15歳の誕生日で女体化した俺は女性としての準備を数日間で済ませ、名前も真幸(まさき)から真希(まき)へと変わった。
中学校に久々に登校すると学校全体の俺に対する態度ががらりと変わっていた。
先生たちは腫れ物のように俺を扱うし、女子は元男という理由で俺を嫌う。
男子は「女体化したヤツはきれい」という例に漏れなかった俺を「そういった目」で常に見ている。
俺は孤立した。
最初こそ興味本位で話しかけてくるやつが多かったが、二週間もすると話しかけてくるやつは一人しかいなくなった。
卓也、俺の唯一の親友。もともと人付き合いの苦手だった俺は同じ小学校だったこいつしか元から話す相手がこの学校にはいなかった。
まぁ、だから女体化して孤立したのも当然といえば当然なのかもしれない。
小さい頃から俺と卓也は柔道教室で一緒で、中学でも一緒に柔道部に入った。
しかし、俺は女体化したときに身長や筋力を失って、少し悔しかったが退部届を出した。
退部したことに関して卓也は一切触れてこようとしなかった。
……多分あいつなりに気を使ってくれたのだろう。
クラスが違う上に柔道部もやめたので卓也と会うことは前に比べて少なくなったけれど
今でもたまに卓也一緒に帰りながら色々とくだらないことを話している。
最近俺はこういう卓也といるときぐらいにしか笑えなくなっている。
というのも、クラスの奴らにとって異端者である俺は「いじめ」を受けていた。
卓也は柔道の地区大会程度なら楽に優勝できるぐらいのヤツだったので、卓也にわわからないような陰湿ないじめだった。
これぐらいの年代は色々なものから影響を受けるらしく
以前テレビのドラマやドキュメンタリーで見たようないじめを受けた。
本や机への落書きなどはまだ可愛いほうだったように記憶している。
そんないじめが日常に紛れ込んできて俺の精神は少しずつおかしくなっていったようだった。
卓也は違うクラスなのに最近俺のことをよく気にかけていてくれて、授業の合間の休憩時間にも来てくれる事が増えた。
休憩時間は家から持ってきた本を読むことが多かったが、いじめのせいで読める状態でないものばかりになってしまっていたし
なにより卓也が来てくれて俺は嬉しかった。
今日も柔道部に出る前に俺のところに来て「最近お前なんかおかしくないか?」と心配してくれた。
俺は作り笑いをして「大丈夫だよ」とだけ言って卓也と別れた。
高校への推薦もかかった大会が近いのであいつに余計な心配事は作らないほうが良いよな。
そう思いながら、帰ろうと下駄箱のほうへ向かおうとすると、いきなり視界がぐらついて、どこかの教室に無理やり引っ張り込まれた。
そこでは、クラスの男子の半分ぐらいがいやらしい笑いを浮かべていた。
あぁ……そうか、と全部を理解すると絶望感が体を飲み込んでいって、俺はその場にへたり込んでしまった。
少し前までは卓也と同じぐらいに太かった腕も今は折れそうに細くて、上に乗っている男から逃げることは出来そうにない。
俺は、ただ糸の切れたマリオネットのようにただこいつらに犯されるんだ。
もう仕方ないんだと思ったら、悔しくて涙が溢れてきた。
涙がこいつらを興奮させることぐらい元男の俺はわかっていたけれど、どれだけ堪えても涙は止まらなかった。
だから俺は目を瞑った、怖くて悔しくてでももうどうしようもならない事だから、仕方のないことだからと、目を閉じた。
ふいに、体から重みが消えた。
目を開けると、上に乗っていたはずの男が誰かに引き剥がされていた。
卓也だった。
卓也が男を投げ飛ばすと、男は勢い良く机にぶつかって呻き声をあげるだけで動かなくなった。
俺は卓也から目が離せなかった。
俺と話しているときとも試合をしているときとも違う顔の卓也があいつらに何か言うと男たちはいなくなって、そして卓也は俺の横に座った。
「もう大丈夫だぞ」
卓也が言ってくれて、俺は地獄から救い出されたような安心感を感じてまた涙が溢れてきた。
俺は卓也にしがみついてただひたすらに泣いた、今までの事を全て吐き出してしまいたかった。
……卓也は何も言わずにただ俺が泣き止むのを待っていてくれた。
「……卓也?」
「ん?」
「助けに…きて…くれたんだよっ、ね?」
「ああ。最近お前の様子おかしかったから、不安になって追いかけてみたらさ。」
「…そ、っか」
「もっと早くに気付いてればお前もこんな思いしなくてすんだのにな……ゴメン」
「……」
俺はただ嬉しかった。
卓也が来てくれたのが、助けてくれたのが、心配しててくれたのが嬉しかった。
俺は顔を上げて卓也を見上げた。
あいつらをやっつけてくれたときとは違う顔の卓也がいた。
あぁ……そっか……多分俺は卓也の事が……
「…卓也、ありがと」
「……」
差し込んでいる夕日のせいかすこしだけ卓也の顔が赤い気がした。
「……俺さ」
「……?」
「……俺は……おまえが…」
「…ぇ?」
……
「真希……帰ろうか。」
「……うん」
「もし……なんかあったらすぐ言うんだぞ…」
「うん……」
「じゃあ……」
「ちょっと待って!」
自分でも、なんでこんなに大きな声を出したかわからなかった。
でも知りたかった、さっき卓也が何を言ったのか。
聞き取れなかったけれど、なかったことにはしたくなかった。
だから卓也の制服をつかんでしまったんだろう。
でも俺にそれを聞く勇気は…ない。
「?……どうした?」
「……」
黙っていた俺の肩に卓也は手を当て、俺の顔を覗き込んできて…少し恥ずかしい。
「…おい…大丈夫か?どこか痛むのか?!」
「…大丈夫」
「…そうか、よかった。」
「……なぁ」
女になる前は背も同じぐらいだったのに、今は頭一つ分も上にある卓也の顔を見
つめる。
聞く勇気はないけれど……でも…
「……卓也のこと、好きになっても良いか?」
終
最終更新:2008年06月11日 23:37