明かりが少しだけ灯った部室 汚く散らかっているスパイク、練習着や脛当てなどの小道具
外ではここいらじゃ結構珍しいセミが多く鳴いている
その薄暗いながらもどこか居心地が良い部室の中に、俺とあいつはいた。
「ごめんね。練習終わった後も残らしちゃって」
ごめんね っとすぐ言うのは良くも悪くもあいつの癖。
すぐにいつも通りの返答を返す。
別に良いよ。てか、お前と一緒に帰るんだし 仕方ねぇじゃん。
俺がそう言うと
まぁ そうだけど・・・と軽く口ごもる。めんどうだからすぐにあいつがしたい話とやらを催促する。
あいつは俺の目を見つめると、静かに口を開いた。
「去年、この高校のサッカー部に、後に深く影響を与える才能溢れる二人の神童が現れた。」
いきなりいつもの話とは変わった口調で話しだした。真剣な話だと空気ですぐにわかった。
一応俺は空気が読める方だと自負している。まぁサッカー部では伊達にイジられ役をやってなかったし。
いつもうるさいので有名だった俺は性にも合わずに静かに聞き入ることにした。
性に合わないのは仕方ない。
「その神童二人のうち、一人は駿足とも言える学校一の速さに加えて多才なドリブルを使いこなし相手を全く寄せ付けない。
まるで壁などないかのようにゴールまでボールを運び、難なく点をもぎ取ってくる後に日本を背負う事になるだろう最高級の切り札エースストライカー」
そんなに大袈裟に言ってたっけ? と言いかけた言葉を喉に詰まらせるということもなく腹でもみ消した。
ダルかったし。
「もう一人は精密機械並に正確なパスを繰り出し、そのあっと思わせるような状況から放たれるパスは想像もしないような場所へと導かれそして想像もできないようなゴールシーンを生み出す。
そしてどのポジションもこなすその万能性は正に神に愛されたサッカーの子と言える。こちらも将来有望な選手。
この二人こそ今年の高校サッカー内でも黄金のペアだと言えるだろう。」
そこまで話すとあいつは苦笑した。
「なんか高校サッカーの雑誌がそう書いてたんだけど、まぁ僕のはちょっと言い過ぎだよね・・・」
苦笑いしながらあいつはそう言ったが・・・
言っとくけど、それだけ言わせられるほど上手いってことなんだぞ?お前よ。
「いや、でも・・・そこまで言われると逆に失礼かなぁみたいな感じが・・・」
言い返したが、この謙遜。
また意味不明な所で遠慮がちになるので俺は無理矢理話を戻した。
んで?お前の話ってのは?
まさか今頃俺らがちやほやされてた話を自慢するわけじゃないだろ?
っと早く帰ってドラマが見たかった俺は少しキツめにそう言うと、あいつは少し俯いたように見えた。
が、こちらを向き直し話を続けた。
「ちょっと話がそれるんだけど・・・この世界にはさ・・・女体化現象が世界中であるんだよね」
あぁ と軽く相槌。本当に今更な話。
・・・正直話の内容は見え見えだが黙って聞いた。
そこまで話すとあいつは苦笑した。
「なんか高校サッカーの雑誌がそう書いてたんだけど、まぁ僕のはちょっと言い過ぎだよね・・・」
苦笑いしながらあいつはそう言ったが・・・
言っとくけど、それだけ言わせられるほど上手いってことなんだぞ?お前よ。
「いや、でも・・・そこまで言われると逆に失礼かなぁみたいな感じが・・・」
言い返したが、この謙遜。
また意味不明な所で遠慮がちになるので俺は無理矢理話を戻した。
んで?お前の話ってのは?
まさか今頃俺らがちやほやされてた話を自慢するわけじゃないだろ?
っと早く帰ってドラマが見たかった俺は少しキツめにそう言うと、あいつは少し俯いたように見えた。
が、こちらを向き直し話を続けた。
「ちょっと話がそれるんだけど・・・この世界にはさ・・・女体化現象が世界中であるんだよね」
あぁ と軽く相槌。本当に今更な話。
・・・正直話の内容は見え見えだが黙って聞いた。
「その女体化現象っていうのは今じゃ常識並に当たり前の事だけど、昔は、女体化現象が出始めた頃は大混乱だった。
今じゃ女体化に関する法律も制定されて、少しは女体化現象が和らいだよね。何より・・・それに対する薬ができたのが女体化現象が和らいだ一番の要因」
って これは新聞で言ってたね と付け加えるあいつ。
俺はまた あぁ と相槌を打った。
「唯一女体化から逃れる手段 多少の誤差はあるらしいけど簡潔に言うと16歳の誕生日までに童貞を卒業すること・・・しかしそれは現実的には厳しいものがあり それを巡って様々な社会現象まで起きた。
しかし、その問題に議論をこうじている時、突然それに対抗する薬が海外で開発された。」
このニュースはかなり唐突だったよね?びっくりしたもん。 とあいつ。正直あいつの話は長い。俺は適当に相槌を打っていた。
「おかげで女体化になる時期を延ばして女体化から一時的に逃れ、そして過去よりかは無理することなく童貞を卒業して女体化を阻止する。
という事が女体化から逃れる一つの手段として主流になり、人々はそれをいやがおうにも取り入れることになった。結果去年まで問題だった男性の激減問題も現段階で解決された。」
でも いやがおうにもって言い方は何だか変だよね?これも新聞で言ってたけど と付け加える。
らしいな と相槌。
いちいち同意を求めてくるのもあいつの癖だ。真剣な話をしている時のあいつの癖。
「それはもちろん僕らの高校でも最低義務として取り込まれた。ただ必ず美少女になる、ていう効果もあったことから自ら女体化を望む声もあったらしいし・・・強制はしなかったみたいだけどね」
するとここであいつは少し声のトーンを落とした。実に感情を表面に表すやつだったから顔の表情も思い切り暗いように見えた。
「でもさ、その薬もやっぱり世の中のために・・・といっても金儲けできる商品をわざわざ安い値段で売ってくれるはずもなくて、日本に輸入された時はとても高い値段で売るようになっていた。」
最近物価上昇中だから薬は今も凄い高いよね・・・ とあいつ。
確かにあの値段は俺も焦ったな
そう言ってあいつの表情を確かめながら明るく答えた。
あいつの表情は未だに暗い。
「うん。それでやっと本題なんだけどね。」
はぁ・・・と深呼吸を一回。
どうした?緊張してんのか?
と聞くと ちょっとだけ とあいつは言った。
「さっきも言ったようにもちろん、僕も高校の最低義務として女体化に対する薬を使うようにしたかった。だけど、みんな知ってるようにさ・・・」
「僕ん家ってかなり貧乏なんだよね」
あはは と笑うあいつ。俺は相槌を打つことなく黙っていた。
「でも、高校は優しかったよ?こんな僕に高価な薬をタダでくれたからね」
こんな僕って・・・かなり引っ掛かる言い方だったが 俺は黙るだけだった。
「効果にすると一粒約五年間は保つんだ。でもさ・・・色々と開発に問題があって一年とか短い期間保たせる薬はまだ開発されていないんだってね。それを聞いた時はあまり関係ないと思ったけど・・・」
あいつは脱線しかけた話を戻して話を続けた。
「僕は一応サッカーで期待されてたから、薬をタダで貰えることになった。ある日、僕は16歳の誕生日が近付いていた事もあって薬を校長から直々に五年間保たせられる薬を、一粒、貰う事になっていた。でもね・・・僕、薬を校長から貰う時に一つお願いした事があったんだ。」
俺はわかりやすく?マークを頭の上に浮かべた。だいたいわかると思うが俺は決して頭が良い方ではない。頭は学年で下から数えた方が早いのがその証拠だ。
考えるのは苦手なのであいつが説明してくれるのを待つ。
「えぇと、その前に話がまたそれちゃうんだけど・・・」
ちらちらと上目遣いでこっちを見るあいつ。
別に気にしなくていいって。
と言うとあいつは座り直して話し始めた。
「うちが貧乏って話は・・・聞いた事あるよね?さっきも話したし・・・」
まぁ 確かに。
と言ったが実際俺は詳しいことは知らない。そういうことはあまり話したくないものだと思っていたから。
「実はその話は隠したかったことなんだ。」
まぁ そりゃできるだけ知られたくないよな。
そう言うと あいつはうん。とだけ返事をして話を続けた。
「それでね・・・もう一つだけ・・・隠しておきたかった事があったんだ」
そこで俺は指をピクリと動かしてしまった。予想以上に深刻そうな話になりそうだと思った・・・いや勘付いたから。
セミはまだ忙しく鳴き続けている。
「隠したかったもう一つのこと・・・それは・・・」
一拍。
「僕に・・・双子の弟がいることなんだ」
初めて聞いた話。あいつは話を続ける。
「僕の弟も、実はサッカーをしてたんだ。」
それに弟は兄の僕よりも上手かったんだ。その時はちょっと悔しかったよ と微笑みながらあいつは言った。
「中学校の頃の話。僕も弟も勿論同じサッカー部に入っていて、その日は二人で家に帰っていたんだ。」
あいつはまた少し暗い顔をした。
俺は黙ったまま。
「明日は大事な試合。僕らは二年生ながらもレギュラーで出る事がほぼ確実だった。帰り道、僕らは他愛もない話をしたり、からかい合いながら仲良く家に帰ってた。」
よくある展開。ただそれを目の当たりにするとどうしようもない感情が溢れ出す。
俺はさっき学校に設置されている自販機から買ったジュースを一口飲んだ。
外のセミはいつの間にか鳴きやんでいる。
「僕らはいつものようにからかいあってた。弟はかなり子供っぽくてね?厳しい練習後だって言うのに弟は元気に危なっかしく走り回ってたんだ。僕はそれを追っかけてた。」
あいつは一拍置いて話した。
「ちょうど横断歩道にさしかかった。僕はそこで少しムキになって弟を掴みにかかったんだ。赤で危なかったしね?そうしたら、弟は反射的に僕の手から逃げようと離れていって・・・」
「気付いたら車の前に飛び出していた。その後は、ずっとパニックで本当は良く覚えてない。」
案の定 泣きやすい体質のあいつはボロボロと泣くかと俺は思ったが、泣いてはいなかった。その理由はなんとなくわかったし気にしなかった。
「それで気がつくと、僕は大事な試合をすっぽかして、病院のベッドでずっと眠り続けていた弟のそばで泣きながらそばにいたんだ。
親も病院にすぐに来て、一緒に弟のそばにいた。」
「試合はなんとか勝ったんだ。それを聞いた瞬間、本当にホッとしたのを今も覚えてる。弟を安心させるられるニュースができたわけだからね。」
あいつは微笑みながら言っていた。
「だけど、試合に勝ったとサッカー部の仲間が報告に来ても弟は目を覚ます事はなかった。
でも、次の日 深夜に突然弟は目を覚ました。」
あいつの顔を見る。まだ暗いまま。
セミはふと気がつくとまた鳴き始めていた。
最終更新:2008年09月08日 21:25