『罰ゲーム』 2008 > 09 > 06(土) ID:lH79sPxM0

安価『罰ゲーム』


「スマン。ムリだ。」

とある日曜、唐突にそんなメールをしてきたのは、
高校の友人、コウジだった。

「何の話だ。」

とりあえず返信。唐突すぎて意味がわからねぇ。

「先週のアレ。」

先週のアレ…。何かと俺と勝負したがるコウジが、
ヤツの得意なロボゲーで勝負を挑んできたコトだろうか。
「負けた方がパンツ一丁で、ウサギ飛びで近くの公園まで行く」
とかいう古風を通り越して、化石臭のする罰ゲームを提案してきたヤツだ。
普段、勉学やら体育やらで散々負かしているのを見返そうとしたらしい。
でもガチでやるとコウジの勝利は確定。
都合良くモトから2on2のゲームなので、シロウトの俺には助っ人依頼可。というコトになった。

んでもって結果だけ言うとコウジフルボッコ。
コウジも相当自信があったらしいが、俺が頼んだ助っ人は、
そのゲームの各種データを暗記した上で即座に活用できるくらいの達人だったのだ。

ぶっちゃけて言えばキモクラスのゲーヲタなのだが、今回に関しては
完全に俺の救世主なのでそんなコトを言ってはいけない。

と言うわけで、コウジは自分でやることを全く考えていなかった罰ゲームを
実行するハメになったトコロで、このメールである。

「フフン、怖気づいたのか?」
送信
「できるもんならやってるよ!」
受信

正直やりすぎの感がある、というか下手を打てば通報モノの罰ゲームである。
見届けるほうの身にもなって欲しい所だと言いたいくらいのシロモノなので、
中止もやむなしかと思うが、コウジの場合はそれに当てはまらないハズなのだ。

今回のような、多少ムチャな罰ゲームでも、実行不可能になるまではやりとげ、
約束を違えた事がないのがコウジという男なのである。

長々と語ったが、そのコウジがムリだと言い出すのは、
少々大げさではあるが、個人的に前代未聞クラスなのだ。
何かあったのかと疑ってしまう。
しかしこの程度で心配してやるのも癪なので、煽り気味に突いてみる。

…が、反応が無くなった。
メールではいまいち速度に欠くのでコウジの携帯に電話をかける。

出ない。

イエ電の方にもかけてみる。

出ない。

俺はコウジの家へと走った。
家に誰もいないならともかく、携帯を無視っつーのはちょっと腑に落ちない。
普段ウザいほどなコウジが、約束を違えた上で携帯にも出ない上に様子がおかしい。
それは俺には虫の知らせに思えた。外れてくれるならそれで良い。
バッテリー切れとか、家に携帯を忘れて出かけたとか…。

「ハッ…ハッ…。…!」
「あら、テツヤ君」
「あ!おばさん!」

道すがら、買い物帰りと思われるコウジの母親、サヤカさんに出会う。

「どうしたの?そんなに急いで。」
「いえ、えーと…。」
「?」
「その、コウジに何かありましたか?メールしてたんですけど、何だか様子がおかしいみたいで…。」
「あ…なるほどねぇ~。」
「何かあるんですか!?あ、あんまり立ち入るのもマズいですかね?」
「うん…。まぁ、テツヤ君なら大丈夫かな。」
「はい?」
「ウチにいらっしゃい、あのコ家にいるハズだから。」
「はぁ…。」

イマイチ状況がわからないが、コウジが家にいるのは確からしい。

「あ、お荷物持ちますよ。」
「あら、ありがとう。じゃあお願いするわね。」

俺はサヤカさんの買い物袋の中で重そうなのをひとつ受け取る。米だ。

「あのコもコレくらい気が利けば、ああはならなかったのかしらねぇ…。」

よくわからないサヤカさんの呟きを聞き流しつつ、俺はコウジの家に向かった。

「ただいま~。」
「あ、おかえりカーチャン。っと、テツヤにーちゃんも来たんだ。」

玄関では1階にいたコウジの弟、シローが出迎えてくれた。
しかしシローの表情は事態があまり愉快ではないコトを告げていた。

「カーチャンがテツヤにーちゃん呼んだの?」
「ううん、丁度買い物帰りにね。メールで気づいたんだって。」
「へー、流石テツヤにーちゃんだ。」

何事が起きているのかさっぱりわからない身では、
流石と言われてもあまり嬉しくないのは気のせいではないだろう。

「コウジは出かけてないんでしょ?」
「うん、部屋からもさっぱり出てこないんだ…。」
「そう…。ねぇ、テツヤ君。」

シローに買い物袋を渡しながら、サヤカさんは俺に語りかける。

「部屋、行ってあげて?」

もとからそのつもりだ。
しかし、部屋からも出てこないともなると、
果たして俺の手に負えるのだろうか…。

「コウジは、あなたとの約束が守れないって、凄く落ち込んでたの。」

―まさか、俺が原因なのか?
だとしたら、確かに俺が行くのがスジだが…俺が何かしただろうか?
いまいち釈然としないままコウジの部屋がある2階への階段を上がる。

コンコン

「コウジー?」

ノックと共に扉の向こうの友人に声をかける。


返事は無い。


コンコン

再びノック
しかしやはり返事は無い。

「おーい、いるんだろー?」

それでも扉は沈黙しか返さない。

「……入るぞ。」

ここまで俺をシカトして、あいつは一体何をやっているんだと、
多少の憤りを感じつつドアを開けるが、そんなモノはすぐに吹き飛んだ。

「うわ!暗ッ!」

部屋の中は真っ暗闇だったのだ。
全ての雨戸もカーテンも閉め切られ、中を照らすのは、
入り口から差し込む陽光のみ。
落ち込んでいる演出にしたって、明らかにやりすぎだ。
そんな中、部屋の隅にうずくまる人影がかろうじて見える。

「オイ、コウジ?いるんだろ?」
「…。」

人影は反応しない。
流石にここまで来て人違いは無いだろう。

「オイ、コウジよぉ、シカトすんな…ッて…。」

肩を掴み、こちらに振り向いた「人影」は、
コウジとは似ても似つかない、美少女だった…。

俺の顔を見た瞬間、少女は顔をしかめ、悲痛な声をあげる。

「そ…ッ!」
「そ?」

予期せぬ出来事に呆気にとられる俺。
思わず目の前の少女の口からこぼれた言葉をオウム返しにしてしまう。

「そのか…お…、そのかお、うぉ、やめろォ―――――――――ッ!!!」

突然の少女の咆哮。
目を見開き、俺の方を痛いほど掴んで叫びまくる。
俺はワケがわからない状況のまま、立ち尽くすしかなかった。

「ハァ…ハァ…、う…っく、うぅ、うあぁあぁああ!!」

肺にある全ての空気を吐き出すかのように、
叫び声を上げた彼女は、それが終わると今度は泣き出してしまう。

当事者(?)にも関わらず、俺は完全に置いてけぼりであった。
美少女が俺の胸に顔をうずめて、泣きじゃくっているのにちっともおいしい気がしない。
明らかな異常事態に、こうまで思考だけは冷静な自分が嫌になる。
が、とにかくこの娘を落ち着かせないことには、現状は収まりそうも無い。

「うああ゙あぁ゙ああ゙ぁああ!!!」

涙、鼻水、ヨダレ、顔中の体液をダバダバ流しながら、
凄まじい勢いで泣きまくる彼女。

―こりゃTシャツぐしょぐしょだな…。ま、いいか…。

胸に泣きじゃくる少女を抱きとめたまま、何も言わずに背中をさすってやる事、数分。
彼女はようやく泣き止んだ。

「―ック、ヒック…。」
「…落ち着いたか?」
「うん…。」

潤んだ瞳で上目遣いに俺を見る彼女。
美少女にそれやられると、反則級の破壊力なんでやめてくださいませんか。とは言えず。

「あ、…ッ!」

しかし彼女はすぐに顔を赤く染めると、跳ねるように俺の胸元から飛び退いた。

「……。」
「……。」

数瞬、暗い部屋に沈黙が訪れる。
先にそれを破ったのは、彼女の方だった。

「すまん、いきなりあんなコトして…。」
「え?」
「弟にも、カーチャンにもそんな目で見られたから、嫌だったんだ。その、お前にも、その目をされるのが…。」

意外にも、その風貌に似合わない口調で話始めた彼女に少し驚く。

「……当然だよな。こんなんじゃ、ワケわからなくってさ。」

悲しそうな顔をする彼女を見て、すぐに表情を戻したが、
一瞬キョトンとしていたのは、彼女にもバレてしまっていた。

「俺俺、俺だよ。」
「ワリオかよ。」
「そう、それ。ハハッ。」

泣きはらした目で少しだけ微笑む彼女。
ちょっと、いや、かなり、否、凄く可愛い。
って面食らってる場合じゃない、うっかりやっちまったが今のやりとりは…。

「コウジ…か?」
「……そう。」

確かに、目の前の少女が来ているダッボダボのTシャツは、
以前コウジがお気に入りだと言って着ていたモノと同じだ。
アレを家庭内とは言え、コウジが手放すとは考えにくい。
俯きながら、コウジだと言った少女は続ける。

「俺は俺のハズなのに、知らない人間を見るかのような目に、不信感たっぷりの言葉。」
「…!」
「実の母親と弟にやられてさ…。正直コタえたよ…。」
「…すまん。」
「良いんだ。当然のコトなんだからさ。テツヤは悪くない。」
「でも…!」
「良いんだよ!今の俺には、それより大事なコトがあるんだ!」

強引に話題を逸らされた。これ以上突っ込むなと言うことか…。

「…そうか。それは、俺の手は必要か?」
「……ああ、要る。俺はまだ、お前との約束を果たしてないんだからな。」

「約束って…。ムリだって言ったじゃないか。」
「そうだ。だから…。」
「うわ!何すんだ!」

突如目の前が白く染まる。
視界をふさがれ、慌ててはたき落とすとソレは、
さっきまでコウジが着ていたTシャツを放り投げられたのだとわかった。

「これが、俺の『罰ゲーム』だ。」
「ってオイ!」

Tシャツから顔を上げると、コウジはトランクスも脱ぎ捨て、
布団の上で顔を真っ赤にしながら、M字開脚を始めていた。

「…来いよ。」

ふと、とある疑問が頭を過ぎる。
―こいつは本当にコウジなのか?
そしてその疑問が頭の中で膨らむにつれ、
急速に心が冷えていくのが自分でもわかる。
そう思った瞬間、俺の口から漏れたのは、否定の言葉だった。

「ハッ!くだらねぇな。」
「んな…ッ!」
「お前の考えた罰ゲームはどうしたよ?」
「だからそれは…。」
「俺は今しがた、約束を果たしていない。だから、とお前の口から聞いた。」

否定の言葉が止まらない。止められない。
こんなに心が冷えたのは、生まれて初めてかもしれない。

「それが、こんな誤魔化しだって言うのか?」
「…!そ、そうだ!怖いんだな!この意気地無しめ!」
「ハッ!そんな定型じみた煽りなんざ真に受けるかよ!」
「お、女を抱くのが怖いんだ!童貞だから!」
「今のお前のどこが女だ!」

目の前にいる生物学上、人間のメスに分類される生物は、
一般的に可愛いと称される部類に入る個体であろう。それは良い。
しかし、目の前にいる情けない「ソレ」がコウジだった人間かと思うと、
俺はどうにもそれが許せなかった。

「ついでに言えばオトコでも無い!」
「何言ってるんだよ!ワケわかんねぇよ!」
「それはこっちのセリフだ!お前、オトコをナメてんだろこの童貞女…。」
「意味…わかんないって…。」
「女がマタ開けば男はホイホイブッこんで、それが償いになるなんて思い込んでるんだろ!」
「いや、そん…な…。」
「髪振り乱して雄たけび上げて泣き叫んで!涙顔でダッボダボの臭いTシャツ着てトランクスで!
そんなヤツを誰が抱くか!そんな女真っ平御免だね!女ならもっと真っ当な手段で誘惑しやがれ!」
「ち、ちが…。俺はやくそ…。」
「ふざけるんじゃねぇ!俺はコウジとそんな約束してねぇよ気色悪い!
いいか!?お前はコウジなんだよ!わかるか!?違うんならはっきりしやがれ!
知らない人になるのが嫌だったんだろ!?苦しかったんだろ!?なのに悲しいからマタ開いて悲劇の女気取りか!?」
「そんなコト…わかっ…!。」
「いいや、わかってないね。今のお前はヤケになってるだけだ。
俺の友人には馬鹿はいても、クソ野郎はいないんだよ。……じゃあな。」

一気に捲くし立てた俺は、最後のセリフをほぼ言い捨てるように部屋を出た。

「あら、テツヤ君…。ダメだったの?」
「わかりません…。今日は帰ります。」
「そう…。」
「失礼します。」

すぐに2階から「あいつ」の泣き声が聞こえてきたが、
俺にはもう、戻る気も無かった。

―コウジ君は、今日もお休みね。っと
朝の出欠確認で、担任教師が名簿を見ながら呟く。
あれから数日間、コウジのヤツは学校を休んだ。
当然と言えば当然だが、俺はコウジがどうなったのか気になって仕方が無く、
授業も全く頭に入ってこなくなっていた。

そして、3日目の夕方、学校から帰ると、
家の前に「あいつ」はいた。

「…おかえり。」
「…。」
「…出迎えられたんだから、ただいまくらい言いなよ。」
「ただいま。お前は…。」
「ジュンって名前にした。もうコウジって呼ばないで。」
「そうか…。」

もはや完全に別人と言って良いだろうか。
薄化粧に女物の服。髪も整えて、3日前に見た時より
数段「女」になっていた。

「もう、コウジはいないんだな。」
「…そうだね。」
「口調まで直したのか。」
「母さんにしごかれたよ。それで嫁に行く気があるのか、ってね。」
「嫁に、ね…。」

目の前にいる少女が、数日前まで俺の1番の友人だったコトが、
まるでウソのように遠くに感じ、小さく笑ってしまう。

「あ、笑ったね?」
「いや、そんなコトはない。別件だ。」
「…そう。」

コウジはもういない。寂しく無いと言えば、ウソになる
しかしそれは、ジュンが「女であること」を選択した結果だ。
あの状態よりは、ずっとマシなはずであると、思いたい。
彼女は、俺の友人から、別の立場を選択したのであろう。

「じゃあ、付き合いもここまでかな…。」
「何言ってるの?今日はまた勝負を仕掛けに来たんだよ?」
「まだやるのかよ…。」
「そう!内容は…お互いに惚れたら負け!」
「はぁ!?」
「女を磨いて、あの時ヤらなかったコト…!後悔させてやるんだからね!」
「おい、もしかして根に持ってるのかよ…。」
「あったり前じゃん!結構顔には自信あったんだからね!アレはムリしてた顔だよ。」

女(?)のカン、恐るべし。
相手がコウジだからこそ感情が勝ったコトを本能的に悟ってやがる。

「へへーんだ、後でヤっときゃ良かったって泣いても知らないんだからね~。」
「するか馬鹿!」
「あ、あと罰ゲームなんだけど」
「ヘイヘイ」
「私が勝ったらテツヤを好きにする。テツヤが勝ったら、私を好きにする。でどう?」
「変わんねぇじゃねぇか!まぁ良い、受けてやる。」
「あら?勝つ気マンマン?このスケベ!」
「スケベはどっちだこの腐れビッチが!」

どうやら、ヤツにとってはこの状況すら勝負の舞台のようだ。

「では、合意と見てよろしいですね!?」
「もち!」
「では尋常に…」
「「勝負!!」」

おしまい


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最終更新:2008年09月08日 21:11
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