5 :やんき~?の人 ◆k6xAlD3ocI :2008/04/12(土) 20:35:36.11 ID:YZVRZVQGO
童貞を捨てて早10年。
彼女もいない俺に、両親は見合い話を持ってきた。
最初は乗り気じゃなかったが、見合い写真を見た瞬間俺の気持ちはガラリと変わってしまった。
なぜなら、相手の女性は超がつくほどの美人だったからだ。
見合い当日、生憎の雨模様。
だが俺の心は晴れ渡っていた。
期待と緊張で喉が乾く。
今日二回目のコーヒーのおかわりを注文した。
それが来るのとほぼ同時に、向こうさん方がやってきた。
「本日はお日柄も良く…」
そんなお決まりの台詞から、お見合いは始まった。
続きはまた今度
131 :やんき~?の人 ◆k6xAlD3ocI :2008/04/13(日) 20:22:19.37 ID:lRelFPe9O
艶やかな着物に身を包んだ黒髪の美人。
落ち着いた様子ではあるものの、少し伏し目がちなのはあまり乗り気ではないからだろうか。
そんなことを考えながらコーヒーに手を伸ばそうとした瞬間、母に脇腹をこづかれた。
思えば何も話していない。
それを打診したかったのだろう。
「はじめまして。長峰渡(ながみね わたる)です。」
「…ぁ…桜花美咲(おうか みさき)です…」
小さな声で挨拶をしながらぺこりと頭を下げた彼女はとても可愛らしく思えた。
ふと、俺たちの名前が何だか似ていることに気が付いた。
「長い峰を渡る。桜の花が美しく咲く。なんだか、名前が少し似ている気がしますね。」
「…ぁ…本当、ですね…」
淡く微笑む彼女はとても綺麗だと思える。
そして、そんな可愛い声で息の抜けるような声を出さないでほしい。
正直理性が吹き飛びそうだ。
「あの、ご趣味は?」
これまた定番の文句で、俺は話を切り出した。
つづきはまた明日
77 :やんき~の人 ◆k6xAlD3ocI :2008/04/16(水) 19:16:09.16 ID:xTO9Rn3rO
「…ぁ…あの、料理とか、よく作ります…」
「奇遇ですね。僕も料理大好きなんですよ。最近作ったのは~…」
~一時間経過~
「…そこは、私は砕いたアーモンドとか入れてみたりしました…」
「なるほど。それなら深めにローストすればさらに~…」
~更に一時間経過~
「えーと、そろそろ料理の話は置いておいてもらってもいいかしら?」
母のそんな一言で我に返ると、かなりの時間が過ぎていた。
うちの両親も、美咲さんのご両親も苦笑を浮かべていた。
78 :やんき~の人 ◆k6xAlD3ocI :2008/04/16(水) 19:22:03.76 ID:xTO9Rn3rO
「まぁ、二人の相性が良いのは十分わかった。なにせこんなに饒舌な美咲を見たのは久しぶりだからねぇ。」
「本当ですね。でも、それは置いておいて、渡さんに大切なお話があるんです。」
なんだろう?と尋ねるように首を少しだけ傾げた。
美咲さんのご両親は急に神妙な面持ちになって俺に答えてくれた。
「実はね、美咲は元々男の子だったの。本当は事前に話しておくべきなんでしょうけど、機会がなくって…」
そういえばそんな病気もあったなぁ。
社会に浸透しすぎていて忘れていたが、確かに女体化している男性は多い。
美咲さんもその一人、ということか。
俺は一度深呼吸をしてコーヒーを飲もうとしたが、カップの中身は空っぽだった。
カチャリ、乾いた陶器の音を鳴らした後、俺はゆっくりと口を開いた。
「元々男だとか、女だとか、そういうのは特に気にしていませんよ。過去がどうであれ、美咲さんは今は素敵な女性じゃないですか。」
これは建前ではなく、本当の気持ちだ。
真っ直ぐに美咲さんのご両親を見つめて放ったその言葉を聞いた美咲さんは…
つづく。
53 :やんき~の人 ◆k6xAlD3ocI :2008/04/20(日) 20:08:26.53 ID:9qW+BxsNO
泣いていた。
ぽろぽろと、大粒の涙を流して。
「…っ…私、そういう風に言ってくれる人…いないと…思っ、…て…ました…」
涙が止まらない様子から相当苦労してきたのがうかがえた。
美咲さんに釣られたのか、お義母さんも涙を流していた。
「お父さん、お母さん…私、私…っ…この人となら…結婚したい、です…」
瞬間、目が点になった。
もちろん、俺の両親も同じだ。
ぽかんとしていると、美咲さんのお父さんが静寂を破った。
「…と、言っているが、渡君はうちの娘をもらってくれるかい?」
優しくほほ笑みながら言われたその言葉に、俺は一言だけ返事をした。
「よろこんで。」
こうして、俺は知り合って3時間足らずの人と結婚することになったのだった。
第一部:「お見合い」 完
最終更新:2008年09月10日 01:59