217 名前:やんき~の人 ◆k6xAlD3ocI [安価:白い手袋] 投稿日:2007/10/02(火) 20:29:27.67 ID:wM2oB3Nq0
昨日の安価完成したんで投下します。
安価:白い手袋
日差しも弱まり、風の涼しさを感じられる季節になった。
街では早くも木々が紅く染まり、手をつないで歩く若者たちも増えてきた。
今日は同窓会。
とはいっても俺は両親の都合で高校2年の夏に引っ越してしまったから、旧友と会うのは10年ぶりだ。
クラスの仲間の中にはもう結婚して子供もいるやつもいる。
俺は仕事の都合で式には出られなかったが、結婚式の写真は今でもアルバムの中に眠っている。
そんな俺でもこうして同窓会に呼んでくれる。
俺は期待と不安に胸を膨らませて仲間との待ち合わせの場所へと向かった。
東京から電車を乗り継いで数時間。
幼少時代をすごした田舎の町はなんら変わることもなく俺を迎えてくれた。
都会では感じられない澄み切った空気と青空。
そして何より緑の香りが懐かしかった。
「おー、あの店まだあったのか。」
高校時代、部活帰りによく立ち寄った定食屋は今でも暖簾を掲げていた。
おばちゃんがいつもおまけで大盛りにしてくれたのが懐かしい。
立ち寄りたいのは山々だが、待ち合わせの時間に遅れてしまう。
俺は目印として指定されていた白い手袋をはめて約束の場所へと向かった。
約束の場所は高校の近くにある小さな公園。
人影はまばらで、遠くから小さな子供の楽しそうな声が聞こえてくる。
そんな中、一人で静かにベンチに座っている人影を見つけた。
思ったとおり、真っ白な手袋をはめている。
長い髪が秋風に揺れていて、後姿は何とも儚く美しい。
俺は後ろからそっと近づいて、優しい声色で声をかけた。
「もし、美しいお嬢さん。 お一人ですか?」
ゆっくりと振り向いた彼女の顔は期待と違わずとても綺麗だった。
美人ではあるが何処か可愛さを残した優しげな顔立ちに、俺は思わず赤面してしまった。
彼女は俺の手にはめられた白い手袋を確認すると、にっこりと柔らかく微笑んだ。
「こんにちわ。 私も貴方と同じで、ここで皆を待っているんです。」
「そうでしたか。 では、僕も一緒に待たせて頂く事にしましょう。」
柔らかな笑みを返し、彼女の隣に座る。
こんな美人はクラスにいなかったはずだが、人間歳を取れば変わるものだ。
とはいっても、俺はあまり変わっていないのだが。
「僕が誰だかわかります?」
「翔(かける)君、ですよね?」
「その通り。 貴方のような美人に覚えてもらっているとは、光栄です。」
あまり変わっていない俺はすぐに誰だかわかったみたいだ。
一瞬躊躇したのか、その表情がかなり魅力的に感じる。
「本来なら貴方のような美人を忘れるはずがないのですけれど、月日の流れは人を幾重にも変えてしまうようで。
失礼ですが、お名前をうかがっても?」
「…っ…ふふっ…ふふふっ」
突然笑い出した彼女に面食らってしまう。
きょとんとしている俺に彼女は楽しそうに笑いながら顔を近づけてくる。
「私ですよ、わ・た・し。 翔君の一番のお友達だったでしょう?」
俺は学生時代女の子とそこまで親密になった記憶はない。
強いて仲がよかった友達といえば、野球部でバッテリーを組んでいた拓海くらいのものだ。
女の子で仲がよかった子といえば…
「もしかしてりっちゃん?」
「はずれです。」
「じゃあ雪っこ?」
「ちがいまーす。」
律子も雪乃も違うらしい。
この二人は野球部のマネージャーをしていたから、結構仲がよかったはずなんだけど…
他には誰がいただろうか…
「もう…私のこと、忘れちゃったんですか…?」
切なそうな表情で見つめてくる彼女に思わずドキリとしてしまう。
こんな美人にこんな表情をさせるなんて、俺は一体学生時代何をしたんだろう…
しかし、次の瞬間彼女の切なげな表情は一瞬にして花が咲いたような笑顔に変わった。
「あははっ。 俺だよ俺、拓海だよ!」
「…は? ちょwwwwwwwwwたっくかよwwwwwwwww」
「たりめーだバーローwwwwwwwww こちとら16年間童貞でいwwwwwww」
俺は引っ越した先で童貞を捨てていたからそうではなかったが、世の中では女体化が深刻な問題になっていることを思い出した。
例に違わず、スポーツばかりやっていた拓海は見事に女体化したというわけか。
メールでのやり取りは続けていたのに、一言もそんなことは聞いていなかったからてっきり男のままだと思っていた。
はっきり言って拍子抜け以外の何物でもない。
「しっかし、『美しいお嬢さん』とはなwwwwwww 歯が浮くぜwwwwwwww」
「仕方ないだろうがwwwwwwwwww マジで美人なんだからよwwwwwwwww」
「褒めても何もでないぞwwwwwwwwwwww」
学生時代のように語尾に芝生を生やしながら話す。
この感覚が懐かしくて、楽しくてたまらない。
一通り話が盛り上がってくると、他の仲間も続々と集まり始めた。
止まったままだったこの町での時間が、10年の時を経てまた動き始める。
ちなみにその後同窓会の酒の席で今日のナンパ騒動はきっちりと報告され、笑いの種になったのは言うまでもない。
『以上が新郎新婦主演によります、二人の再会の思い出ビデオでした。』
会場から笑いと拍手が巻き起こる。
「まさかお前と結婚することになるとはな。」
「まあいいじゃないか。 嫌じゃないだろ?」
「当然。」
そんなこんなで更に仲が深まった俺と拓海は今年結婚することになった。
周りの皆も祝福してくれて、俺は今最高に幸せだと思う。
「というか拓海…じゃないや拓美。」
「どうした?」
「いい加減男言葉はやめろ。 今日からお前は俺の妻なんだぞ?」
「ま、しゃーねーか。 宜しくお願いしますね、あ・な・た?」
会場から野次と口笛が鳴り響く。
あの日のように真っ白な手袋につつまれた拓美の手を引き寄せ、見せ付けるようにキスをする。
長い長いキスの後、会場からちらほらとため息がこぼれた。
「お前…泣いてるのか?」
「ちげーよバカ! マスカラが目に入ったんだよ!」
そんな拓美の言い草に不意に笑みが零れてしまう。
その涙を指でそっと拭った後、俺は再びキスをした。
動き出した時間がまた止まってしまいそうなほど、長く、甘く、幸せなキスを―――…
以上になります。
また女体化成分が薄いけど気にしない方向で。
最終更新:2008年09月10日 01:55