」

五月蝿い。

私の中にはそればかり、うんざり。正直コイツの声は聞きたくない。私とまーくんの事を踏みにじった。そんなヤツの声なんか聞きたくない。

くるりと振り返りソイツに一瞥をくれると私はそいつの横を通り過ぎようとした。

男「待てよ!」

ゆこ「放して!」

私の手を掴むそいつの手を振り払おうとした瞬間。

私の手から持っていた本が落ちた。



投稿日:2006/09/07(木) 23:21:54.30
男が私が落とした本を拾いあげる

男「現代社会における女体化が与える影響と対策…か。

ワケも分からねーくせにこんなクソ難しそうなの読みやがって。」

ゆこ「アンタには関係ないでしょ。」

男が手に持った本を奪い取ろうとする私。けど、その度に男が私の手を避ける為、私の手は空しく宙を舞うばかり。

ゆこ「返してよ。」

男「いーや返せねぇな。」

ゆこ「返して!」

何度目かの手を振り出したその瞬間、男が私の手を掴んだ。

男「お前…TS野郎なんかと本気で付き合っていけると思ってんのか?」



投稿日:2006/09/07(木) 23:41:18.25
ゆこ「え…?」

男「俺が質問してんだよ。答えろ。 お前はTS野郎と本気で付き合っていけると思ってんのか?」

ゆこ「そんなのやってみないと分からないじゃない!」

男「はん!茶番だな。」

私の決死の言葉を、男は何でも無いかのように吐き捨てる。

男「TSになると、何もかもが変わっちまうんだよ。性別も変わる!名前も変わる!自分を取り巻く環境も変わる!そして人生も…変わっちまうんだ。」

ゆこ「男…?」 

ふと男の顔が乙女のような寂しげなものに変わる。

男「…中学ん頃、俺にはかけがえの無い親友がいた。バカ騒ぎをしたり、他愛の無い話をしたり俺はそれだけで十分だった。」

ゆこ「…。」

男「ある日、あいつに彼女が出来た。俺も自分の幸せのように喜んだ。…でもそれもアイツが女になっちまうまでだった。」



投稿日:2006/09/07(木) 23:58:32.16
男「女になっちまってからのアイツは悲惨だった。

彼女に捨てられ、クラスでイジメにあい、仲間だと思ってたやつにはまわされて…、俺は他校だったしな。気づいた時には遅かった。

…俺の思いを伝える前にアイツは死んじまったよ…。」

ゆこ「あんたは男じゃ…?」

男「女だったよ元は。女はTSしねぇって言われてたのに、俺は社会に裏切られた。アイツに彼女が出来る前に男になってなきゃ俺が告白したのによ。全部台無しだ。」

ゆこ「…。」

男「だから俺はTS野郎と付き合っていこうってやつには吐き気をもよおすんだよ。TSになるってことがどんなことかも分からねーくせに偉そうに恋愛を語るんじゃねぇってよ。」

男になりたい私と、男になりたくなかった男。

知りたかったことが分かったのに、私は何となく複雑な思いがした。



投稿日:2006/09/08(金) 00:18:33.01
それでも私は言わずにはいられなかった。

ゆこ「なら私が男になれば文句は無いんでしょ?」

すると、それを聞くや否や、男の顔がまるで鬼のような様相に変わる。

掴んだ手を持って私を本棚に叩きつける。

ゆこ「…。」

男「てめぇ…人の話を聞いてなかったのか?んな寝言ほざくなんて…」

ゆこ「寝言なんかじゃない!私のまーくんへの気持ちはウソっぱちなんかじゃない!」

男「んだとぉ…?」ゆこ「あなたの過去には同情するけど、私とまーくんのことは今なの!だから私は男の子になるって決めたの!」

男「てめぇ!」

殴られる!

私は思わず目をつむった。

しかし、私の顔に男の拳は飛んではこなかった。

変わりに目を開けた私の前には、先ほどの本が突きつけられていた。

それをおずおずと受け取る私。

男「ふん…、じゃあ試してみるといいさ。処女を貫いて糞神に選ばれて、体を苛む激痛に耐えればめでたく男だからよ。」

そう言って、キビスを返す男。

その背中に精一杯の皮肉と本音を込めて私は「ありがとう」と投げかけた。

男「ふん…せいぜい糞な神にでも祈っておくんだな。」

332 名前:保守がてら 投稿日:2006/09/09(土) 21:45:28.27 wUQGx1qKO
男を見送った私は、先ほどと同じように図書館のテーブルに腰をかけた。



テーブルには3冊ほど本が積み重なっているがそのどれもが難し過ぎて中途半端に投げ出したものである。



私は今回の本も意気揚々と開いてはみたものの、その本もまた暫くして、机上の山の一部に加わった。



何の気もなしに自分の周囲を見渡してみる。
日も落ち、下校するのピークの時間も過ぎたせいか、図書館の人の数もまばらになっている。



外も暗くなってきた。そろそろ帰ったほうがいいだろう。



私は、先ほどの本を二冊だけ借りることにした。




335 名前:保守がてら 投稿日:2006/09/09(土) 21:56:22.13 wUQGx1qKO
 本を借りた私は、図書館を出て、げた箱に向かった。



自分のげた箱からミュールを取り出し、つっかけ外に出る。



ことのほか外は暗くなっている。早々に帰ったほうがいいだろう。



気持ち足早に私は校門へと向かった。



誰かいる…?
私は誰かが校門に立っているのを認めた。
シルエットから判断するに女性だろうか。
その姿は近づいていくと徐々に私の見知った姿へと変わっていった。




真咲「…よぉ。」
ゆこ「まーくん?」
真咲「今日は一緒に帰らねーか?」





340 名前:保守がてら 投稿日:2006/09/09(土) 22:12:21.57 wUQGx1qKO
ゆこ「一緒に帰るのも久しぶりだよね。」
真咲「ああ。」



ゆこ「きょ…今日の西口センセ面白かったよね!」
真咲「ああ。」



ゆこ「まーくんが一緒に帰ろうって誘ってくれたのってさ、久しぶりじゃない?」
「ああ。」



ゆこ「女言葉止めたんだね。」
真咲「もう今更…だしな。」
ゆこ「…そか。」



私達は、夕闇の道を歩いていた。
足元が心なしか重い。
以前なら冗談を言い合って帰った下校路も、今はぎこちない会話が繰り返されるだけ。



道はあの頃と変わらない。
風景もあまり変化は無い。



変化したのは今私の横を歩くまーくんだけ。
ただ、それだけのはずなのに



風景も道も変わってしまったように私は感じた。




343 名前:保守がてら 投稿日:2006/09/09(土) 22:33:06.38 wUQGx1qKO
真咲「明日はどうするんだ?」
ゆこ「明日は家で読書しようかなって思ってる。」
真咲「そうか。」
まーくんは何となく寂しげな顔をした。



今日HRで先生に明日は臨時休校になることを伝えられた。
詳しいことは良く分からないが、昨日のまーくんの一件が噛んでいるらしいことはバカな私でも何となくは理解出来る。いつもなら「やった!休みだ!」なんて小躍りしてたのに、今回は何となく理由が分かる分、すんなり喜ぶことが出来ない。
でも休みには違いないから、本を読む時間に当てようかなと私は思っていた。




347 名前:保守がてら 投稿日:2006/09/09(土) 22:51:19.13 wUQGx1qKO
ゆこ「でも別に本なんていつでも読めるから、大丈夫だよ。」
真咲「いや…やっぱり止めとくよ。ゆこには無理させたくないし。」
ゆこ「無理なんて私は別に…いいから言ってみなよ。」
真咲「本当に?無理してねーのか?」
ゆこ「いいから早く言う。」
真崎「わ、分かったよ。
明日さ、遊園地にでも行かないか?」
ゆこ「え?」
真咲「せっかくの休日だし、ゆこと最近遊んでねーし。
…ダメか?」
ゆこ「ううん?全然平気だよ!お弁当作っていこうかな?」真咲「マジで?ゆこの弁当とか食えんのかぁ?」
ゆこ「失礼な!ちゃんと食べられますー!
そんな失礼な言葉言うのはこの口か!このこの!」
真咲「ごふぇん、ごふぇん。いふぁいからははひてふははい。」



 あ、なんかまーくんの軽口久しぶりに聞いた。
まーくんの笑い顔久しぶりに見た。
軽口を叩くまーくんの口を軽くつねる私。
ほんの一瞬だけ昔に戻れた気がした。




真咲「それじゃ。明日弁当楽しみにしてる!」



久しぶりに笑顔で、まーくんと別れた。



…けど、ほんの一瞬だけ寂しげに見えたのは私の気のせいだろうか…。


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最終更新:2008年09月06日 23:26
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