安価『当方不敗!マスターアジアだァァァ』
「石破!天驚ぉ拳!!」
「なんの!十二王方牌大車併ぃぃぃ」
「うるさいよ朝っぱらから」
男という生き物は、いつになっても子供だ。ロボットが大好きな子供だ。
僕の目の前で必殺技を叫びじゃれあっている馬鹿二人などは、その典型。
「なんだよー、お前も二週間前まで男だったんだし、わかるだろ?Gガンの熱さがよ!」
悠平―――馬鹿の片割れは、わざとらしく口を尖らせ言う。
『二週間前まで男だった』という言葉に、心がチクチク刺されるような気分がした。
僕は、所謂女体化を経験した男……いや、元男だ。童貞だった。
本来なら、気持ち悪いと蔑まれてもおかしくない存在。だから、今もこうして僕とつるんでくれる二人には
感謝こそすれど、文句なんて言う権利はない。
ふるふると頭を振り、心に感じたわだかまりを無理にでもかき消して。僕はまた変わらぬ口調で悠平に言い返す。
「知らないよ、そんなの。ほら、席についてついて」
「ところでさ、綾」
時間軸で言えば、放課後。学校からの帰り道、悠平が真面目な顔をして僕の名前を呼んだ。
「お前さ、女体化してから暗くなったよな」
「ぇ・・・そんなこと、ない、よ」
今朝まで友達と小学生のようにじゃれあっていたとは思えないほどの、張り詰めた声。
初めて聞く悠平の声に、僕は不安の色を隠しきれず―――
「嘘つくなよ。そんなに女体化したのがショックだったか?」
「・・・」
―――今度は、返答の出来ない質問を前に返答に窮する。
へこまない訳ない、嫌に決まってる。今更、悠平はなんてことを聞くんだろう。わかりきってるくせに。
「そ、そりゃそうだよ。嫌に決まってるよー」
無理につくる笑顔が痛い。でも、憂いたような表情の悠平を見つめるのは、もっと痛くて辛い。
それでも、何故か目を逸らしたくないような気がして。何となく気まずく目を泳がせる僕。
すると、悠平は不意に踵を返し、
「――じゃ、俺と付き合おうぜ!」
全く予期せぬ告白の葉を紡いだ。
後ろ姿しか見えなかったけれど、顔は夕陽と遜色ないほど真っ赤に染まっていたと思う。
背中を向けた理由が、わかった気がした。
それから、2日ほどは経ったかな。
結局、お互いになんとなく『告白の件』を口にするのは気後れしてしまい、僕は返事をできずじまい。
だけど、答はもう決まっている。女体化なんて関係なしに僕を見てくれていたのは、誰よりも近くにいた親友。
もとい、僕の大切な人。あとは、いつ返事をするか考えるだけ。
「わしの名は当方不敗!マスターアジアだァァァ!!!」
「来たなマスターアジア!俺の右手がぁぁぁ!真っ赤に燃えるぅぅぅぅっ」
「……だからうるさいってば」
おわり
最終更新:2008年09月08日 20:35