優さんが女体化した後も俺たち美通覇亞の活動は続けられていた。
女体化しても強さはなんら変わることのなかった優さんは美女になったことで更に俺たちの結束を強くしてくれた。
そんな矢先のことだった。
優さんが突然集会を開き、引退を表明したのだった。
「そろそろ夢を追いかけようと思うんです~。」
「夢……ッスか…… 俺らはずっと姐さんと一緒に走るのが夢だったッスよ……」
「あらあら、泣かないでください~。 折角の男前が台無しですよ~?」
「ありがとうッス……で、姐さん。 夢って何なんスか?」
「夢~……ですか?」
優さんはいつものように頬に人差し指を当てながら首を傾げた。
その仕草ももう見れなくなるのかと思うと涙がこみ上げてきた。
何千もの仲間が優さんを見つめる中、彼女は一人で何かを考えている。
暫くう~ん、と唸った後、少し頬を朱に染めて俺にこう言ったのだった。
「お嫁さん、でしょうか~…… 今、私の目の前にいる方の。 うふふっ。」
瞬間、俺の思考はフリーズしてしまった。
俺の…お嫁さん?
つまりは逆プロポーズ?
優さんが、俺の…嫁さんに…?
フリーズした頭にバババっと色々な考えが走っていった。
そして数瞬後、俺はようやく状況を理解した。
「あ……姐さぁぁぁぁん!! よろこんで! 俺みたいなのでよかったら、是非に!」
「はい~。 不束者ですが、よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる優さんに釣られて俺も頭を下げてしまう。
湧き上がる大歓声、皆俺たちを祝福してくれるのだろうか…
と思った瞬間、俺の頭に鈍い衝撃が走った。
「てんめぇ、この幸せもんが! 俺らからの餞別だ、とっとけやぁ!!」
「おうよ! ワシらの餞別の拳じゃあ!!」
「ちょwwwwwwwwwwwww待つッスwwwwwwwwwwwwww」
暫くチームの頭格にフルボッコにされ、意識が徐々に遠のいていった。
しかし途中から悲鳴が俺の物からリーダー格達の悲鳴に代わったのは、きっと俺の気のせいだろう。
いや、気のせいだと信じたい…。
俺が目を覚ますとそこは…
1:見慣れない天井と優さんの心配そうな顔が目の前にあった。
2:見慣れた店の天井と優さんの心配そうな顔が目の前にあった。
3:何処かのホテルの一室のような天井と優さんの心配そうな顔が目の前にあった。
3:何処かのホテルの一室のような天井と優さんの心配そうな顔が目の前にあった。(安価で決定)
「あ、気がつきました~…?」
「…っ~…姐さん、ここは…?」
気がつくと俺は柔らかいベッドの上に寝かされていて、優さんが俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。
というか、ベッドの上で膝枕をされている状態だった。
慌てて起き上がろうとした瞬間、お約束のように俺は優さんと頭をぶつけてしまった。
「ぐおっ…」
「まだ起きちゃだめですよ~。」
めっ、といつものように人差し指を立てる仕草。
どうやらダメージがあるのは俺だけらしい。
頭と体のダメージは思ったよりも大きく、俺は柔らかな優さんの膝に少しだけ甘えることにした。
「とりあえず、ここはどこッスか…?」
「あの後気を失ったヤスさんを皆さんが運んでくれたんです~。 良くわかりませんけど、婚約したならここだ~って。」
どうやらここは地元でも有名な高級ホテルの一室らしい。
なるほど、どうりでやけにベッドがふかふかだと思った。
しかしこんなホテルにつれてくるあたり、なんだかんだで皆はお祝いムードなんだと感じさせられた。
「そういや、姐さん…」
「は~い? あ、これからはできたら名前で呼んで欲しい…かもです~。」
「じゃあ優さん、どうして俺なんかと結婚しようと思ったンスか?」
聞いた直後は嬉しさでそうは感じなかったが、正直な話一番疑問が残るところだ。
どうしてイケメンの雄二さんでもなく、俺を選んでくれたんだろう。 そんなことを口にすると、優さんは少し切なげな笑顔を俺に返してくれた。
「どうしてって… う~ん…」
「な、悩むンスか…」
ぱっとすぐ答えが出てこなかったことに少しだけ落胆してしまう。
けれど、悩ましげな優さんの表情もコレはコレで捨てがたいものだった。
「私にお誕生日のメールを送ってくれたこと、覚えていますか~…?」
「そりゃもちろんッス。 あの時は皆メールやお見舞いに行ったッスから。」
「その後私が回復して~…色んなことがありましたよね。」
「色々、無茶もやったッスね。」
殴りこみに来た別グループを優さんがバチキだけで一掃したこと。
調子に乗りまくって警察に追い回されたこと。
何とか逃げ切って一緒に川原で寝転んで笑いあったこと。
俺の誕生日にパレードまがいの大暴走をしたこと。
半殺しにされかけた時、優さんや雄二さんが助けてくれたこと。
その全てが、走馬灯のように頭を駆け巡った。
「その全ての局面に… 貴方がいてくれたんです。 楽しかった時、苦しかった時、悲しかったとき、嬉しかった時……
いつもいつも、貴方と一緒でした。 だから、私……」
「優さん……」
言われてみればそうだ。
何かで別働する時も、逃げる時に分散する時も、食事をする時も。
いつもいつも、俺は自然と優さんの側にいた。
昔から一番の舎弟としていつもつるんではいたけど、優さんが女体化してからは距離が少しだけ縮まったような気がしていた。
「これからも、貴方と一緒にいたいなって。 そう思ったんです。」
柔らかく微笑んだ優さんの表情にドキリとしてしまう。
その笑顔はとても綺麗で、どこのどんな男でも虜にしてしまえそうな、そんな感じがした。
こんなに想ってくれる人を無碍にできる男なんてこの世にはいないだろう。
俺は……
1:真面目にプロポーズを返した。
2:とびっきりクサい科白でプロポーズを返した。
3:俺にはつりあわないと思って断った。
1:真面目にプロポーズを返した。(安価で決定)
「俺も…優さんと一緒にいて、楽しかったッス。」
「…うん…」
「だから俺も…… これからも優さんと一緒にいたいッス。」
「…はい…」
頬に冷たい水の雫が落ちる。
それは紛れもなく、優さんが流した涙だった。
もちろんそれは悲愴の涙ではなく、その表情は喜びに満ちていた。
「さっきは先に言われちゃったッスけど… 本当に、俺と一緒になってくれるッスか…?」
「もちろん……です……!」
ゆっくりと、優さんの唇が俺の眼前に迫ってくる。
塞がる視界、迫る愛する人の顔。
柔らかく、確かな感触が俺の唇から伝わってくる。
俺は一時的にその幸せに身を委ねる事にした―――…
安価:エロはない方向で
一夜が明けて、俺の顔つきは少し変わっていた。
ただのヤンキーの顔から、大人の男の顔へと変わろうとしていた。
俺はその後高校に頼み込み、何とか卒業できることになった。
そして卒業後の進路は知り合いのとび職の見習いになることに決まった。
そして―――…
『卒業証書授与。 央沢恭(オウサワ ヤスシ)。 以下、同文。 ――――――… 鍵山優(ニシダ ユウ)。 以下、同文。』
「終わっちゃいましたね~…卒業式。」
「そうッスねぇ… なんとか卒業できて助かったッスけどwwwwwwww」
「っ…うふふっ…」
俺たちは卒業できた喜びを一緒に分かち合った。
そしてこの喜びの後に、もう一つ大きな喜びが待っていた。
本来、金銭面の都合でひっそりと行う予定だった俺たちの結婚式は仲間たちのカンパによってかなり豪勢に執り行えることになった。
系列チームの全員が1万近くも出せば、それ相応の金が集まるというものだ。
―――Sunday―June―6―――
「そろそろ、準備できたッスかねぇ…?」
「まだじゃねーの? ドレスの着るのは時間かかるだろうし。」
俺は既にタキシードに着替えていたのだが、向こうの準備がまだ済んでいないらしい。
その暇な時間を潰すために、何故か神父役を買って出た雄二さんを呼んだのだった。
チーム最年長の雄二さんはこういうことには慣れっこらしく、会場内で一番落ち着いている気がした。
『新郎さん、新婦さんの準備できましたよ。』
「お、いよいよみたいだな。 ほれ…行ってきやがれ、この幸せモン!」
雄二さんに突き飛ばされるように優さんが待つ部屋に入った。
そこには…
「どう…です? 似合ってますか~…?」
言葉が出ないという状況は正にこの事だと思う。
あまりに綺麗過ぎて息が詰まってしまった。
俺は瞬きも忘れ、ただただウェディングドレスに包まれた彼女を見つめていた。
「あの… そんなに見つめられると、私~…」
「ほれヤス、何かいってやれよ!」
照れた様子でいつものように頬に手を当てる。
その姿にすら見惚れていた俺は、雄二さんの裏拳によって現実に引き戻された。
「あ、ああ… 綺麗ッス。 言葉が、全くでないくらいに……」
「もう…ヤスさんったら…」
「おうおう、あちーあちー。」
茶化す言葉も右耳から左耳へと通り抜け、俺たちは再び見詰め合った。
そんなことをしている間に、式の時間は来てしまった。
式は滞りなく進み、いよいよ俺たちが誓いを立てる場面がやってきた。
雄二さんは一丁前に神父の格好をし、俺たちの表情を窺っている。
『まず、この結婚に意見、異議がある方がいらっしゃれば申し上げてください。
―――…いらっしゃらないようですね。
ではあなたがた二人に申し上げます。人の心を探り知られる神の御前に、静かに省み…
この結婚が神の律法にかなわないことを思い起こすなら、今ここで言い表してください。
神のことばに背いた結婚は、神が合わせられるものではないからです。』
俺たちは顔を見合わせることも無く、じっと雄二さんの顔を見つめている。
幸いネタとして異議を申し立てる者も無く、静かに式は進んでいった。
『結婚に異議はないようですね… では、新郎新婦一歩前へ。』
打ち合わせをしたわけでもないのに、俺たちはほぼ同じタイミングで一歩前へ出た。
カツン、と靴の足音だけが静かな講堂に響いた。
『謹んで聞きなさい… 聖書第一ヨハネの手紙より―――…
愛する者たち、互いに愛し合いましょう。
愛は神から出るもので、愛する者は皆、神から生まれ…神を知っているからです。愛することのない者は神を知りません。
わたしたちは、わたしたちに対する神の愛を知り、また信じています。
神は愛です。愛にとどまる人は、神の内にとどまり… 神もその人の内にとどまってくださいます。
愛には恐れがない。完全な愛は恐れを締め出します。
なぜなら、恐れは罰を伴い、恐れる者には愛が全うされていないからです。
わたしたちが愛するのは、神がまずわたしたちを愛してくださったからです。
愛がなければ何の役にも立ちません。愛は寛容であり、愛は親切です。
また人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません。
礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず… 不正を喜ばずに真理を喜びます。
すべてを我慢し、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。
愛は決して絶えることがありません。 こういうわけで、いつまでも残るものは信仰と希望と愛です。
その中で一番すぐれているのは愛です。愛を追い求めなさい。
妻たちよ、主に仕えるように、自分の夫に仕えなさい。
キリストが教会の頭であり、自らその体の救い主であるように、夫は妻の頭だからです。
夫たちよ、キリストが教会を愛し、教会のために御自身をお与えになったように、妻を愛しなさい。
夫も、自分の体のように妻を愛さなくてはなりません。
妻を愛する人は、自分自身を愛しているのです。
わが身を憎んだ者は一人もおらず、かえって、キリストが教会になさったように、わが身を養い、いたわるものです。
わたしたちは、キリストの体の一部なのです。
それゆえ―――…人は父と母を離れてその妻と結ばれ、二人は一体となる。
以上、長い説法終わりっ! お幸せにな!』
会場から拍手と笑い声が巻き起こる。
この長科白を全て覚えてきた雄二さんは凄いが、最後の最後にネタを仕込んでくるあたりやはり雄二さんだと感じる。
俺たちの式は、こういう感じの方が合っている気もする。
『それでは主の御前に、誓約を立てましょう。 新郎、央沢恭。』
「はい。」
『あなたは今、この者を妻としようとしています。
あなたは、真心からこの女子を妻とすることを願いますか?』
「願います。」
迷うことなく即答する。
雄二さんも深く瞬きをしながら一度だけ頷いた。
流石に、この局面で野次を飛ばしてくるような阿呆はいないらしい。
『では新婦、鍵山優。』
「はい。」
『あなたは今、この者を夫としようとしています。
あなたは、真心からこの男子を夫とすることを願いますか?』
「願います。」
優さんも迷うことなく返事をした。
雄二さんは俺の時と同じく、深い瞬きと共に頷いた。
会場の野郎どもが俺に殺意の視線を向けているのは気のせいだと信じたい。
『この結婚が神の御旨によることを確信し、誓いを立てなさい。 ―――…新郎、央沢恭。』
「はい。」
『あなたは神の教えに従い、清い家庭をつくり、夫としての分を果たし…
常にあなたの妻を愛し、敬い、慰め、助けて… 死が二人を分かつまで、健やかなときも、病むときも
順境にも、逆境にも、常に真実で、愛情に満ち あなたの妻に対して堅く節操を守ることを誓いますか?』
「誓います。」
わかってはいるのだが、どうもこういう儀式物はおべんちゃらが長いらしい。
雄二さんもよくもまあここまで科白を考えてきたものだ。
しかし長ったらしい儀式でさえ、俺たちの心の中にずっと残り続けることは言うまでもない。
『では、新婦鍵山優。』
「…はい。」
『あなたは、神の教えに従い、清い家庭をつくり、妻としての分を果たし…
常にあなたの夫を愛し、敬い、慰め、助けて、しばいて… 死が二人を分かつまで、健やかなときも、病むときも
順境にも、逆境にも、常に真実で、愛情に満ち あなたの夫に対して堅く節操を守ることを誓いますか?』
「誓います……?」
会場からドッと笑いが湧き上がる。
やはり最後の最後までネタを仕込んできた雄二さんには感服するしかなかった。
程よく会場が盛り上がったところで、雄二さんが一つ咳払いをした。
『ではここに、新郎央沢恭と新婦鍵山優が主の御前において夫婦となったことを宣言いたします。
誓いの証に指輪の交換を。』
ちゃっかりと雄二さんが用意していた指輪を優さんの左手の薬指にはめる。
サイズはぴったりで、その細く折れそうな綺麗な指に良く似合っていた。
そして彼女も俺の左手の薬指に指輪をはめてくれる。
誰かが言っていたが、左手の薬指には恋の脈が通っているらしい。
それを締めるから、結婚指輪は左手の薬指にはめるのだと。
『では―――…愛の証に、誓いのキスを。』
俺と優さんは向かい合い、俺はそのヴェールをまくる。
ヴェール越しではなくなった彼女はとても綺麗だった。
今日一番大きなため息が会場から零れた。
そして彼女の唇にそっと己の唇を重ねる。
さらに大きなため息と野次が会場から溢れた。
彼女の瞳から零れる涙が頬を伝って俺の頬へと流れた。
『これで、お二人は正式な夫婦となりました。
これから先、永遠に互いを想う心を忘れないように…』
教会の鐘と舞い散る花びら、そして飛び立つ白い鳩達に祝福されながら教会を出る。
もちろん俺は彼女をいわゆるお姫様抱っこの形で絨毯の上を歩いている。
そして結婚式といえば、やはりメインイベントはブーケ・トス。
抱きかかえられた状態から、彼女は勢い良くブーケを空に投げた。
しかし無茶な体勢から投げられたブーケはあらぬ方向に飛び、それをキャッチしたのは…
「…ん? 優さん、ちゃんと女の子狙って投げなきゃだめだろー?」
「あらあら、まぁ~… 今度は雄二さんがご結婚、でしょうか~?」
こともあろうに神父役を買って出た雄二さんだった。
しかし男がブーケをキャッチして果たして意味があったのだろうか。
周りのレディースからの突き刺さるような視線が雄二さんに集中している。
「ん~まあ、俺が持ってても仕方ないか… ほら、やるよ。」
「……へ?」
雄二さんは視線を誤魔化すように頭を二、三度カリカリとかくと近くにいたレディースの子にブーケを手渡した。
にこりと笑う雄二さんに対して、他のレディースの子は奇声を上げたり冷やかしたりと大忙しだ。
「ばっ、バカいってんじゃないよ! なんでアタシが雄二さんからブーケ貰わなくちゃならないのさ!?」
「いらねぇのか? なら別の子に―――…」
「んなこた言ってねぇだろ!」
レディースの子はブーケをもう一度手中に収めようとした雄二さんから奪うようにブーケを取り上げる。
化粧は厚い方だと思うが、それでも頬が紅潮しているのが手に取るようにわかった。
「あらあら… ブーケを投げた方向、間違ってなかったみたいですね~。」
「ホントッスね。」
「ちょ! 優さんもヤスさんも何言ってるんですかー!!」
照れた様子を浮かべながら走ってくる彼女を尻目に、俺たちは走りサイドカーに乗り込んだ。
俺たちの式なら車よりはバイクだろうということでわざわざチョイスしてもらったのだ。
俺はエンジンを吹かし、式場を後にする。
「照れなくてもいいのよ~? お幸せに、うふふっ。」
「そういうことッスwwwwwwwww それじゃ、ひとっ走りしてくるッスよwwwwwwww」
「こんの… バカップルがー!!」
そんな声ももう遠くに響いている。
俺たちはまた走り出したのだ。
新たなる生活の第一歩を、このバイクと共に―――…
『そこのノーヘルの新婚! 止まりなさい!!』
「ちょwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「あらあら、あら~…?」
もちろんすぐに警察に見つかり、こっぴどくお叱りを受けた。
幸い式場の敷地のすぐ外で、新婚ということもありゴツい中年の警察官は見逃してくれた。
こういうのも、俺たちらしいかもしれない。
余談ではあるが、先ほどブーケを受け取ったレディースの子の苗字が後に”北川”になるのは、また別のお話………
―――後日―ある昼下がり―都内某オフィスにて――――――――
「あー、北川君。 君宛に事務所に手紙が届いていたよ。 ほら、コレだ。」
「わざわざすみません、社長。 えーと…おお、綺麗に撮れてるなぁ…」
「何かの絵手紙かね?」
雄二が手にしている手紙を中年のダンディーな男が覗き込む。
そこには太陽のような笑顔を浮かべる綺麗な女性と、その傍らで微笑む男の婚礼衣装での写真が映っていた。
「おお…コレは… 確か君は有給を取っていたね? コレのためだったのかい?」
「ええ、そうなんです。 仲の良い友人の結婚式でして。」
「ほぅ… ところで北川君、私はこの写真を見てひらめいてしまったのだが…」
「どうしました?」
ニヤリと何か勝利を確信したような笑顔を作る中年の男。
その笑顔の視線の先には、紛れもなく写真の中の女性に向けられていた。
雄二はその視線と男の顔を見合わせ、苦笑を浮かべたのだった。
「まさかとは思いますが…」
「うむ。 そのまさかだ。」
「「この人をウチのアイドルに!」…?」
語尾は違えど二人の科白は完璧に重なった。
雄二はため息をついたが、乗り気ではないわけではなかった。
実際この事務所は経営難で、何か起爆剤の一つでも必要だったからだ。
「でも、この人元男ですよ…? ほら、女体化って今世間でも話題になってるじゃないですか。」
「それはそれで話題性があると言うものだよ。 まあ、善は急げと言うだろう?」
男は電話をしろという内容のジェスチャーを雄二に送った。
雄二は男の顔を二、三度うかがった後、携帯電話を取り出した。
そしてその女性に電話をかけたのだった。
『は~い、もしもし~?』
「あ、優さん? ちょっと相談があるんですけど…」
『なんでしょう~? 他ならぬ雄二さんの頼みですから、できる限り協力しますよ~?』
「ありがたい。 実は―――…」
この時の雄二も社長も予想はしていなかっただろう。
この偶然の重なり合いが、後に伝説のアイドルを生むことになることを―――…
最終更新:2008年09月10日 01:51