人間の男は言うなれば女の『亜種』だ。
『亜種』と呼ばれる奴らは、どのような生物でも変わっていった部分がある。
変わっていった部分、というのは『進化と退化』の二つに分けられる。
人間でもそうだ。
男は力強くなっていたりする分、精神的な成長が遅い。
少なくとも俺の周りはそうだ。
まあ、今の年齢で言えば『男子』ってことになるが。
今だって、
「おっしゃぁ!これで3点目~」
「はっ!まだ俺だって一回残って、」
「男子ー!早く並んでよ!授業が始められないでしょ!」
と、こんな感じだ。
5時限目、昼休み直後の始めの授業。
腹も膨れて眠くなる頃。
この時間帯に数学や国語であれば、間違いなく昼寝の時間になっていただろう。
幸いな事に俺のクラスの時間割には、『5・6』と並んでいる数字の隣に『体・体』と並んでいる。
おかげで眠くなるという事がないどころか、男子はほとんどが覚醒する。
某漫画の某主人公のごとく、金髪になりそうな勢いでだ。
ちなみに言うと、俺の親友である冬馬は覚醒側のリーダーで、さっき3点目を取り喜んでいた奴。
そして俺はさっき言った『ほとんど』から溢れた方のリーダーだ。
俺の場合はリーダーといっても、周りから見たときに一番目立つ人、というだけなのだ。
それでも周りから見ればリーダー格、いや『主犯格』のようなイメージを与えるんだろう。
「おーい、男子ー。並ばない奴から点数引いていくぞー」
体育担当の先生が理不尽な脅しをかけてくる。
俺は早々に並んでいたので、後から入ってくる奴らに合わせて、体を右左。
そして最後に冬馬が俺の隣に滑り込むように入ってくる。
「ふぅ、あぶねぇ…」
俺の隣で胸を撫で下ろす冬馬に先生から『ありがたい』お言葉。
「よーし、今日は工藤がボールを片付けろ」
「ついてねぇ、ついてなさ過ぎる…」
放課後、俺と冬馬は誰もいない体育館でボールを片付けていた。
水曜日の今日は俺達の後に体育の授業を受けるクラスはない。
なので、いつもこうやって放課後に改めて片付けにくる。
さすがに一人で片付けさせるのは可哀想だと思い、おれも手伝う事にした。
そうして黙々と作業をしている中、さっきの言葉を冬馬が呟いた。
「仕方ないと思うね。むしろいつもお前に片付け係を任命する先生に同情するよ」
そういうと冬馬はボールを籠に投げ入れながらこっちを恨めしそうに見ながら、
「なんだ~、蓮はあっち側の人間か~」
等と馬鹿な事を言う。
「阿呆が、それなら俺は今頃ここにはおらんだろうに」
「そんな事はわかってるよ、ったく…」
なんだかんだで片付けも終わり二人で下校する。
家は同じマンションなので帰りはいつも一緒だ。
おかげで中学生になってからこれまで、一度として寂しい思いをして帰った事はない。
「そういえばさ、蓮の誕生日って明日だよな?」
不意に冬馬が聞いてくる。
「ん、そうだけど?」
「そうだけど?じゃないだろうに…。誕生日なんだから喜べよ、もっとさ」
と、言われても素直には喜べない。
そう、俺は明日15歳になる。
社会的に『選択の時』なんて呼ばれる頃だ。
昔から在る病気で男性特有の物がある。
それが女体化現象。
正式名称は長いから忘れた、ってか覚えててもきっと使わない。
15~16歳頃に発病する病気らしい。
らしいと言ったのは、正直今でもよくわかっていないらしいからだ。
「お前さぁ、もしかしたら親友が女になっちまうかも知んない、って時だぞ?」
「は?あ、蓮まさか…。…そうか、うん、先に謝るな。笑ってごめん」
「はぁ!?何言って、」
突然豪快な冬馬の笑いが道に響く。
なるぼど、そういうことですか。
「はははははっ、はぁはぁ…」
「落ち着いたかー?」
「ああ、すまん…。くくっ…」
笑うのも無理はない、実際のところ15歳で発病する例はとても少ないらしいからな。
ただな冬馬、お前が知らない事が一つあるんだ。
俺の親父の兄弟7人の内、5人が、
「15歳になった直後だったんだよ…」
小声で言ったその言葉は、再び始まった冬馬の声に消されていった。
「大丈夫、大丈夫!周りでもなった奴いないしさ」
素晴らしき大笑いの後の冬馬の声は、どことなく聞いていて元気が出そうだ。
事実少し気が楽になった。
そうだ、周りで女体化した奴はいないんだ。
俺だってきっと…。
「ああ、そうだよ、」
「でもな~、皆が皆『やってない』とも限らないしな~」
この病を治すもっとも確実な方法、それが性行為。
これもまた解明され切った訳ではない。
ただ以前見た雑誌にはこう書いてあった。
『…らしく、ホルモンバランスの安定によって防げているらしいとのこと』
これを見たときは妙に納得した、が、まあ全てを信じているわけじゃない。
「お~い、どうした~?」
突然肩をたたかれ驚く。
考え込んでいたようだ。
「いや、なんでもない。気にすんな」
「ああ、気にしてねぇ、少しもな」
…?妙にやさしいな。
それが冬馬の優しさということに、その時はまったく気づかなかった。
「大丈夫、大丈夫!周りでもなった奴いないしさ」
素晴らしき大笑いの後の冬馬の声は、どことなく聞いていて元気が出そうだ。
事実少し気が楽になった。
そうだ、周りで女体化した奴はいないんだ。
俺だってきっと…。
「ああ、そうだよ、」
「でもな~、皆が皆『やってない』とも限らないしな~」
この病を治すもっとも確実な方法、それが性行為。
これもまた解明され切った訳ではない。
ただ以前見た雑誌にはこう書いてあった。
『…らしく、ホルモンバランスの安定によって防げているらしいとのこと』
これを見たときは妙に納得した、が、まあ全てを信じているわけじゃない。
「お~い、どうした~?」
突然肩をたたかれ驚く。
考え込んでいたようだ。
「いや、なんでもない。気にすんな」
「ああ、気にしてねぇ、少しもな」
…?妙にやさしいな。
それが冬馬の優しさということに、その時はまったく気づかなかった。
いつの間にか、俺達はマンションの玄関ホールに着いていた。
おそらく冬馬のおかげだろう。
俺に返答してから、一度も喋ろうとしなかった。
やはり気にしているのか?
そう思い、着く直前に顔を横目で見てみた。
「さてと、それじゃあな」
冬馬が俺に手を振りながら歩き出す。
冬馬の家族は一階、俺の家族は3階に住んでいる。
だからこうやって別れるのは、いつも通りのはずだ。
だが何となく、どこか違和感がある・・・。
「ああ、また、明日、な」
エレベーターを待つ間、そして乗り込んでから到着までの時間も全てを使って考えてみた。
思い出した、そう、前もあったはず・・・。
確か、今年の学校祭のお化け屋敷で人を驚かす直前の、
「あの楽しそうな雰囲気だ・・・、独特の・・・」
一抹の不安を家に持ち帰ることになった。
「アキラぁ…結局…お前には勝ち逃げされちまったな…はは…はぁ…」
自分以外はいつもとかわらぬ放課後。
段々と夕焼けに染まるグラウンドを見下ろす外階段に腰掛け、広い肩幅を今の俺ほどに狭め、男は言った。
「女は…殴るわけにはいかねぇものなぁ…」
辻森晶(アキラ)、高校1年の夏。
16歳の誕生日をめでたく迎えた俺は、人生初の女体化を経験した。
女体化をすると名前を変更出切るそうだが、アキラという名前は対象外であるらしかった。
面倒がりなくせに用意周到な俺の親父が、女体化した際に新しい名前を考えなくてもいいように晶という名前にしたのだ。
最終更新:2008年09月08日 20:51