529 名前:やんき~?お姉さん[sage] 投稿日:2007/09/12(水) 00:40:57.07 ID:K8HBzfol0
バイクに跨って風を切る。
これが俺の一番幸せな瞬間だ。
頼れる仲間と共に夜の街の光になる。
これが俺の毎日の日課だった。
今日も集会が終わり、いつもの店で屯しているところだった。
「そういや優さんそろそろ17ッスよねぇ?」
「んー…ああ、そうだな。」
「俺ら彌通覇亞全員でお祝いするッスよ!!」
「おう、よろしく頼むわ」
後一週間、9月17日で俺は17になる。
世間じゃ女体化とかなんとかうるさい年頃だ。
俺は族だし、硬派なイメージを作ってるから彼女なんていない。
いや、硬派ぶってるだけで実は女が苦手なだけなのだが……
「そういや俺らン中にもレディースになったヤツいるッスけど、優さんはンなこたぁないッスよね?」
「ばっか野郎。 俺を誰だと思ってやがる。」
「そうッスよね! あー、俺も優さんくらいモテたいッスよ!wwwwwwwww」
「ま、まあボチボチだがな。」
「またまたー? 毎日とっかえひっかえズッコンバッコンなんっしょ?wwwwwww」
「ははは、バレてやがる……」
仲間の手前かっこ悪いことは言えない。
こんな風に虚勢を張って誤魔化し続けてきた17年間。
当然、彼女居ない暦17年だ。
「っし、お前ら今日は解散だ! 暫く忙しくなっから、一週間後に集合だ!」
後一週間で童貞を捨てなければ俺は女になっちまう。
俺が女になったら今の仲間はどう思うだろう?
考えたくなかった。
俺はこの一週間でなんとしてでも童貞を捨ててくる。
そんな決意と共に愛機に跨る。
エンジンをふかし、いつもの店を出る。
「風が……気持ちいい―――…ぜ?」
鈍い音と共に体が軽くなった。
視界がゆっくりと動いている。
俺今……飛んでる!?
理解した瞬間、衝撃と共に俺の意識はなくなっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ここは……どこでしょう~…?」
辺りを見渡してみると、ここは病院の一室のようでした。
私の腕には点滴の管が繋がれていて、動かすと少し違和感がありました。
「それにしても、とっても綺麗なお花です~」
お見舞いに来てくれた人が飾ってくれたのでしょうか。
小奇麗な花瓶に綺麗なお花が飾ってありました。
お花に見惚れていると巡回の看護婦さんが病室に入ってきました。
「あ、目が覚めたんですね。 具合はどうですか?」
「はい~。 何だか頭がふわふわして、ちょっといい気分かも~?」
「えっと…自分が誰だかわかりますか?」
「はい~。 私は……う~ん、何方でしょう~…?」
首を傾げて人差し指を頬に当てて考えてみましたけど、よく思い出せません。
そんな私を看護婦さんが心配そうに覗き込んできます。
あらあら、この看護婦さん…とっても美人さんですね~…
そんなことを考えていると、看護婦さんの口が開きました。
「貴方は鍵山 優さん。 今は……17歳の女性です。」
「今……は~?」
「ええ、調度三日前に女性になったんですよ。」
「あらあら~…ということは、私は三日前まで男の方だったんですか~?」
「そういうことですね。」
最近テレビなどでも問題になっている女体化、というやつでしょうか。私が男の方だったなんて信じられません。
でも、名前も男の方のような気がしなくもないです。
「ちなみに、今日は何月何日でしょう~?」
「9月16日です。」
「あらあら、私…明日までにどうしてもしなければいけないようなことがあったような~?」
「まだ意識が回復したばかりですから、外出はできませんよ?」
「それでも~…大切な約束だったような~…」
思い出せませんけど、何かとても大切な約束があった気がします。
う~ん…どんな約束でしたっけ~…思い出せません~。
その後お医者様が来てくださって、私を診察して下さいました。
何だか若い男性のお医者様で、私の診察をして照れている様子が可愛かったです~。
「それでは、お大事に。」
「ありがとうございました~。」
お医者様と看護婦さんが帰った後の病室は静かで、少し落ち着きませんでした。
そんな時、携帯電話が鳴りました。
凄く大きな音でロックが鳴り響いたのでびっくりしてしまいました。
「え~と、あら…? ロックがかかっているのかしら~?」
ドクロのちょっと怖い感じの壁紙の前にキーを入れる画面が出ていました。
でも、私の指はそれが当たり前のように4桁の数字を入力していきました。
番号は見事に一致して、確認してみるとメールが沢山来ていました。
「ロックとロック…なぁんちゃってぇ~。 うふふ。 え~っと~…」
メールには私を心配してくれる男性からのメールが沢山入っていました。
私って意外ともてるのでしょうか?
そんな中、一番新しいメールにはこんなことが書いてありました。
『明日の誕生日は大丈夫そうッスか?
優さんさえ平気なら、俺らきっちり祝わせてもらうッスから!
早く元気になってまた一緒に風になりましょう!
では、明日は一応いつもの店で待ってるッス
無理せずに早く良くなって下さい』
「あらあら、まぁ~… 明日は私の誕生日だったんですか~。」
内容から察するに、明日は私の誕生日のようです。
お祝いしてくれるなんて、とっても嬉しいです。
でも、お医者様にはまだ安静にって言われてしまいました。
でもでも、行かなければいけない気がします。
「う~ん…困りました~…」
そんなことを考えているうちに眠ってしまっていたようです。
気がつくと朝になっていました。
今日は朝から検査が続いて少し疲れてしまいました。
検査が全て終わるとすっかり日が昇ってしまいました。
「ふぁ~…なんだかいい天気で、眠く~……くぅ~……」
目を覚ますと日が暮れていました。
そういえば、今日はお友達が私のお誕生日を祝ってくれる日でした。
何か着替えがあると良いのですけど…
部屋にあったかばんをあさって見るとメンズの服ばかりでした。
私にはちょっと大きいようです。
おなかはぶかぶかなのに、胸がとっても窮屈です。
ジーンズはぶかぶかでしたけど、Tシャツを着るとおへそが出てしまいました。
「ちょっと恥ずかしいですけど…患者さんの格好では出歩けませんし~…」
何故だかわかりませんが、置いてあったヘルメットが気になって一緒に持っていくことにしました。
お医者様や看護婦さんに見つからないようにこっそりと病院を抜け出しました。
”いつものお店”としか書かれていなかったのに、何故か足が自然と何処かへ向かってくれました。
気がつくと、バイクが沢山止めてあるお店につきました。
何だか入りづらい雰囲気ですけど、何処か懐かしい感じがします。
「こんばん……わ~……?」
入った瞬間怖い方々に一斉に睨み付けられました。
私のお誕生日会なのに何だかとっても険悪なムードです……
お店を間違ってはいないと思うのですけど……
「あの~……今日はお誕生日会だと聞いてきたのですけど~……?」
「ありゃ、優さんのお知り合い?」
「優さんも人が悪いッスねぇwwwwwwww こんな美人さんと付き合っての秘密にしてるんスからwwwwwwwww」
「そんな、美人だなんて~」
怖そうな方々が一気に優しくなりました。
それにしても、美人だなんて照れてしまいます。
このカッコイイ方と語尾が面白い方は特に親切にしてくれるみたいです。
でも、何だか違和感があるような……
「ささ、姐さんも座るッスよwwwwwwww」
「これで優さんが来てくれりゃ最高なんだけどねぇ?」
「あの~……私の名前は……」
言いかけた瞬間、乱暴にお店のドアが開きました。
また同じような怖そうな方々が沢山入ってきました。
先頭に立っているモヒカンの男性は特に禍々しい雰囲気です。
お祝いに来た……という雰囲気ではなさそうです。
「ゴルァ!! 優の野郎はどこだ!!」
「なんスかアンタらは? 今日はここは貸切ッスよ?」
「つーわけだ。 なんだか知らないがとっととけーんな。」
一触即発……とはこのことでしょうか。
睨み合ったままの皆さんは今にも殴りかかりそうな雰囲気です。
店長さんと店員さんたちがお店の奥に避難していきました。
こういうことには慣れていらっしゃるようです。
「あの~……私が優ですけど~?」
「あぁ!? スケは引っ込んでろ!!」
「テメェ、優さんの女になんて口きいてやがる!」
「姐さん、ちょっと後ろに下がってるッス……よ!」
掛け声と共に勢いよく飛び出していく彼の拳は簡単に止められてしまいました。
次の瞬間、彼のお腹にドスン、と鈍い音と共にモヒカンさんの拳がめり込んでいました。
「ヤスさん!? 大丈夫ですか!?」
「へへ……姐さん、心配しなくても平気……ッス……よ……」
私はどうして彼のお名前を知っているのでしょうか……?
そういえば…こちらのイケメンさんは雄二さん、向こうの八頭身の方は肝井さん、あと奥の髪を逆立たせてらっしゃる方は一(はじめ)さん……?
そしてそこのモヒカンさんは……
「三下にゃ用はねぇんだよ!! 優を出しやがれ!!」
「あの~…… 靴九さん……?」
「んだオラ!? テメェ…なんで俺の名前知ってやがる?」
「だから~……優は わ・た・し です~。」
自分の顎に人差し指を当ててみます。
靴九さん以下ヤンキーさん方はぽかんとした顔で私を見つめてきました。
そしてその後大笑いされました。
「あのなぁ…優はアンタみてーな牛女じゃねーんだ。 わかってんのか?」
「あらあら~… お口には気をつけないといけませんよ~?」
「っせぇな! 俺に指図すんじゃねぇ!!」
何だか凄くイライラしている気がします。
それにしても、この感覚が何だかとても懐かしいようにも思えます。
でも、怒ってはいけませんよね。
ここはしっかりこの人を更正させてあげないといけません。
「こらぁ~。 そんな言葉遣いは……」
「言葉遣いがんだってんだろ!?」
「めっ……!!」
「ゲボルガァ!?」
こつん、とおでこをぶつけてみただけなのですけれど、なんだかオーバーリアクションな方ですね~。
床に這い蹲るほど反省してくださったのでしょうか?
そこまで反省してくださるとは思いませんでした。
「ああ、総長!? てめぇ…女だからって容赦しねぇぞ!?」
「ボコした後は皆でマワしたれやぁ!!」
「やばっ……お姉さん、逃げて…!」
あらあら、皆さん頭に血が上っていらっしゃいますね。
喧嘩はいけません。
それに、皆さんそんな汚い言葉遣いで……
「だからぁ~……そんなしゃべり方はぁ~……めっ、めっ、めぇ~~!!」
「ウゲボッ!?」
「ゲハッ!?」
「ゴアッ!?」
こつん、こつん、こつんと3人の方におでこをぶつけてみました。
3人の方も同じように反省してくれたみたいで、とっても嬉しいです。
ちょっと強く当てすぎたのでしょうか、少し頭が痛いです……
「あのフォームは…優さんのバチキ…!?」
「ですから~。 私は鍵山 優ですってば~。」
「ちょ……wwww 優さん…まさかの女体化……ッス……かwwwww」
そんな会話をしていると後から来た怖い男の方々は逃げていってしまいました。
きっとこれからは反省してちゃんとした人生を歩んでくれるのでしょうね。
いい事をした後はとても良い気分です。
「あ、はい~。 気がついたら女性になっていたらしくて……皆さん驚かれました~?」
「そりゃまあ……ねぇ?」
「美人巨乳ロングのお姉さん最高ッスwwwwwwwwwwwwwwwwww」
私が女性になっても皆さんは受け入れてくれるようです。
何処か胸に引っかかっていたものが取れた気がします。
「これからも皆さん、よろしくお願いしますね~?」
「ま、強さは変わってないみたいだし……これからも宜しくお願いします、優さん。」
「こんな美人がヘッドなんスから、彌通覇亞から美通覇亞に名前変えないッスか?wwwwww」
「お、珍しく冴えてるな。」
「そうッスよねwwwwwwww 雄二さんも賛成なんスから、いいッスよね?wwwwwwww」
「皆さんがよろしいなら~。」
その後、皆さんと一緒に朝まで盛り上がりました。
え? ああ~…もちろん、私たちは未成年ですからお酒はめっ、ですよ?
でも今日だけは……うふふふふ。
後日談ではあるが、天然巨乳美女がヘッドを勤めるグループ「美通覇亞」は関東を制する一大勢力となった。
特にヘッドが繰り出す「エンジェル・スマイル」は一度の微笑で1000人の男を虜にすると言われ、
「エンジェル・ベル(ただの頭突き)」は全ての男の頭とハートを砕くという伝説を残した。
彼女が足を洗う時終結したグループの数は日本の全グループの1/3にも達したという。
ちなみに引退の理由はというと……
「そろそろ、夢を追いかけようと思うんです~。」
「夢……ッスか…… 俺らはずっと姐さんと一緒に走るのが夢だったッスよ……」
「あらあら、泣かないでください~。 折角の男前が台無しですよ~?」
「ありがとうッス……で、姐さん。 夢って何なんスか?」
「夢~……ですか?」
彼女はいつものように頬に人差し指を当てながら首を傾げた。
何千ものヤンキーが彼女を見つめる中、彼女は一人で何かを考えている。
暫くう~ん、と唸った後、少し頬を朱に染めて彼にこう言ったのだった。
「お嫁さん、でしょうか~…… 今、私の目の前にいる方の。 うふふっ。」
「あ……姐さぁぁぁぁん!!」
こうして関東最強のグループ美通覇亞の歴史に一つ、終止符が打たれたのだった。
しょうもなく、おしまい。
多分気づいてると思うけど補足。
・美(彌)通覇亞→びっぱー
・8頭身の肝井(キモイ)さん→8頭身
・髪を逆立たせたはじめさん→1さん
・敵のモヒカン靴九→くつく→クックドゥドゥルドゥ
あと、最後の科白は俺自身が某スレでリクしたことあるんで、運がいい方は聞いたことあるかもですねw
そいではおやすみなさい。
最終更新:2008年09月10日 01:38