「まて~ッ!まちなさ~いッ!」
「うぉぁぁぁぁああッ!?」
ドチュン!バチュン!
逃げ惑う俺の足元で白い光弾がはじけ飛ぶ
「大人しく当たりなさ~い!」
「のぁぁぁぁぁぁ!」
夜の住宅街。俺の悲鳴と少女の声が木霊する。
夜のジョギングの最中に俺は、モップに跨って空を飛ぶ、怪しさ120%の謎の少女に追っかけられていた。
デカいリボンに黒のゴスロリドレス(?)、手には20センチほどの棒っきれと、
どっからどう見ても痛い系の不審人物だ。
そんな少女にいきなり頭上から「ねぇねぇ、キミ童貞だよね?」
なんて声をかけられビビってるウチに、直後に杖からなんか飛び出したら
そりゃ逃げる、普通逃げる、全力で逃げる。ダッシュで。
ワケがわからないが、あの光弾は危険な代物だ。俺の勘がそう告げていた。
「このッ!このッ!」
明らかに苛立った少女の声と共に頭上から撃ちおろされる光弾は、
俺の脚や尻をかすめて地面ではじけて消えるが、当たりはしない。
伊達に鍛えてはいないつもりだ。緩急ダッシュの要領で、狙いをつけさせずに逃げ続ける。
「ムッキー!こうなったら…。」
降り注ぐ光弾がやみ、頭上から少女の気配が消える。
諦めたのか何かあるのか、よくわからんがこの機を逃す手は無い。
一気に距離を広げてしまおう。駅前まで出れば人がいるはずだ。
目立つ所であんなヤツがあんなモン撃ちまくったら大騒ぎになる。
他の人には悪いが、警察でも出てくればどうにかなるだろう。
そう思いながら駅への道を曲がった瞬間。
―エタナーハ オイモノス エチ ア ガティス
少女の声が聞こえる。すぐ横にある公園からだ。
―イニエ モネライ オ ヨケマヅァス ヨ イギィク
公園の中央には、まるで樹に語りかけるように何かを呟く少女の姿。
その声に呼応したかのように、ざわめく木々。
妙に響く、聞きなれぬ言語。
異様な雰囲気。
聞こえていたはずの、車の音さえ遠くに消える。
不審を通り越して、神秘的とさえ言える光景に、
光弾相手に散々警鐘を鳴らしていた俺の頭は、完全に凍り付いてしまった。
―ドゥ・リィヴ!
一拍置いてから、少女がそう叫んだ次の瞬間
俺は、まるでどこぞのRPGやアニメで見たかのような
樹木の化け物に、両手両足ひっつかまれていた…。
「つっかまえた~♪」
ニコニコしながらこちらに寄ってくる不審な少女(黒)。
さながら人面樹な化け物の触手につかまれ、少女の目の前に差し出される俺。
普通逆じゃねぇかとも思ったが、そもそもこの場合の普通ってなんだろうか。
現実逃避にそんな哲学的なコトを考え始めちゃった俺に、少女は語りだす。
「まったく、手間取らせないでよね~?」
(うーん、エロゲのやりすぎかなぁ…。いくらなんでもコレは…。)
「毎回あいつに邪魔されるってのに、今回は目標までこんなんだったなんてさぁ…。」
(夢にしたってやりすぎだろうコレ。つか俺はMだったのか?)
「おかげで無駄にマナ使っちゃったじゃないの…。」
(俺ロリコンじゃねぇよなぁ…。どっちかっつうと年上系の方が…。)
「ちょっと!聞いてんの!?」
「ほぁ!?」
大声で少女に言われ、我に返る俺。
「私の話聞いてたの?」
「え、いや…。」
夢かと思って色々考えてたなんて言ったらどうなるだろうか。
逃避の最中にも、節くれだった枝からなる触手が腕や足に食い込んでたりして微妙に痛いのだ。
恐らく目の前にあるコレは現実なのだ。
しかし、認められない。認めたくない。
ある日突然魔女がやってきて、化け物使って俺を捕まえて愚痴るのが現実だなんて思いたくも無い。
「全く、コレだから童貞野郎は…。」
バカにされたようだ。
しかし、状況が飲み込めないような状況で、
明らかに友好的ではない人間の独り言を聞いている余裕なんてありゃしない。
「ま、いいわ。これでお仕事しゅーりょーっと。」
もう興味はないとばかりに立ち上がり、俺に棒っきれを向ける少女。
その先には俺の足元に散々撃たれた光弾が現れる。
何が起こるのかはわからない。
ただ、言い知れぬ恐怖は感じられた。
「それじゃあね。童貞クン。良い来世を。」
怪しげな笑みを浮かべ、身の危険を感じるセリフを吐く少女。
放たれる光弾。動けない俺。反射的に目を閉じる。
バチィン!
しかしいくら経っても、俺の周辺に変化は無かった。
樹木の化け物に掴まれたまま、宙ぶらりん。
でも、変化はひとつだけあった。
「…ッチ、またあんたか。」
「それはこっちのセリフよ。いい加減諦めなさい。」
目を開くと、不審人物が2人に増えていた…。
つづく?
最終更新:2008年09月08日 20:38