『勘違い』

224 名前:やんき~?の人 ◆k6xAlD3ocI [] 投稿日:2007/09/23(日) 22:06:45.35 ID:hbtLd/U50 
んじゃ俺もそろそろ投下しますかね。
安価については>>203参照。タイトル「勘違い」

「俺と付き合ってください…!!」
「……ごめんなさい……」

狙い済ましたように一陣の風が通り抜けた。
すっかり冷たくなった秋風が俺の頬をすり抜けて行った。体育館の裏に落ちていた紙コップがからからと音を立てながら流れていく。
通算3度目、俺の春がまた終わった。

「ど、どんまいっ…だよ…? また次があるよ、うん…」
「想姉ちゃん… 見てたの?」

壁の後ろからひょこっと頭を出した女の子。
年上だけど”お姉さん”というよりは確実に”女の子”だろう。
御歳17歳、俺のお隣さんの長流 想子(ナガル ソウコ) 童顔だし声もロリっちぃし胸はないし背も低い。
もちろん俺は世の近所のお姉さんを持つ同志諸君と同じく彼女に想いを寄せていた。だがそれは同級生の女の子によりあっけなく終わりを告げられた。

『長流先輩って生徒会長に告白されたみたいよ? ”私は好きな人がいますから”って断ったみたいだけど。』

うちの学校の生徒会長といえば容姿端麗、成績優秀、冷静沈着、眉目秀麗でおまけに金持ちのボンボンの爽やか系スポーツマンしかも誰にでも優しく金持ちを鼻にかけない。
そんな人の告白ですら断った想姉ちゃんが好きな人は、よっぽど凄い人なんだろう。
これが俺の、一つ目の春の終わりだった。


「これからお姉ちゃんと一緒に甘いものでも食べにいこう…? 甘いもの食べたら元気でるよっ」
「ゴメ、今日は真っ直ぐ帰るよ……」
「そっか…… じゃあ、また明日ね?」

とことこと駆けていく想姉ちゃんの後姿を見送る。
セミロングの茶髪がさらさらと揺れていた。想姉ちゃんの悲しそうな顔を見るのは辛い。
だけど優しくされるのはもっと辛かった。俺は早く想いを断ち切るために、彼女を作ろうと躍起になった。
それに17までに童貞捨てないと女になっちまうみたいだし。
しかしながら、俺はそんなにもてる方でもないので撃沈、連敗なわけだ。

「よっ。 なーにしんみりしてんだ16歳童貞。」
「ッセェ殺すぞ。 既に女体化しくさった分際で。」
「まーた振られたんだろ? 浮気すっからそういうことになんだよ。」
「浮気なんざしてねぇ…」

このクソウゼェ牛乳娘は俺の親友の勝実。暫く前に女体化したんだが、もともと巨チ○だった所為か超巨乳になってしまった。
そのお陰で元男と知らない男子からはかなりウケがいい。

「浮気してんじゃねーかよ。 お前長流さんが好きだったんじゃないのか?」
「想姉ちゃんには好きな人がいるんだとさ。」「ほぉう、で、あの長流さんが好きな人って?」
「知るかんなもん。 興味もねぇ。」

興味がないわけではない。
だけど、知りたくないというのが本音だった。
知ったところでどうこうなるわけでもないし。

「教えてやろうか? 長流さんの好きな人をさ。」
「いらねぇ。」
「そうか、残念だなぁ…」

何が残念なことか。残念なのは俺とお前の頭だろうに。

「ま、ならいいや。 適当に頑張れや。 誕生日までもうすこしだろ?」
「まあな。 いざとなったら頼むわ。」
「バーロー、嫌なこったね。」

俺の誕生日は11月11日。パチ屋のモヤ(パッキー)&電撃特攻作戦(ブリッツ)の日だ。
何か間違ってるような気がしなくもないが気にしてはいけない。とりあえず男のままでいられればいつか想姉ちゃんと付き合えるチャンスが来るかもしれない。
俺はそんな淡く儚い期待を胸に、家までの慣れた道のりを帰ったのだった。

「あら、お帰りなさい。 ご飯できてるわよ?」

家に帰ると夕飯の支度が整っていた。
急に冷え込んできたこともあり、今日の夕飯はおでんだった。
母さんは煮物だけは高級料亭顔負けの腕前だ。
鍋の蓋を開けるととてもいい香りが鼻腔を擽った。

「さすが、母さん煮物だけは天下一品だよね。」
「”だけは”は余計よ。」

少しむっとしながらもおでんを俺の前に並べてくれる。
俺の好きなものばかりチョイスされた大盛りのお椀は俺の食欲を最大限に高めてくれる。
しかし慌ててはいけない。
まずは出汁を味わうのが俺のジャスティスだ。

「そういえば、幸治は男の子でいられるの?」
「ブッ!?」
「きたないわねぇ…… まあ、その様子だとまだみたいね。」
「余計なお世話だ。」

ため息をつきながら俺を見つめる母さん。
今日振られてきたばかりの俺には耳が痛いだけだ。

「それならお隣の想子ちゃんと付き合っちゃえば?。
あの子も幸治のこと嫌いじゃないみたいよ?」
「嫌いじゃないと好きは別物だよ。 それに想姉ちゃんは好きな人いるっぽいし……熱っ、ホフッ……」

返事をしながら口に卵を放り込んだ。
もちろん外は冷えていても中身は熱々。
火傷をしそうになりながらも何とか卵を嚥下した。

「あらそうなの? まあ、想子ちゃんに幸治はもったいないわね。」
「大きなお世話だ………ババァ………」
「あら、なぁにぃ? よく聞こえなかったからもう一回言ってくれるかな? こ・う・ち・ゃ・ん・?」
「イエナンデモゴザイマセンオウツクシイオカアサマ」

この人はどうしてこう地獄耳なのだろう。
その後も母さんに弄られながら食事を終え、俺は部屋に戻った。
俺の部屋と想姉ちゃんの部屋は向かい合ってるからお互いの部屋の様子くらいは確認できる。
想姉ちゃんの部屋を見ているといきなりカーテンが開いた。
想姉ちゃんは満面の笑みを浮かべながら、窓を開けろとジェスチャーしてくる。
俺たちが会話する時のいつものパターンだ。
何を疑うこともなく、俺は部屋の窓を開いた。

「やっほー幸君。 もう落ち着いたかな?」
「ま、どうってことないよ。 本当に好きな人ってわけじゃなかったし。」
「あ、そうなんだ。 ………よかったぁ………」
「何か言った?」
「ううん、何にもっ」

よく聞き取れなかった言葉を確認しようとした瞬間、何かを誤魔化すように想姉ちゃんが何かを投げてきた。
慌ててキャッチすると、軽い感触が指に帰ってきた。

「あんまり強く握っちゃだめだよ? それ食べて元気になってね。」

きょとんとしてその袋を開けてみるとクッキーが入っていた。
キャッチしたときの衝撃からか大半は割れていたというか砕けていた。
綺麗に半分になったハートのクッキーを見つけると、俺は苦笑するしかなかった。
それを想姉ちゃんに見せ付けつつ、口に放り込んだ。

「はは、いい形だ。 ――んー、相変わらず美味いよ。」
「もともとハートだったのっ! 幸君が強く握るから割れちゃったのっ!」
「へいへい。 まあ、ありがと。」
「どういたしまして。」


想姉ちゃんは家庭的な面がかなり強く、料理の腕は天下一品だ。
夕飯をたらふく食べた後だというのに、クッキーは俺の腹の中に簡単に納まっていく。

「それじゃ、また明日ね?」
「おう、ありがとうね。」

俺はクッキーの袋を持ったままベッドに横になった。
一口齧るたび、想姉ちゃんの顔が頭に浮かぶ。

「想……姉ちゃん―――……」

気がつくと朝になっていた。
制服のまま寝ていたので寝癖を整えただけで家を出た。
かなり早い時間帯だったが、偶にはこんな時間に学校に行くのも悪くないだろう。

「あっれー? 幸君今日はとっても早起きなんだね?」
「んー、ああ。 珍しく早く起きたからね。」
「もう本当に平気なの?」
「平気だってば。 そんなに心配しなくていいよ。」

俺の顔を見上げてくる想姉ちゃん。
俺の身長は175cm、対する想姉ちゃんは150cm。
頭一つ違う俺たちが会話をする時はいつもこのスタイルになる。

「でも……最近の幸君ちょっと変だよ? 何か悩み事でもあるの?」
「俺はもう16歳。 彼女いない暦=年齢。 言いたいことはわかるでしょ?」
「あ、そっか…… 女の子になっちゃうかもしれないんだっけ……」

学校でも中学に入った頃から性教育が行われる。
それと同時にこの女体化と呼ばれる奇病の授業も行われていた。
想姉ちゃんも俺が女体化してしまうかもしれないということに気がついたようだ。

「そういうこと。」
「そっか…… 男の子も大変なんだね……」
「まあなー。 ここらで彼女でも作らないと女になっちまうかも知れないしさ…」

ため息をつくしかない現実だ。
16歳を迎えた今、俺に残された男としての時間はあまりにも短い。

「そっか。 それで最近いろんな女の子にちょっかいかけてたんだね……?」
「まあ、ね。」

耳が痛い。
俺だって好きでいろんな女の子に声をかけているわけじゃないってのに。本当は―――…

「本当は―――… 想姉ちゃんが彼女になってくれたら嬉しいんだけどね。」
「―――――………はい………?」

あれ? 想姉ちゃんはなんで俺の心の声に返事をしたんだ?もしかして―――…

「俺今……口にしてた?」

唖然とした表情のまま、コクコクと数回首を縦に振る想姉ちゃん。
つまりはあれか。俺は偶然と気の緩みからいきなり想姉ちゃんに告白しちまったのか。
俺のあほおおおおおおおおおおおお!!!!

「幸君……わ、私… 彼女だなんて…その…」
「やっぱ嫌だよね。 それに、想姉ちゃん好きな人いるって聞いたし……」
「違うのっ! 私…綺麗じゃないし、ちんちくりんだし……  幸君の部屋にあるえっちな本とかは、その…せくしーなお姉さんばっかりだったから……  幸君は…私なんかじゃ嫌、かな……って思ってて……」

何を見てますか貴方は。だけど、悪い印象では……ないようだ。

「……でも……幸君が、私でも…私なんかでもいいなら……」
「俺は…想姉ちゃんならいいんじゃない。 想姉ちゃんがいいんだ。」

思い込みとはなんとも虚しいものだ。
こんなことなら、勝実に早く聞いておくべきだったな。
やはり…持つべきものは友達ってところか。

「想姉ちゃん……俺の、彼女になってくれる?」
「……うんっ……!」

笑顔と共に流れる涙。
女を泣かせる男は最低だと親父が言っていたが、今の涙は流させてもいい涙だろう。
頬に流れる涙を拭い、想姉ちゃんの顔を引き寄せた。
この身長差の所為で想姉ちゃんは背伸びを、俺は少し背を曲げなければならない。
唇に感じる甘く柔らかな感触。
一瞬の出来事が永遠の如く長く感じた。

「これからは彼女として宜しく。 想ねえちゃ……恋人に姉ちゃんはおかしいかな。」
「私は気にしない…けど?」
「気分の問題だよ。 まあ、宜しく、想?」
「あぅ……何だか、照れくさいね……」

照れる想はいつにもまして可愛らしく見えた。
これで俺の女体化は……多分、防がれることだろう。
きっと、この愛する人とならば―――…


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最終更新:2008年09月10日 01:45
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