安価『クーデレ』
自分が自分であることを決定するのは、その人の『精神』だと僕は思う。
俗に言う『心』という意味での精神だ。
その点で言えば、僕は何一つ変わっていないはずだ。
しかし、考え方は人それぞれ。
他の人が今の『僕』を見て、僕と同じ様に思うわけではない。
わかっては、いる。
「ねぇ、もうちょっとかわいらしくできないの?」
「そう言われても、できないことはできない」
昼休み、一人で昼食を摂っているところに沙紀が来た。
女性になって1週間、必ず一日に一度ある会話だ。
「せっかくの美貌を生かさないなんて、もったいないよ?」
「生活していて困っているわけじゃないから十分」
そう、十分だ。
最初は確かに困惑もしていたが、今は女性の体にも大分慣れてきた。
おかげで生活面は、男性の頃とほぼ変わらない。
だから困ってはいない。
…彼のこと以外は。
「いや~すまんすまん、購買が混んでてさ~」
小走りでやって来て、僕の前の席を勝手に拝借し、座る。
そう、『彼』こと親友の宋樹(そうき)。
女性になっても態度をまったく変えずにいてくれた。
「大丈夫、いつもとあまり変わらないから」
「そうか?やっぱ俺って、」
「そんなことよりさ~、蒼樹も何か言ってよ~」
沙紀が『いつものように』宋樹に頼む。
そしていつも通り、
「あいよ~、そんじゃあお前はどっかいけ~」
と、宋樹の答え。
「何でいっつもそう言うかな~、もう…」
ブツブツ言いながらも沙紀は女子のグループに戻っていく。
こうしていつも宋樹は人を遠ざけてくれる。
人との会話が苦手な僕のためだ。
「確かにな~、そろそろ考えたらどうだ?」
「考えるって、何を?」
「ん~、ほら、身だしなみっていうかさ、女の子らしさみたいなの?」
「そう、かな…」
でも、どうすればいいのだろう。
元々男の僕にそんなことはわからない。
一応は気にしている。
それでも別段困っていないので、今以上にどうしようとは思わない。
「でも、困っていることはないから別に…」
「ん~、そういうのじゃないんだけどな~」
そういうのじゃない?
どういうことだろう…。
生活で困らなければ問題はないはずだ。
「そうだ!こういうのはどうだ?」
「どういうの?」
「俺の為に女の子らしくなってくれよ」
宋樹が笑顔で言うが、…どういうこと?
「えっと、それは…」
「だってさ、人の為にするなら意義があるだろ?」
「そ、そうだけど…」
「それにさ、一緒にいるならかわいい彼女のほうがいいだろ?」
え、彼女?
「まあ、実際彼女じゃないけどさ、そう見えるじゃん?二人の時とかさ」
確かに、まあ、彼女に見えた時には見た目が大事とも言える。
それに、まあ人の為なら理由がある。
親友の頼みを聞かない訳にもいかない。
女性の体になった僕といてくれるだけでもありがたいのだから。
彼女、か…。
「うん、わかった、気をつけてみる、ね」
「おっ、そっか。ありがとな、『頼み』聞いてくれて」
最終更新:2008年09月08日 20:56