「うぃーっす。 おはよう。」
「おは…よう…?」
俺の誕生日は8月30日。
小中学校の頃は、周りの友達は宿題に追われて俺の誕生日を祝ってくれたことなどない。
高校になってもそれは変わらず、毎度寂しい誕生日を送っていた。
今年の誕生日も例に違わず親と過ごしたわけだが、今年の誕生日だけは一味違っていた。
そう、俺はこの秋から女の子として学校に通うことになったのだ。
「君、もしかして転校生? それなら職員室に行ったほうがいいと思うよ。」
我が物顔で自分のクラスに入るのは当然なのだが、誰も俺が女になったと知らないからか皆ぽかんとしている。
唯一話しかけてきたのが、隣の席の聡だった。
自分の新しい顔は鏡で嫌というほど見てみたが、かなり可愛い部類だと思う。
聡をじっと見つめてやると、仄かに頬に朱が刺していた。
「俺だよ俺。 青木智也。 どーてー乙ってこった。」
「マジかよ!? みずくせぇじゃねぇか智也… そんなに可愛くなるならもっと先にくべらっ!?」
興奮した様子でみょうちきりんなことを言い出す聡の顔を一蹴する。
完璧なフォームで顔面に直撃した俺の脚はいとも簡単に聡を吹き飛ばした。
「気色わりーこと言ってんじゃねぇよ、ったく…」
「ぐふっ… …白…か…」
313 :やんき~?の人 ◆k6xAlD3ocI :2007/10/07(日) 11:11:44.57 ID:I1FmZf/m0
聡は何処か満足げな表情を浮かべガクリと倒れこんだ。
そういえば今日のぱんつは白だったな…
こいつは元男のぱんつでも、見れて相当嬉しかったんだろうな。
その表情が全てを物語っている気がした。
「おーいお前ら、席につけー。」
朝っぱらからアホに付き合っているとすぐ時間が経ってしまう。
俺は今朝早くに職員室に事情を説明しに行ったのだが、何処かあわただしそうだった。
そんなこんなでホームルームが始まったのはチャイムが鳴ってから2分後のことだった。
「皆もう知っていると思うが、青木が女体化してしまってな。 青木、ちと自己紹介でもするか?」
コレは担任なりの気配りなのだろう。
俺は拒否することもなく、教卓の方へと歩いていった。
「まあ、こんなナリになっちまったけど皆宜しく頼む。 名前は智也から智代に変わっちまったが、どっちで呼んでくれても構わない。」
小さな拍手がクラスから零れる。
どうやらこのクラスは俺をのけ者にする気はないらしい。
「あと急な話なんだが、今日からこのクラスに新しい仲間が加わることになった。 入ってきたまえ。」
「にーはぉ! ワタシりー・しゃおめいアルネ! 皆サンヨロシ!」
突然巻き起こるチャイナ・ストームにこのクラスの時間が止まった気がした。
ドアから入ってきた女の子は漫画に出てくるエセ中国人のような喋り方で。
お団子ヘアーにシニョンキャップというどう見ても時代錯誤な出で立ちで。
おまけに超がつくほど飛びっきりの美少女だったのだ。
314 :やんき~?の人 ◆k6xAlD3ocI :2007/10/07(日) 11:12:34.12 ID:I1FmZf/m0
「あいや~? 日本人はこいう口調の中国人大好きアルってきいたアルが…」
「見ての通り、中国からの留学生だ。 ちょっと日本の常識とは外れているが、皆仲良くしてやってくれ。
それじゃ、先生は職員室に戻る。」
それだけ言うと担任は無責任にも転校生を放置したまま職員室へと帰っていった。
その後転校生はもちろん質問攻めに会い、クラスでのあだ名は「りーさん」ではなく「しゃおめいちゃん」となった。
「しっかし今期はラッキーだなぁ。 可愛い女の子が二人も増えたなんて。」
「あいや~? ワタシの他にも転校生いるアルか?」
「いや、そこに座ってる仏頂面のかわいこちゃんは元々男でさ。」
「かわいこちゃんはよせ…しかも死語だろそれ…」
にこにこと楽しそうに笑みを浮かべながら話す聡にはため息しか出てこない。
転校生も呆れるかと思いきや、にこにこと笑顔を浮かべながら俺の方に近づいてきた。
「アナタ、男戻りたいアルか?」
「…は? まあ、そりゃ戻りたいが…」
「だたら、ヨイ方法アルヨ!」
転校生はにぱっとまるで花が咲いたような笑顔を浮かべるとポケットを弄り始めた。
ごそごそと数瞬ポケットを弄繰り回した後、小さな布袋を取り出した。
中身は飴玉サイズの小さな黒い丸薬のようなものだった。
「じゅんぐぉぅすーちぇんにぇんの歴史、甘く見ないヨロシ。 コレ食べるアルヨ。」
俺の耳は中国語など聞いたこともない。
お陰で最初何を言っているのかわからなかったが、とりあえず中国四千年の歴史TUEEEということらしい。
元々戻る方法などないと思っていたんだ。
ダメ元と割り切って、その丸薬を口の中に放り込んだ。
315 :やんき~?の人 ◆k6xAlD3ocI :2007/10/07(日) 11:12:56.54 ID:I1FmZf/m0
「…む…結構甘いんだな…」
「噛まずに飲み込むアルネ。」
言われたとおりに噛まずにその丸薬を飲み込む。
喉に引っかかるかと思ったが、意外とすんなり喉を通ってくれた。
「これでどうな…る……!?」
ドクン、とまるで体が全て心臓になってしまったと錯覚するほど鼓動が大きく耳に響く。
ドクン、ドクンと徐々に俺の心拍数は上がっていく。
体が焼けそうに熱い。
「……み……ず……」
熱を帯びた体は本能的に水を求めそれを口から発する。
だが俺が完全に言い切る前に俺の意識は何処か遠くへ飛んでしまっていた。
目が覚めると俺は保健室のベッドに寝かされていた。
横には聡としゃおめいちゃんが心配そうな表情で俺を覗き込んでいた。
「ゴメンアルネ…まさか倒れるなんておもわなかたアルヨ…」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべる彼女に、俺は苦笑を浮かべながら”別にいいって”と表すように手を振った。
何処かほっとしたのか彼女は小さく笑みを浮かべた。
対照的に、聡は複雑そうな表情を浮かべていた。
「それで、俺は男に……」
「なってないな。というかむしろ…」
316 :やんき~?の人 ◆k6xAlD3ocI :2007/10/07(日) 11:13:22.03 ID:I1FmZf/m0
まあ世の中そんなに上手くはいかないということか。
元々ダメ元だったとはいえ、少し切ない気分になってくる。
体をゆっくりと起こすと、やけに体が重たく感じた。
「言いにくいアルが… ”ないしゃおだくーにゃん”が”ないだぁだくーにゃん”になたアルヨ…」
「はい……?」
「女乃小的姑娘…つまりは貧乳の女の子。 女乃大的姑娘…いわゆるきょぬーの女の子、だ。」
聡は中国語がわかるのだろうか、その説明を受けてはっとした。
体が重たく感じたのは脳が働いていないからではなく、物理的に重くなっていたのだ。
それも、一部分が急激に。
俺は女体化した後はブラも殆ど必要ないほど貧乳で助かったと思っていたのだが、今は視線を下げると二つの山しか見えない。
ブラウスのボタンは見事に弾け飛んでいて、ベストを着ていなければ胸丸出しの状態だったことだろう。
「あ、あっるえええええ!?」
「正に中国四千年の神秘だな。 よかったな、コレで男にモテまくるぞ。」
「笑い事じゃねぇよ……!」
にこにこと笑みを浮かべる聡をとりあえずぶん殴った。
吹き飛ぶ聡、揺れる胸、そして襲い来る激痛。
俺は胸を抱え込んでうずくまる羽目になってしまった。
「ホント申し訳ないアル… 日本人には逆効果だたアルネ…」
「まあ…元々期待はしてなかったからな。 どうでもいいさ。」
また泣き出しそうになった彼女の頭に手をぽんっと置いてやる。
やはり可愛い子は笑っていた方が可愛いものだ。
美人なら泣き顔も絵になるのかもしれないが…。
317 :やんき~?の人 ◆k6xAlD3ocI :2007/10/07(日) 11:14:17.67 ID:I1FmZf/m0
次の日学校に行くとそれはそれは大騒ぎになったものだ。
見知らぬ男子に告白されるわナンパされるわでてんやわんやの一日だった。
まあ、商店街のおじさんがよくおまけしてくれるようになったから、巨乳も案外悪くないのかもしれない。
肩こりと男の視線に悩まされる以外は………。
最終更新:2008年09月10日 01:56